一般演題(ポスター発表) 5月26日(日)午後(14:00〜16:36) 1)スケジュール ポスター発表D(Sun-P1-14:00) 14:00〜15:12 実態調査2 座長:宮崎彰吾 高野道代 087 世界マスターズ水泳選手権2023九州大会 ボディケア報告 〜日本人と外国人選手の意識調査〜 088 強化クラブ女性アスリートに対する健康状態や鍼灸に関する調査 089 開業鍼灸院における鍼灸施術を離脱する要因のアンケー ト調査 090 統合医療施設の卒後研修修了者を対象としたアンケート調査 091 湘南慶育病院鍼灸科における受診動機の解析 092 オンラインを活用した開業鍼灸師による共同研究の実施(第2報) 多施設での症例集積研究を題材として 15:12〜16:12 実態調査3 座長:宮嵜潤二 仲村正子 093 無料温灸器配布によるレディース鍼灸認知への影響 094 地域鍼灸院と漢方診療を行う医師との医療連携の取り組み 095 鍼灸院におけるうつと不安症状を有する患者の実態調査(第3報) 電子システムを用いた集積 096 看護介護職員が有する自覚症状に対する自己対処法アンケート調査 097 冷え症とバター摂取頻度との関連:横断研究 ポスター発表E(Sun-P2-14:00) 14:00〜15:12 教育1 座長:戸村多郎 成島朋美 111 あはき教員養成機関の学生への生成AIの認識や活用状況等の検討 112 鍼灸教育において教材の特性が及ぼす学習に及ぼす影 響について 113 統合医療講義を受けて医学生は何に対し興味や関心を 示したか? 114 解剖学学習アプリの月次ダウンロード変化とユーザー特徴の分析 115 呉竹学園東洋医学臨床研究所での臨床実習における学びの検討 116 鍼灸の歴史教育に現代の視点を取り入れた教育効果 Chat GPT-4を用いた学生レポートの分析 15:12〜15:36 教育2 座長:中村真通 117 脳卒中生活期患者への鍼灸施術を実現する職員研修に関する調査 118 鍼灸養成課程における多職種連携教育の必要性 実習アンケート調査から 119 伝統医療従事者に必要なコンピテンシー インタビュー調査より得られた結果 15:48〜16:36 教育3 座長:河井正隆 120 グラフ文書を用いた鍼灸師向けオンライン学習支援に関する検討 121 脈診訓練法の開発(第25報) 脈診習得法(MAM)による脈診習得の実際 122 山崎良齋著『最新鍼灸医学教科書』における「鍼灸学」 について 123 オンライン授業と対面授業での習熟度比較 ポスター発表F(Sun-P3-14:00) 14:00〜14:48 運動器1 座長:水出靖 137 頚部経穴の内部の可視化及び3Dモデルの製作(第2報) 後頸部経穴と筋・椎骨動脈の立体的認識 138 運動負荷による筋硬度変化と鍼通電が筋硬度に与える影響について 139 慢性肩こり患者における鍼治療の効果の意味に関する質的研究 140 肩こりに対する鍼治療の影響 触診と超音波エラストグラフィを指標として 14:48〜15:36 運動器2  座長:高梨知揚 141 東洋医学的な視点で治療した下肢痛の1例 142 太白穴への円皮鍼刺激がヒラメ筋の筋緊張に与える変化の検討 143 太白穴への置鍼刺激がヒラメ筋の筋緊張に与える変化 144 足関節可動域に対する鍼治療効果のレビュー 15:36〜16:00 泌尿器科領域  座長:伊藤千展 145 膀胱痛症候群に鍼灸治療が有効であった1症例 146 夜間頻尿に対するへの鍼治療の1症例(第2報)中りょう穴への長期施術の経過観察 ポスター発表G(Sun-P4-14:00) 14:00〜15:00 小児科領域  座長:尾崎朋文 桐浴眞智子 162 頭痛により不登校となった中学生男児への小児はり灸治療の1症例 163 小児のアトピー性皮膚炎のそう痒感にてい鍼治療が著効した1症例 164 ストレスによる胸痛のある児に対する鍼治療鍼を用いた てい鍼治療が有効であった1例 165 伊勢地域における「疳切り」の調査 166 症状の聴取に工夫を要した小児片頭痛に対する鍼灸治療の一症例 15:00〜15:48 頭顔面部の疼痛  座長:石山すみれ 167 左側上下顎臼歯部の痛みに対して鍼治療を行った1症例 歯原性歯痛と非歯原性歯痛の併発疑い 168 持続性特発性顔面痛と診断された患者に対する鍼治療の1症例 169 オトガイ神経知覚異常患者に対する鍼灸治療 170 下歯槽神経損傷に伴う知覚鈍麻・痺れに対する鍼治療の1症例 15:48〜16:36 免疫・アレルギー  座長:江川雅人 171 鍼灸刺激による口腔内免疫活性の変化 172 ギラン・バレー症候群によるしびれに鍼治療が有効であった1症例 173 上頸神経節置鍼法を用いたアトピー性皮膚炎の一症例 (第2報) 174 アトピー性皮膚炎に対する鍼治療 患者記入質問票で重症と評価した1症例 2)各抄録 ポスター発表D(Sun-P1-14:00) 14:00〜15:12 実態調査2 座長:宮崎彰吾 高野道代 087(14:00) 世界マスターズ水泳選手権2023九州大会 ボディケア報告 〜日本人と外国人選手の意識調査〜 1)東雲鍼灸治療院 2)(公社)福岡県鍼灸マッサージ師会福岡スポーツ鍼トレーナー部会 3)(公社)全日本鍼灸マッサージ師会スポーツケア委員会 4)関西医療大学東洋医学研究センター仲嶋隆史 1,2,3)、吉野亮子 4) 【目的】令和5年8月4日〜11日開催された、世界マスターズ水泳選手権2023九州大会に出場する日本人を含む世界各国の参加選手約1500名に対するはり、マッサージ、ストレッチなどのボディケアを行った。予診カルテから日本人選手と外国人選手の違いについて検討することを目的とした。 【方法】ボディケアを受ける際にカルテを作成し、その中の項目で現在どこが気になり、日頃どこかでボディケアを受診しているか受けているかどうかを聞く項目に記載してもらった。予診カルテのデータを入力し、調査項目ごとの記述統計量を算出した。次に利用者の特性、実施内容について各項目間の関連を調べるためにクロス集計、χ二乗検定を行った。データは名前を除いたエクセルデータであり、個人が特定できないものである。分析には SPSS Statisticas23を使用し、有意水準は0.05とした。 【結果】利用者のうち日本人選手は983人(67.4%)、外国人選手は473人(32.4%)で、年代別では30歳台、40歳台、50歳台がそれぞれ約 20%であった。日本人選手は腰部と臀部、外国人選手は足の甲、裏の訴えが多かった。また外国人選手の方が日ごろから病院、鍼灸院、整骨院の他の様々なところでボディケアを行っている人の割合が多かった。 【考察】日本人選手と外国人選手において訴える部位に違いが見られた。外国人選手は病院、鍼灸院、整骨院ではなくそれ以外の施術を受けていることから、カイロプラクティック、パーソナルな施術を日ごろから行っているのか、海外には鍼灸や整骨院といった類の施術所がメジャーではないことも考えられ、体型や教育の他、文化的、社会的背景の違いが示唆された。また日本人選手は整骨院が圧倒的多かったことはまだ鍼灸、マッサージの受療率がかなり低いことがここでも露呈した。 キーワード:ボディケア、鍼・マッサージ・ストレッチ、日本人と外国人 088(14:12) 強化クラブ女性アスリートに対する健康状態や鍼灸に関する調査 新潟医療福祉大学リハビリテーション学部 鍼灸健康学科 高野道代、粕谷大智 【目的】新潟医療福祉大学では、女性アスリートの支援の一環とし女性が気になる美容面と女性特有の身体問題にセルフケアを通し、競技力の向上だけでなく心身問題を解決につなげることを目的に、女性アスリートを対象としたセミナーを実施した。そこでアスリートが考える身体の悩み、捉え方、鍼灸に対する認知について調査したので報告する。 【方法】対象はセミナーに参加した女性アスリートや各監督・コーチなど35名、実施期間は2023年6月22日昼休み(対面)に開催した。セミナー内容は「女性が気になる美容面と女性特有の身体問題に対するセルフケア(35分)」とし、美容についての講座、耳ツボの体験、女性特有の身体問題に対するセルフケア実践に加えGoogleフォームで無記名によるアンケートを実施した。 【結果】回答は 18名/35名(回答率 51.4%)。『年齢』は「18歳」「21歳」27.8%、「20歳」22.2%、『ここ半年で感じる悩み』では「生理痛」38.9%、「貧血」「頭痛」 27.8%、「PMS」「精神的な緊張」「冷え性」「悩みはない」16.7%、「生理不順」「競技に対する不安」「摂食障害」11.1%であった。『悩みについての対応』は「特に相談したいと思わない」44.4%、「悩みはない」38.9%、「どこかに相談したい」16.7%、「現在通院中」5.6%であった。『鍼灸について』は「鍼灸という言葉は聴いたことがあった」66.7%、「鍼灸治療を受けたことがある」 33.3%であった。 【考察・結語】本調査では回答した半数以上の者が悩みを抱えつつも多くの者が悩みについての対応は相談したいと思わないという結果であった。女性アスリートが抱える身体の問題は主にエネルギー不足、月経不順や無月経、骨粗鬆症などがあるがこれまで知識が浸透せずに対策が遅れていることが指摘されている。本結果からも自身の身体に対して目を向けることが十分でないことが明らかとなり、今後更なるフェムケアを含めた支援が必要と考えられた。 キーワード:女性アスリート、身体の悩み、鍼灸、実態調査、今後の課題 089(14:24) 開業鍼灸院における鍼灸施術を離脱する要因のアンケー ト調査 1)ここちめいど 2)らしんどう 3)東京有明医療大学保健医療学部鍼灸学科 4)はりきゅう処ここちめいど 5)玉川大学工学部ソフトウェアサイエンス学科 6)理化学研究所革新知能統合研究センター 分散型ビッグデータチーム 岩澤拓也 1,2)、松浦悠人 3)、米倉まな 1,4)、柴田健一 5,6) 【目的】鍼灸院では突然、患者の来院が中断することがある。今回、過去に鍼灸の受療歴があり、らしんどう(以下、当院)に通院中の患者を対象に鍼灸施術の離脱理由、再受診動機と懸念点を調査した。 【方法】当院に2023年12月1~27日に来院し、過去に鍼灸の受療歴がある患者を対象に Google formによる匿名のアンケートを実施した。アンケートの研究利用について全例から同意を得た。 【結果】22例中18例(男性4例,女性14例)から回答を得た(回答率82%)。年齢は30代、40代が全体の83.3%であった。前回受けた鍼灸治療の満足度は、悪い6例(33.3%)、良い 5例(27.8%)、普通 4例(22.2%)、とても良い3例(16.7%)だった。離脱理由は、施術効果が感じられなかった・鍼灸が痛いまたは不快だった5例(27%)、引っ越しにより通院が困難になった 4例(22.2%)、施術内容に不安を感じた・施術費用が高く続けられなかった3例( 16.7%)であった。鍼灸再受診動機は、症状が再発または悪化した8例(44.4%)、過去に受けていた鍼灸に効果があった・新しい鍼灸師や施設を見つけ再度試した・家族や友人からのアドバイス・新たな健康問題が発生し鍼灸が効果的と考えた5例(27.8%)であった。鍼灸治療を再開する際の懸念点は、治療効果が得られないかもしれない 11例(61.1%)、施術費用が高く継続できるかの不安 7例(38.9%)、施術者との相性やコミュニケーションの問題5例(27.8%)であった。 【考察および結語】過去に受療した鍼灸治療の満足度が高かった人は鍼灸自体に関係のない理由で継続が困難との回答傾向があった。一度鍼灸治療を中断しても症状が再発または悪化した際には鍼灸を再受診していた。しかし、費用対効果が重要視されるため、初回施術時の効果を実感できるかがリピートにつながると考える。 キーワード:開業鍼灸院、離脱理由、再受診動機、アンケート調査 090(14:36) 統合医療施設の卒後研修修了者を対象としたアンケート調査 1)筑波技術大学保健科学部附属東西医学統合医療センター 2)筑波技術大学保健科学部保健学科鍼灸学専攻 櫻庭陽1)、吉川一樹 1)、成島朋美 1)、鮎澤聡1,2) 【目的】筑波技術大学保健科学部附属東西医学統合医療センター(以下、当センター)は、医師をはじめとする多職種の医療スタッフと鍼灸あん摩マッサージ指圧(以下、あはき)師が協働する統合医療の臨床施設であり、特長を生かした卒後研修を行っている。今回、当センターの研修修了者を対象に、統合医療施設における鍼灸あん摩マッサージ指圧の卒後研修に関するアンケート調査を行った。 【方法】当センター研修修了者79名にインターネットフォームによるアンケートを依頼し、 25名から回答を得た(回答率31.6%)。期間は2022年1月25日から17日間とした。アンケート項目は、性別、保有資格と就労状況、入所時の年代や経験、研修時の参加日数と患者数および満足度、卒後研修の必要性と学ぶべきこと、当センターの研修プログラムに対する興味等である。 【結果】性別は男女各12、13名だった。全員が鍼灸師で、あん摩マッサージ指圧師は10名だった。4名(16.0%)が資格と関係の無い仕事をしていた。研修開始時の年齢は 20歳代(13名、52.0%)が最多で、 19名(76.0%)が資格取得直後に入所していた。平均外来参加日数は、 1年目が4.2日、2年目が3.0日、平均患者数は3.8名/日だった。研修の満足度は、 "満足(15名) "と"どちらかというと満足(9名) "をあわせて96.0%に達した。卒後研修の必要性は "個人に応じて必要 "が17名(68.0%)、最も学ぶべきことは "症状を改善できるあはきの施術技術 "が11名(44.0%)と最多だった。当センターのプログラムで最も興味が得られたのは、 "充実した患者数 "と"様々な症状を経験 "だった。 【考察】当センターの卒後研修の満足度は高かったが、統合医療施設の特長を生かしたプログラムが最大の魅力になってはいなかった。卒後研修のニーズは、多くの患者や様々な症状を経験して、効果的な施術技術を身につけることが優先されると考えた。 キーワード:統合医療、卒後研修、鍼灸あん摩マッサージ指圧 091(14:48) 湘南慶育病院鍼灸科における受診動機の解析 1)湘南慶育病院 2)株式会社メディケア鍼灸マッサージセンター 3)永遠の小顔 小川修平 1,2)、鈴木眞理 1)、青木奈美江 1)、三輪くみ子 1)、加倉井和美 1)、大高ちがや 1)、仙田昌子 1)、大内晃一 1)、鳥海春樹 1) 【目的】超高齢化社会では、医療ニーズが多様かつ複雑化している。このような状況において鍼灸は多角的な対応が可能な治療法であるが、受療者の鍼灸受診ハードルは高く、十分な活用はなされていない。本研究では地域に密着した総合病院である湘南慶育病院鍼灸科の現状から受診動機を解析した結果を報告する。 【方法】当院が開設された2017年11月から2021年10月末までに当院鍼灸科を受診した691人の初診時の情報と医療機関の紹介情報を院内の電子カルテから抽出し、年齢、性別、受診動機、主訴などの項目により分類し、傾向を考察した。 【結果】年齢は最低が5歳、最高が95歳、平均年齢は65歳であった。性別は男性が240人、女性が451人、受診動機は、動機不明の164人を除いた 527人のうち、知人や家族の紹介(口伝え)が41%、医師の紹介が25%、市の助成券が 10%、お灸教室などの普及活動が10%、病院の広報活動が 3%、ホームページ等のインターネット情報が2%、テレビが 1%であった。初診時の主訴は痛みが51%、こりが13%であった。 【考察】先行研究の矢野らは鍼灸療法を知るきっかけは主に口伝えであったと報告している。当院の受診動機においても最も多かったのは口伝えであった。当院の特徴としては、鍼灸科が病院内にあることによって医師・医療機関からの紹介が多いこと、当院所在地の藤沢市には無料で数回鍼灸療法が受けられる助成券があるため、それが受診動機になった件数が多いことが明らかになった。さらに当院では自宅でやって頂くことを目的としたお灸講座などの鍼灸体験イベントを多く行っており、これらも受診動機となった可能性が高い。 【結語】先行研究と同様に最も受診動機として多いのは口伝えであったが、医療機関内に鍼灸外来が設置されていること、医療機関を「場」とした鍼灸体験イベントによる普及活動を介在させることなどが当院において特徴的な鍼灸受診ハードルを下げる要因となっていると考える。 キーワード:地域医療、受療率、医師連携、鍼灸、セルフケア 092 オンラインを活用した開業鍼灸師による共同研究の実施(第2報) 多施設での症例集積研究を題材として 092 -Sun-P1-15:00 オンラインを活用した開業鍼灸師による共同研究の実施(第 2報)多施設での症例集積研究を題材として 1)ここちめいど 2)針灸かいしん堂 3)東京有明医療大学保健医療学部鍼灸学科 4)玉川大学工学部ソフトウェアサイエンス学科 5)理化学研究所革新知能統合研究センター分散型ビッグデータチーム 6)新潟医療福祉大学リハビリテーション学部鍼灸健康学科 7)田中はり灸療院 8)はりきゅう処ここちめいど 加藤久仁明 1,2)、松浦悠人 3)、柴田健一 4,5)、金子聡一郎 1,6)、小坂知世 1,7)、米倉まな 1,8) 【目的】開業鍼灸院と研究機関が協力することで症例数確保の課題を克服できる可能性があり、今後も多施設で実施されることが望ましい。そこでメンタル疾患に興味を持つ鍼灸師のグループが研究機関と共同で行った研究発表について、どのように遂行されたかを分析した。【方法】第71回全日本鍼灸学会学術大会(2022年,東京大会)にて発表された「鍼灸院におけるうつと不安症状を有する患者の実態調査(第1報)多施設での電子システムを用いた集積の試み」の発表に関わる当時利用したSNSの記録などから分析した。【結果】当該の研究に対してグループ内では25名が関心を示し、うち11名が研究分担者であった。外部の協力者は7名で内4名はグループと同じ SNSを共有した。データ集積には10施設が参加し、各居住地は愛知県が3か所、神奈川県が2か所、三重県、宮城県、広島県、新潟県、東京都が各1か所であった。SNSの利用期間は2021年2月3日〜 2022年7月24日で、書込み回数は合計3146回、最多は筆頭著者の 1160回であり、次いで研究指導役の374回、3位がマネジメント・データ解析役の337回であった。当研究に関するミーティングはWeb会議システムにて合計 45回実施された。グループ内における役割はリーダー、症例・調査報告、マネジメント、データ集積と解析、議事録作成、抄録作成、発表資料の作成、発表に分けられた。また大学教員と情報学博士、電子システムの専門家の協力のもと遂行された。【考察および結語】オンラインを活用した結果、物理的な距離は障害とはならなかった。ログからは電子システムの導入について理解度の差や問診票のカスタマイズの相談など専門家のフォローは必須であったことが示唆された。また書き込み回数の結果から、約1/3を占めるリーダーの牽引力は大きいが、研究指導役やマネジメント・データ集積の担当者の書き込みが次いで多いことから、その役割の重要性が示唆された。 キーワード:開業鍼灸院、多施設、オンライン、共同研究、データ集積 15:12〜16:12 実態調査3 座長:宮嵜潤二 仲村正子 093(15:12) 無料温灸器配布によるレディース鍼灸認知への影響 1)森ノ宮医療大学医療技術学部鍼灸学科 2)森ノ宮医療大学保健医療学部鍼灸学科 仲村正子 1)、金本明梨 2) 【目的】「生理の貧困」は経済的な貧困だけでなく、適切なケアや知識にアクセスできないことや、機会を失うことなども含まれる。鍼灸治療は月経痛や PMSの予防に有用である可能性が示されているのにも関わらず、受療者は少ない。そこで本研究では、鍼灸啓発を目的として温灸器を無料配布し、使用感や意識変化について調査した。 【方法】理学療法学科と鍼灸学科の女子学生210名を対象とし、無料で使用できる温灸器と生理用品を女子トイレに設置した。設置期間5ヶ月を経た後、アンケート調査を実施した。調査項目は、温灸器配布に関する項目とレディース鍼灸の認知度に関する項目とした。レディース鍼灸認知度の無料温灸器設置前後での比較にはウィルコクソン符号順位検定を行った。 【結果】5ヶ月間で配布した温灸器は 2156個であった。回答者は 160名(回答率76.2%、19.4±1.1歳)であった。無料配布されていた温灸器は、使用しなかった61.9%、使用した38.1%であった。使用した理由は、生理痛以外の身体症状があった47.5%、身体症状はないが温灸器に興味があった 45.9%、生理痛があった26.2%で、使用しなかった理由は、在庫がなく使用できなかった32.3%、設置されていることを知らなかった29.3%、生理痛や身体症状がなかった28.3%であった。無料温灸器設置前後で月経関連症状に対する鍼灸の有効性に関する認識を比較すると、設置前より設置後で有効であるという認識の者の割合が有意に上昇した(P<0.01)。 【考察】レディース鍼灸の認知は設置前後で比較し28.8%上昇した。トイレで温灸器を配布するという方法はレディース鍼灸の啓発に対して有効であると考えられる。 【結語】今後は無料生理用品や温灸器の設置を大学の全棟に拡大し、女子学生の生理の貧困に関する問題を解決できるよう検討を進めていく。 キーワード:温灸器、レディース鍼灸、アンケート調査、無料配布、太陽 094(15:24) 地域鍼灸院と漢方診療を行う医師との医療連携の取り組み 東京女子医科大学附属東洋医学研究所 水野公恵、蛯子慶三、木村容子、高田久実子、辻恭子、母袋信太郎、溝口香絵、高橋海人 【目的】当鍼灸臨床施設では、漢方診療を行う医師から地域の鍼灸院に関する情報提供の要望があり、2017年2月より「紹介できる鍼灸師リスト」(以下、リスト)を作成している。今回、リストの改良と運用の見直しを図るにあたり、漢方診療を行う医師と鍼灸師の医療連携の現状を探るため、リストの利用状況等についてアンケート調査を実施した。 【方法】リスト配布対象者である当研究所クリニックで漢方診療を行う医師22名に対して、当研究所クリニック以外の医療機関における使用状況、意見や要望などについて選択式と自由記載にて2023年12月にアンケートを実施した。 【結果】22名中21名の回答が得られた。リストの使用状況については、「使用したことがある」4名(19.0%)、「使用したことがない」13名(61.9%)、「リストを知らなかった」4名(19.0%)であった。使用した理由(複数回答可)として 4名中 4名が「患者からの要望」と回答した。使用しなかった理由(複数回答可)として 13名中 6名が「当研究所の鍼灸臨床施設を紹介しているから」、13名中5名が「紹介したい地域がリストに載っていないから」と回答した。リストを知らなかった4名中3名は「今後リストを使用したいと思う」と回答した。自由記載では、掲載地域の拡充、詳細な料金と鍼灸師のプロフィールの掲載などの内容に関することから、リストの電子化の希望といった使用方法に関すること、鍼灸師の掲載条件を知りたいなどの意見や要望がみられた。 【考察・結語】リストを使用する医師が約 20%いたことなどから、紹介リストがあるということで患者さんにすすめやすくなったと考えられた。また、鍼灸師との連携に前向きな医師が多く、ニーズの再確認ができた。医師からの意見や要望を取り入れたリストの作成ならびに継続的な情報提供が必要と思われた。 キーワード:医療連携、アンケート、鍼灸院、漢方診療を行う医師 095(15:36) 鍼灸院におけるうつと不安症状を有する患者の実態調査(第3報) 電子システムを用いた集積 1)ここちめいど 2)はりきゅう処ここちめいど 3)東京有明医療大学保健医療学部鍼灸学科 4)玉川大学工学部ソフトウェアサイエンス学科 5)理化学研究所革新知能統合研究センター 分散型ビッグデータチーム 6)市ヶ谷ひもろぎクリニック 米倉まな1,2)、松浦悠人3)、柴田健一4,5)、金子聡一郎1)、赤石頌伍1)、岩澤拓也1)、内田ちひろ1)、大杉美奈1)、加藤久仁明1)、小坂知世1)、近藤美貴1)、杉山英照1)、本郷誠司6)、木村友昭3)、坂井友実3) 【目的】鍼灸院に来院するうつと不安症状を有する患者の実態を明らかにする事を目的に、多施設開業鍼灸院で電子システムによるデータ測定を行った。 【方法】2021年11月1日〜2023年3月31日の期間、オンラインサロン「ここちめいど」に所属する開業鍼灸院10施設に来院した初診および再診患者を対象とした。患者情報の調査には電子カルテシステム(リピクル,株式会社 Carecle)の問診票を用い、予診機能にて事前送付または来院時に収集した。うつと不安症状の評価はひもろぎ自己記入式うつ尺度(HSDS)とひもろぎ自己記入式不安尺度(HSAS)を指標とし、電子評価システム(アンサポ,株式会社ブレーン)を用いて来院時に測定した。アンサポの測定情報は電子カルテに紐づき、電子カルテ上に保存された。なお、院内にポスターを掲示するとともに予診票に研究の説明を添付し、同意撤回の自由を説明した上で同意の有無を確認したうえで実施した。 【結果】470例が解析対象となった。対象の平均年齢は 43.9(13.5)(mean(S.D.)歳、男性157例、女性312例、その他1例。HSDSは13(7-18)中央値(四分位範囲))点、 HSASは12(6-17)点。自覚症状上位3つは眼精疲労158例(34%)、全身倦怠感86例(18%)、不安感82例(17%)。現在通院中の医療機関は、なし121例(26%)、内科116例(25%)、精神科/心療内科が60例(13%)であった。精神科/心療内科に受診歴がある患者の内、診断病名はうつ病が17例(28%)、罹病期間10年以上が15例(25%)、精神科/心療内科での治療内容は投薬が52例(86%)、治療満足度は「どちらでもない」が26例(43%)、受診動機は知人・家族に薦められた為が24例(40%)でそれぞれ最多であった。 【考察および結語】セッティング施設の特徴から限界付きの結果ではあるが、鍼灸院への来院患者のうち、13%が精神科/心療内科に受診していた。病歴の長いうつ状態の患者が薬物以外の治療法として鍼灸に期待し、来院していることが示唆された。 キーワード:多施設、開業鍼灸院、うつ症状、不安症状、電子システム 096(15:48) 看護介護職員が有する自覚症状に対する自己対処法アンケート調査 1)公益財団法人積善会曽我病院 2)ここちめいど 3)鍼灸マッサージ蕾 4)はりきゅう処ここちめいど 5)新潟医療福祉大学リハビリテーション学部鍼灸健康学科 足立恵子1)、足立修2,3)、米倉まな2,4)、金子聡一郎2,5) 【はじめに】看護師・介護職員は病院、介護施設、訪問看護ステーションなどに勤務し、食事介助、入浴介助、移乗動作、医師の診療介助などさまざまな業務を行っており精神的、身体的に過酷な状況にある。その影響から腰・背部痛などの身体症状や夜間勤務による睡眠障害、食欲不振や胃腸障害などを有していることが明らかになっている。本研究では看護師・介護職員の自覚症状およびその自己対処法を調査すると同時に鍼灸治療の利用状況の調査を行った。 【方法】調査対象:公益財団法人積善会曽我病院看護部(看護師、介護福祉士、看護助手)177名、調査方法:アンケートフォーム(Googleフォーム)、調査内容:年齢、臨床年数、自覚症状および対処法等、データ収集期間:2023年10月16日〜2023年12月10日。 【結果】24名(女性17名、男性7名)の回答を得た(回答率13.6%)。臨床年数の中央値は12.5年(範囲0-33)、職種は看護師が21名(87.5%)、21名(87.5%)が夜勤のある勤務態勢であった。16名(66.7%)が業務を阻害しうる症状を有しており、一番困っている症状は疲労(5名)、腰痛(5名)、睡眠障害・肩こり(3名)であった。19名(79.2%)が症状改善のための対処法を実行しており、9名(37.5%)が睡眠対処法としては最も多かった。鍼灸治療を対処法としていたのは2名(8.3%)であり、「行ったことがない」「分からないから」などが鍼灸を受けない理由として多かった。 【考察および結語】今回の調査では、看護師および介護職員の約4割は睡眠によって業務を阻害している症状に対応していた。しかし、睡眠障害を有しているケースもあり、その場合は自己対処が困難であると推測される。現状として看護師・看護職員の鍼灸の利用率は低いが、今後、それらの症状に対し鍼灸を利用してもらうためには、看護師・介護職員にまずは鍼灸について知ってもらうことが必要であると考えられた。 キーワード:看護師、介護職員、自覚症状、自己対処法、鍼灸利用状況 097(16:00) 冷え症とバター摂取頻度との関連:横断研究 1)慶應義塾大学医学部衛生学公衆衛生学 2)大阪国際大学短期大学部栄養学科 3)平成医療学園専門学校 4)平成クリニック 宮嵜潤二 1,2,3)、久木久美子 2)、久保益秀 3,4)、坂井孝2) 【目的】バターは飽和脂肪酸を含み心血管系への悪影響が報告されている。乳製品の冷え症に対する影響は東洋医学的な観点から議論がある。バターの摂取頻度と自覚的冷え症との関連について明らかとするため横断的に検討した。 【方法】対象は2014-2023年の調査に同意した18-70歳の男女583名を解析対象とした。欠損データ処理は連鎖方程式による多重代入法を用いて50セットの完全データセット、各代入プロセスのイテレーション数20回で欠損値を推定した。調査参加者には生活習慣関連の質問票を回答させた。バター摂取は自己記入式の回答で、摂取頻度を「ほとんど食べない」「1-2回/月」「1-2回/週」「3-4回/週以上」でカテゴリー化した。冷え症は「寒がりである」「手足が冷える」の両方を回答した者とした。解析は「ほとんど食べない」を基準とした各摂取頻度カテゴリーによる冷え症のリスクを、年齢、性別、 BMI、飲酒、喫煙、睡眠時間、運動、婚姻、ストレス、食事摂取頻度(乳製品、肉、フライ、野菜、鮮魚)で共変量調整した modified Poisson回帰モデルにより発生率比( Incidence Rate Ratios;IRRs)と95%信頼区間( Confidence Intervals;CIs)で推定した。解析ソフトは R version 4.3.2を使用した。 【結果】本研究で冷え症だった者の欠損補完後の中央値は109名( 18.7%)であった。バターを「ほとんど食べない」を基準にした「 1-2回/週」「3-4回/週以上」摂取頻度の冷え症の多変量調整 IRR(95%CI)はそれぞれ 1.62(1.01-2.58)、2.12(1.26-3.59)、傾向性の p=0.017、男性で 7.32(1.39-38.60)、7.08(1.63-30.9)、傾向性の p=0.040であった。また 30歳未満の「 3-4回/週以上」で 3.79(1.34-10.80)、傾向性の p=0.035であった。女性および 30歳以上は関連を示さなかった。この結果は欠損データを除外した感度解析でも同様であった。 【考察・結語】冷え症はバター摂取頻度との間で正に関連し、男性、若年で顕著であった。 キーワード:冷え症、バター摂取、生活習慣、多重代入、横断研究 ポスター発表E(Sun-P2-14:00) 14:00〜15:12 教育1 座長:戸村多郎 成島朋美 111(14:00) あはき教員養成機関の学生への生成AIの認識や活用状況等の検討 1)明治国際医療大学基礎教養講座 2)明治国際医療大学鍼灸学講座 3)明治東洋医学院専門学校教員養成学科 河井正隆 1)、角谷英治 2,3) 【目的】現在、生成AIの影響は広範囲に及び、学校教育においてもその活用についてさまざまな議論が行われている。今後の生成AIの活用について考える際、将来のあはき界の担い手である、あはき教員養成機関に在籍する学生はどのように理解等しているのか、その点を把握することは今後の議論を推し進める一助となり得る。そこで本研究の目的は、あはき教員養成機関の学生に対してアンケート調査を実施し、生成AIの認識や活用経験等の実態を明らかにすることである。 【方法】全国4校の学生103名にアンケート調査を実施した。調査は Google formを活用し無記名で令和5年10〜11月に実施した。設問項目は、回答者属性、生成AIの認識度、活用状況、情緒的・認知的側面、学習スキルに与える影響、自由記述の6項目である。なお、本学ヒト研究倫理審査委員会の承認を得て実施した(承認番号:2023-042)。 【結果】回収率は55.3%(57名)であった。結果の一部を次に述べる。 1.生成 AIの活用(Chat GPTなど):4件法で回答比率の高い2つは「活用していない」 56.1%、「あまり活用していない」 22.8%であった。 2.生成AIを教育現場で活用する是非:5件法で回答比率の高い 2つは「まあ賛成する」 47.4%、「賛成する」と「わからない」は 21.2%であった。 3.生成AIを教材として活用する有用性: 5件法で回答比率の高い 2つは「まあ有用と思う」 45.6%、「わからない」 24.6%であった。 【考察】学生は生成AIをほとんど活用していないことが分かった。そして、意見が分かれるものの、生成AIを教育現場で活用する是非については半数以上の学生が肯定的に捉え、その活用への期待が示唆された。また、生成AIの教材としての有用性は、やや有用と考えていることが判明した。ただし、これらの解釈は、生成AIの活用度に依存していることを念頭に置く必要がある。 【結語】今回の調査から、学生の生成AIへの認識や活用経験などの実態が明らかとなった。 キーワード:生成 AI、あはき教員養成機関、学生、アンケート調査 112(14:12) 鍼灸教育において教材の特性が及ぼす学習に及ぼす影 響について 1)明治国際医療大学大学院鍼灸学研究科 2)明治国際医療大学基礎教養講座 宮城凌央 1)、河井正隆 2) 【目的】近年、新型コロナウイルスの影響により、タブレットやパソコンなどのデバイスが広く活用され、同時に電子媒体を使った資料共有が増加した。学校教育においてもノートパソコンやタブレットなどを用いたオンライン授業が増加し、これに伴い紙媒体の教材が電子媒体に変化している。そこで本研究の目的は、学生アンケートを通して電子媒体と紙媒体が学習に及ぼす影響を明らかにし、今後の鍼灸教育に有益な知見を得ることである。 【方法】 X大学鍼灸学部 1年生を対象に、Google formsにて意識調査を実施した。また、Google formsには本調査は無記名方式で、回答により本調査に了承したと判断する旨などを明記した。調査は令和4年7月とした。アンケート内容では、紙媒体を「教科書」、電子媒体を「タブレット」「ノートパソコン」として、それらが学習に及ぼす影響を問うた。本研究は明治国際医療大学ヒト研究倫理審査委員会(No.2023-021)の承認を受け実施した。 【結果】学生41名から回答を得た(回収率100%)。回答結果を上位の順に一部述べる。 1.見やすいと感じる媒体:「タブレット」 39.0%(16名)、「教科書」 36.6%(15名)、「ノートパソコン」 24.4%(10名)であった。 2.読みやすいと感じる媒体:「教科書」 53.7%(22名)、「タブレット」 29.3%(12名)、「ノートパソコン」 17.1%(7名)であった。 3.記憶に残りやすい媒体:「教科書」 73.2%(30名)、「タブレット」19.5%(8名)、「ノートパソコン」 7.3%( 3名)であった。 【考察】これらの結果から、「教科書」が最も好まれる媒体で、読みやすさや記憶の残りやすさで高い評価を示した。一方、「タブレット」は見やすい媒体と考えられる。紙媒体と電子媒体を組み合わせるなど、多様な媒体の活用が学生の学習効果を向上させる可能性があると考えられる。 【結語】今回、紙媒体と電子媒体のそれぞれが学生の学習に及ぼす影響が明らかとなった。 キーワード:紙媒体、電子媒体、学生アンケート、鍼灸教育 113(14:24) 統合医療講義を受けて医学生は何に対し興味や関心を示したか? 1)東北大学病院総合地域医療教育支援部 2)新潟医療福祉大学リハビリテーション学部鍼灸健康学科 村上慶泰 1)、金子聡一郎 1,2)、石井祐三 1)、高山真1) 【目的】東北大学医学部では3年次に9時間の漢方医学系統講義を行っており、その中には鍼灸を主とする統合医療の講義がある。西洋医学中心のカリキュラムの中で鍼灸講義は特殊なものであると考えられ、受講した医学生が鍼灸に対してどのような印象を受けるかは定かでない。これを明らかにすることを目的に、本研究では講義後アンケートを解析した。 【方法】 X年度医学部第 3学年 119名が、鍼灸講義後に「講義で学んだこと」を自由記述式アンケートに記載した。7時間以上欠席した学生の回答は除外した。集計した文章データをテキストマイニングの手法で分析した。具体的には、文章データを単語や文節に区切った後、単語頻度解析、係り受け頻度解析(単語と単語の結びつき)、注目解析(ある単語に関係する単語を見つけ出す)等を実施した。 【結果】有効回答は 112名で、この文章データを解析対象とした。単語頻度解析では「補完代替医療」 32回、「鍼灸」 26回、「統合医療」 18回と多かった。形容詞+副詞だけに限定した単語頻度解析結果では「面白い」が8回と最も多くみられ、その回答内容は鍼灸に関する内容だった。係り受け頻度解析では、頻度の高い回答結果が得られなかった。 【考察】漢方医学系統講義後アンケート解析により、「補完代替医療」「統合医療」等が単語頻度上位にあり、教員が伝えたかった内容が学生にわっていたと考えられた。また「面白い」という単語が 8回出ており、鍼灸学生ではない医学生の中にも鍼灸に興味、関心を抱く人がいることが示された。係り受け頻度解析では低頻度の回答しか得られなかったため、今後の課題としてテキストマイニングに適したアンケートの取り方を工夫する必要があると考えた。 【結論】テキストマイニングにより医学生の鍼灸に対する興味や関心を見出すことができた。 キーワード:テキストマイニング、統合医療、鍼灸、卒前教育 114(14:36) 解剖学学習アプリの月次ダウンロード変化とユーザー特徴の分析 1)関西医療大学大学院 2)和歌山県立医科大学医学部衛生学教室 戸村多郎 1,2) 【目的】医療系の国家資格取得試験において出題される解剖学は、人体の構造を理解する上で重要な領域である。医学教育においてデジタルツールやアプリが果たす役割に期待が寄せられている。本研究は、これまでに開発した 7つの解剖学学習アプリのダウンロード傾向を調査し、医療系の学生や専門家がどのようにアプリを活用しているか分析することを目的とする。 【方法】2018年1月から2023年12月までの6年間にApp Storeでダウンロードされた iPhone向け解剖学学習アプリを対象にする。これらのアプリは日本語で提供され、主に「練習問題」と「資料集」の二つのアプリに大別され、国内外で利用可能である。 【結果】解剖学アプリの無料版と有料版の総ダウンロード数は103,574件であり、月ごとの6年平均数(標準偏差)は以下の通りである: 1月1210.0(442.9)、2月922.9(366.4)、3月755.3(380.8)、4月1385.4(724.6)、 5月1649.3(682.3)、 6月1952.7(858.1)、 7月2037.3(726.0)、8月1181.6(514.3)、9月951.9(368.7)、10月 941.6(390.8)、11月978.9(347.4)、12月829.6(336.0)。これらのデータから二峰性が確認できた。有料版では、「練習問題」が50.2%、「資料集」が49.8%とほぼ均等に利用されていた。国別では、日本が92.8%で最も多く、次いで中国、台湾、ベトナム、オーストラリア、大韓民国、香港、その他が続いた。 【考察】ダウンロード数が最も多い月は7月であり、最も少ないのは3月であった。4月から7月にかけての増加傾向は前期試験が主体であり、次いで1月が後期試験と国家試験に向けた需要が高まっていることが考えられる。ただし、研究の限界として、医療分野の詳細な特定が難しい点、iPhoneのみのデータであることが挙げられる。また、国によって年度の区切りが異なるが、主に日本でのダウンロードが多いため、結果への影響は限定的であると考えられる。 キーワード:解剖学、アプリケーションソフト、ダウンロード、月ごとの変化、ユーザーの特徴 115(14:48) 呉竹学園東洋医学臨床研究所での臨床実習における学びの検討 1)呉竹学園東洋医学臨床研究所 2)東京医療専門学校鍼灸・鍼灸マッサージ科 紀平晃功 1)、上原明仁 1)、藤田洋輔 2)、金子泰久 1) 【目的】呉竹学園東洋医学臨床研究所は臨床で鍼灸施術と運動療法を行っている。臨床実習は、鍼灸科学生に鍼灸施術を、柔整科学生に運動療法を教員指導の下、患者の呼び入れからクロージングまで学生1人に行わせる参加型臨床実習とした。本研究の目的は、学生の学びを検討し、次年度の実習指導に役立てることとした。 【方法】2023年4月から10月に行った 14回の臨床実習に参加した2年次学生(鍼灸科49人、柔整科48人)が実習後に提出したデイリーノート(日報)の「実習の学びと考察」を対象文章とし、質的研究で検討した。各科の平均文字数±標準偏差を求めた。また、テキストマイニングソフト KH Coder3を用いて各学科の上位10の頻出語と回数、単語同士の繋がりを表す共起関係を10回以上出現した単語で解析した。共起関係の強さはPearsonの相関係数を用い、絶対値の大きい上位 3位を抽出した。係数は -1に近いほど単語同士が近接して出現することを意味する。 【結果】文字数は鍼灸科 203.2±51.0(字)、柔整科 137.6±48.3だった。鍼灸科の頻出語と回数は患者 69(回)、思う 51、施術 37、検査 34、治療 33、聞く 32、学ぶ30、問診 30、自分 26、行う 25だった。柔整科は患者 51、問診 38、思う 31、良い 24、ストレッチ 22、実習 20、聞く 18、行う 16、エクササイズ 15、治療 13だった。共起関係は、鍼灸科は患者・思う -0.58、患者・治療 0.49、患者・施術 -0.46、柔整科はストレッチ・エクササイズ-0.61、患者・問診 -0.43、実習・思う 0.41の順だった。 【考察】両学科とも患者が最頻出語であり、学生は実習後に患者中心に内省したと考えられた。とくに鍼灸科では、共起関係の強い単語全てに患者を含んでおり、より患者中心の振り返りを行ったと考えられた。鍼灸科では本実習までに患者志向や患者中心の思考が涵養されていた可能性がある。 キーワード:臨床実習、参加型臨床実習、質的研究、テキストマイニング、共起関係 116(15:00) 鍼灸の歴史教育に現代の視点を取り入れた教育効果 Chat GPT-4を用いた学生レポートの分析 東京有明医療大学保健医療学部鍼灸学科 谷口博志、谷口授 【目的】鍼灸の歴史教育は国家試験の出題内容と直接的な関係が薄いことから学習者の興味の対象外になりやすく、教員が求める教育効果が得にくい科目の 1つである。今回、「鍼灸の歴史」の科目における1つのテーマの4年間の学生レポートから年毎の講義内容の違いによる教育効果について検討する。 【方法】分析対象は2020年から2023年の間、2年生の前期に「鍼灸の歴史」で実施した1講義「鍼灸をどのような英単語で表すか」に参加しレポートを提出した学生170名とした。レポートは講義を実施後4日以内に google formで提出させた。課題の項目は鍼灸の英単語として「 acupuncture」「Japanese style acupuncture」「Shinkyu」のいずれが適しているかについて自らの意見で選択させ、その理由を自由記述で回答させた。レポートは単純集計ののちに、 Chat GPT-4により自由記述内容を要約し、年毎の変化に関する教育効果について分析した。なお、 Chat GPT-4の結果は 2名の教員で誤りがないことを精査した。講義は2020年と2021年は管鍼法が定着するまでの変遷を、2022年と 2023年にはそれらにドライニードル等の現在の話題を含めた内容を実施した。 【結果】2020年に「 acupuncture」「Japanese style acup uncture」「Shinkyu」を選んだ学生の割合は18%、44%、38%であったのに対して、 2023年には7%、47%、47%となった。自由記述の分析から、2020年に対して 2023年は「日本独自の技法の強調」「文化的アイデンティティの重視」「教育の影響と知識の深化」「国際的な認識と表現の重要性」が教育効果として高まったことが抽出された。 【考察】問題解決型学習( PBL)のように現在の話題や問題点を組み込むことで鍼灸の歴史教育における教育効果を向上させられることが示唆された。 キーワード:鍼灸の歴史、 acupuncture、Japanese style acupuncture、Shinkyu、教育効果 15:12〜15:36 教育2 座長:中村真通 117(15:12) 脳卒中生活期患者への鍼灸施術を実現する職員研修に関する調査 1)脳梗塞リハビリセンター 2)東京有明医療大学 石上邦男 1)、宮澤勇希 1)、鶴埜益巳 1,2) 【目的】当施設は関連法規を順守して医療・介護保険外で脳卒中生活期患者に、リハビリテーション専門職とともに外来サービスを提供する。利用者の多彩な要望や特有の症状に対応可能な鍼灸師育成のため、2018年12月に研修センターを開設して一元管理する。今回、研修経過を後方視的に観察し、その特徴を調査した。 【方法】2019年4月から2023年1月までの入職者43名を対象とし、データの取り扱いは紙面にて同意を得た。研修カリキュラムは習得すべき内容から4つのステージに分類し、同時進行しつつ実践的に研修を行う。主な内容はステージ1が顧客対応の心得と基礎理論の整理、2が施術の組み立て、3が未病者への実践、4が脳卒中患者への実践である。抽出したデータは性別、年齢、職歴、各ステージ修了日数とした。各データの相関はSpearmanの順位相関係数で、職歴による各ステージ修了日数の差はt検定で統計解析し、有意水準を 5%未満とした。 【結果】研修修了者は 38名で、それら性別は男性 24、女性 14名、平均年齢は 32.5±7.3歳、職歴は新卒者 10名、他は既卒者だった。各ステージ修了日数は 1の平均が 25.0±25.6日(中央値 16.5)、 2が 43.2±40.6日(40.0)、3に64.5±49.6日( 56.5)、 4に98.2±61.0日(97.5)だった。有意な相関は職歴とステージ 2〜4(r=-0.50~-0.61)で、また全ステージ間(r=0.63~0.97)に認めた。有意差はステージ 2〜4で認め、既卒で修了日数が少なかった。 【考察】修了日数の相関から,各ステージの修了要件や内容は現行で妥当と考えられた.しかし職歴で2〜4に差を認めたため,新卒者の指導方法に見直しが必要である。今後個人の特徴についてもデータ解析を進め、効率性の高いカリキュラムに更新することで,研修修了期間の短縮を図りたい。 キーワード:脳卒中、職員研修、カリキュラム 118(15:24) 鍼灸養成課程における多職種連携教育の必要性 実習アンケート調査から 1)筑波技術大学 保健科学部附属東西医学統合医療センター 2)筑波大学人間総合科学学術院 3)筑波技術大学保健科学部 成島朋美 1)、松田えりか 2,3)、櫻庭陽1)、鮎澤聡1,3) 【目的】本邦が推進する地域包括ケアシステムにおいて多職種連携は重要であり、医療専門職養成課程では多職種連携教育(Interprofessional Education:以下、IPE)が行われている。しかし、はり師、きゅう師、あん摩・マッサージ・指圧師(以下、あはき師)の養成校では IPEの機会は殆どない。本研究では、多職種連携施設で実習を受けたあはき師養成校の学生を対象に、多職種連携に関する興味や学習意欲等について調査した。 【方法】あはき師が他職種と連携する医療機関である「筑波技術大学保健科学部附属東西医学統合医療センター(以下、医療センター)」で実習を受けたあはき師養成校の学生(3校、 1〜3年生、計233名)を対象に、インターネットフォームを用いてアンケート調査を行い、その結果を解析した。本研究は、医療センター医の倫理審査委員会の承認を得ている(202303)。 【結果】回収率は59.2%で、多職種連携を学んだ経験のある者は30.4%であった。在学中に多職種連携の実際を知ることが必要と回答した者は81.9%で、実習を通じて多職種連携への興味を高めた者は58.0%、学習意欲を高めた者は52.2%であった。「多職種連携を実践するあはき師の講義の受講」「当該施設の見学」「あはき師と他職種によるカンファレンスの見学」が多職種連携を知る有効な方法と回答した者は、各々回答していない者よりも、実習を通して多職種連携への興味が有意に高まっていた(各々 P<0.01、P<0.05、P<0.05)。【考察】あはき師養成校における IPEの機会は少ないが、学生は必要性を感じていた。実践者の話、施設やカンファレンスの見学による教育機会を得ることが、多職種連携への興味を高めるには有効だと考える。 【結語】学生は、 IPEが必要だと考えており、多職種連携を実践する施設の見学によって、興味や学習意欲が高まった。 キーワード:多職種連携教育、アンケート調査、実習 119(15:36) 伝統医療従事者に必要なコンピテンシー インタビュー調査より得られた結果 1)仙台赤門医療専門学校 2)黄進閣鍼灸院 3)産業医科大学産業保健学部基礎看護学 安齋昌弘 1,2)、松田静香 2)、立石和子 3) 【目的】伝統医療従事者の職務上必要なコンピテンシー*を抽出し、伝統医療従事者の職種の特徴を明らかにすることを目的とする。*コンピテンシー:ある基準に対して効果的なあるいは優れた行動を引き起こす個人の中に潜む特性とする。 【方法】期間:2023年9〜12月、対象者:鍼灸師の資格保有者で現在も施術を行っている方、研究方法:半構造化インタビュー調査、内容:必要なコンピテンシー(CHEERS研究を基本として看護師向けに作成した37項目(立石、2008)を参考)について等、分析方法:インタビュー内容を録音し逐語録を作成し質的帰納的に分析する。倫理的配慮:産業医科大学倫理委員会(ER23-024)より承認を得て実施している。 【結果】対象者背景:17名、年齢:20〜70歳代、性別:男14名/女3名、現職 :専門学校等の教員 13名、開業のみ3名、大学院生1名。鍼灸師に必要なコンピテンシーについて知識・技術・能力の3つに分けた。語られたものは、知識:「専門分野及び幅広い知識」、開業時「コスト感覚、法律の知識」、今後「コンピュータ関連」、技術:「問題解決、分析力、客観的評価、創造性、プレシャー下で仕事ができる精神力、時間管理、体や手先をつかう技能」、能力:「誠実さ、自主性、融通性、集中力、批判的視点、コミュニケーション、責任下での決定、予測力」であった。意見が分かれたもの「チームの中で仕事をする能力」であった。 【考察】最も多く語られたのが「誠実さ」であり、看護師へ実施したものと同じ結果であり、全体的に同じ結果となった。反対に「チームの中で仕事をする能力」は意見が分かれた。これは、他医療職では必ず語られた項目であり、鍼灸師の場合、どのような立ち位置で変わる可能性があると考えた。 【結語】鍼灸師に求められる能力は、「誠実さ、からだや手先をつかう技能」であり、他の医療関係と同じであった。反対に「チームの中で仕事をする能力」に対しては今後検討が必要である。 キーワード:鍼灸師、コンピテンシー、質的研究 15:48〜16:36 教育3 座長:河井正隆 120(15:48) グラフ文書を用いた鍼灸師向けオンライン学習支援に関する検討 1)玉川大学工学部 2)理化学研究所 AIP 3)ここちめいど 4)はりきゅう処ここちめいど 柴田健一 1,2)、米倉まな 3,4) 【目的】 COVIT-19を契機に、オンラインで多様な人同士が学び合う場が広がってきた。社会人の学び直しとも言われるリカレント教育では、年齢や立場を超えた多様な属性の学習者同士による協調学習が活発化しており、鍼灸師を対象としたオンライン学習支援の場が広がりつつある.本研究では他者と自身の理解や考えの違いを可視化および共有することに適した、マインドマップに代表されるグラフ文書に着目した。グラフ文書を用いることで鍼灸師同士の学びが促進されるか、オンライングループワーク評価実験によって明らかにする。 【方法】研究協力同意が得られた鍼灸師向けオンラインサロンここちめいどに属する鍼灸師6名を対象にオンライングループワークを行い、その後アンケートを実施した。オンライングループワークは、単独でテーマに沿った文書(グラフ文書あるいはテキスト文書)を作成した後、ワーク参加者全員でそれぞれ作成した文書を用いてディスカッションする形式とした。被験者6名を実験群 3名と統制群3名に分け、それぞれ個別に実施した。実験群はグラフ文書の作成および議事録のリアルタイム提示、統制群はテキスト文書の作成および議事録をリアルタイムで提示した。グラフ文書議事録の提示には発表者らが開発するツールを用い、テキスト文書議事録の提示には Google Docsを用いた。ワーク後に実施したアンケートはGoogleFormsで作成した。 【結果】設問「あなたは他の人が作成した文書をどの程度理解できましたか?」に対する 5段階評価「 1(理解できた)〜 5(理解できなかった)」の結果として、実験群の平均は 1.34、統制群の平均は 2.34であった。 【考察および結語】アンケート結果より、他の人が作成した文書の内容を理解しやすかったのはテキスト文書よりもグラフ文書であった。鍼灸師同士の学びを促すツールとしてグラフ文書が有効である可能性が示唆された。 キーワード:協調学習支援、オンライングループワーク、リカレント教育 121(16:00) 脈診訓練法の開発(第25報) 脈診習得法(MAM)による脈診習得の実際 1)日本鍼灸理療専門学校 2)一般財団法人東洋医学研究所 光澤弘1,2)、木戸正雄 1,2)、水上祥典 1,2)、武藤厚子 1,2)、東垣貴宏 1,2) 【目的】私たちは、誰もが訓練次第で安定性、再現性、客観性のある精確な脈診ができるようなステップアップ方式の「脈診習得法(MAM)」を提唱している。今回、「脈診習得法(MAM)」の実践が1年目と2年目の者で習得の程度を比較し、興味ある結果が得られたので報告する。 【方法】「脈診習得法( MAM)」に基づき学習した本校1年生24名と、2年生11名(平均年齢34.4±10.6歳)を被験者とした。脈診習得法を学んだ臨床経験10年以上の者2名を検者(A、B)とした。被験者は検者Aに六部定位脈診を行い、脈診評価表(MAT)に記入した。検者Aが直接脈診を受けて評価する11項目、検者Bが第3者として評価する 8項目の計19項目について達成、概ね達成、未達成、の3段階で評価し、結果を危険率 5%で統計処理し検討した。 【結果】達成者の平均は 1年生が検者 Aで14.7±11.3%、検者 Bで49.5±15.6%、2年生は検者 Aで57.8±17.8%、検者 Bで73.8±18.9%であった。1年生では検者Aと検者B間に、また、1年生と2年生では検者 A、検者 Bそれぞれの結果に有意な差(p<0.05)がみられた。脈診評価表(MAT)への記入は1年生に比べ、 2年生は詳細に記入していた。 【考察】検者 AとBの評価結果から ,見かけ上の脈診動作が問題なくても実際に受けた時には脈診の安定性が出来ていないこともあることが明らかとなった。特に 1年生には指の圧の加え方など習得が難しい項目があり、そのため、脈診に要した時間も1年生は2年生よりも長かった。これらは習熟度の差でもあるが正しい脈診を身につけるための指導の問題点として明確となった。以上のことにより、脈診習得を指導するうえで、検者 Aによる受診評価 ,Bによる観察評価の両面から習得具合を把握することが重要であると考えられる。 【結語】今回、脈診学習1年目と2年目の者で脈診習得レベルに差異があることや、脈診には習得しやすい項目,難しい項目があることが確認できた。この結果を踏まえ、さらに有用な脈診習得法の構築を目指していきたい。 キーワード:脈診、脈診習得法(MAM)、脈診評価表(MAT)、六部定位脈診 122(16:12) 山崎良齋著『最新鍼灸医学教科書』における「鍼灸学」 について 1)明治東洋医学院専門学校鍼灸学科 2)明治東洋医学院専門学校教員養成学科 3)明治国際医療大学鍼灸学部鍼灸学科鍼灸学講座 4)明治国際医療大学国際交流推進センター 5)明治国際医療大学基礎医学講座免疫・微生物学 矢島道子 1,5)、角谷英治 2,3)、川喜田健司 3,4)、矢野忠3) 【緒言】昭和初期、明治鍼灸学校(明治東洋医学院専門学校の前身)の初代校長であった山崎良齋(直文)は、自著『最新鍼灸医学教科書』(全3巻)を用いて鍼灸教育を行った。内容は解剖学・生理学・病理学・経穴学等の他、現在の鍼灸理論にあたる「鍼灸学」が含まれ、昭和4年の初版から改定・増補を行い、版を重ねた。本発表では『最新鍼灸医学教科書』の検討を通して当時の鍼灸教育と研究の基本的な姿勢について考察する。 【方法】『最新鍼灸医学教科書』第2巻の「鍼灸学」について、第1版から第5版の全5種類を分析し、昭和初期の基礎研究を概観した。第1・第3版は国立国会図書館デジタルコレクション、第2・第4・第5版は書籍を用いた。なお明治期から戦前の鍼灸教育と研究の動向について関係資料を参照した。 【結果・考察】明治期から第二次大戦前までの鍼灸教育と研究は、西洋医学の観点により行われた。山崎の教科書も概ねそれに倣う内容で、そのような当時の社会情勢を明確に示しているのが「鍼灸学」であった。これは西洋医学的機序の科目として現在の鍼灸理論に通じている。山崎の教科書の「鍼灸学」は、第2版で基礎研究の項目が増え、第3版以降は修正が続けられている。研究項目では血清免疫学的研究の例が列挙され、当時論じられた蛋白体療法などが示され、記述量は鍼より灸に関するものが多い。発表直後の研究成果の詳述は、鍼灸研究について常に最新の知見を学ぶ必要性を伝えるものであり、その重要性は現代にも通ずる。山崎は西洋医学の観点から鍼灸教育と研究を行うことにより鍼灸医学の体系化を図ろうとしたことが伺える。 【結論】山崎良齋著『最新鍼灸医学教科書』の底流を成す視点は、日本の鍼灸教育と研究を西洋医学の観点により行うことであり、それにより鍼灸医学の体系化を図ろうとしたことが示唆された。現在の鍼灸は、当時のこのような姿勢を基盤として発展したと考えられる。 キーワード:山崎良齋、鍼灸理論、鍼灸教育、教科書 123(16:24) オンライン授業と対面授業での習熟度比較 1)明治東洋医学院専門学校 2)新潟医療福祉大学鍼灸健康学科 中村沙樹 1)、高野道代 2)、福田文彦 1) 【目的】あはき教育においてもコロナ禍以降で ICTを活用した教育が導入されている。オンライン授業と対面授業における習熟度を知ることは、今後より良い教育を提供するために重要である。しかし、あはき養成施設におけるオンライン授業と対面授業との習熟度を比較した研究はない。そこで今回、オンライン授業だった年度と対面授業だった年度との学生の習熟度(試験結果)について検討を行った。 【方法】対象は2020-2023年度の 4年間における鍼灸学科の 2年生136名、対象科目は臨床医学各論(循環器・血液造血器疾患)とした。オンライン授業は授業担当者が作成した録画授業の視聴及び、視聴後の課題で構成した。習熟度は対象科目の期末試験(四者択一50問)結果(100点満点)とし、2020・2021年度をオンライン授業群、2022・2023年度を対面授業群とした。統計解析は対応のないt検定を使用し比較検討を行った。 【結果】オンライン授業群の平均点は75.8±16.5点、対面授業群の平均点は74.5±16.5点で両群間に有意差は認められなかった(p=0.67)。年齢により層別解析した結果、高校新卒者(p=0.47)および、新卒者を除く30歳以下(p=0.5)では対面授業群の方が高い傾向を示したが、両群間で有意差は認められなかった。しかし、 31歳以上ではオンライン授業群で有意に高かった(p=0.03) 【考察】オンライン授業では、授業時間外でもコンテンツを繰り返し視聴できることから、能動的に学習に取り組める 31歳以上で習熟度が高かったと考えた。また、通学時間が必要ないため、それらを学習時間にあてることができるなど学習環境の影響も考えられた。本発表に際してご協力いただきました丸茂栄士郎先生に感謝いたします。 キーワード:鍼灸、学校教育、オンライン授業、対面授業 ポスター発表F(Sun-P3-14:00) 14:00〜14:48 運動器1 座長:水出靖 137(14:00) 頚部経穴の内部の可視化及び3Dモデルの製作(第2報) 後頸部経穴と筋・椎骨動脈の立体的認識 1)日本鍼灸理療専門学校 2)(一財)東洋医学研究所 3)東京クリニック脳神経内科 4)埼玉医科大学東洋医学科 5)岩手県立大学 小川一1,2)、菊池友和 1,2)、五十嵐久佳 3)、山口智4)、土井章男 5) 【目的】後頸部経穴の刺鍼は、解剖学的知識が実践的な内部構造の認知に結びつかず、刺鍼時の不安とリスクは大きい。令和 5年は頸部 MRI画像から椎骨動脈を主とし経穴内部の 3Dデータ化を行い、刺鍼による椎骨動脈に接触する角度と深さを立体的に示した。今回は経穴内部の構造を椎骨動脈に加えて頸椎や深部の筋の可視化を行った。 【方法】同意を得た男性 1名の頸部の MRI画像( GEシグナ 1.5T、撮像方法 T2、撮像間隔 1.2mm)をポリゴン化した。 DICOMデータは画像解析ソフト(OsirX)を使用し、皮膚面・頸椎(C1、C2)・後頸部浅層と深層の筋群・動脈(椎骨動脈・内頸動脈)及び画像上でマッピングした後頚部の経穴(天柱・風池)を抽出した。抽出データは OBJデータで出力し、モデリングソフト(Zbrush)で統合した。 【結果】 3D画像で皮膚面の経穴と透過した内部の筋・動脈の立体的な配置を示した。天柱穴の水平方向の刺 鍼は板状筋(10.6)・半棘筋(16.7)・下頭斜筋(43.8)を貫き椎骨動脈(66.9)に達し、風池穴では板状筋(8.9)を貫き半棘筋外縁(20.5)から上頭斜筋と大後頭直筋の間を抜けて椎骨動脈( 43.2)に達した(接触までの深さ、単位 mm)。3D画像により刺鍼と深部構造が立体的に認識された。 【考察】皮膚面には見えない内部構造に鍼は多方向から刺入される。 3D画像化により天柱穴や風池穴からは角度によって板状筋・半棘筋と後頭下三角への刺鍼となり、深刺による椎骨動脈への接触だけでなく、後頭下神経や大後頭神経の損傷リスクも考えられる。内部の構造や深さに対する総合的で立体的な認識を得た刺鍼訓練に向け、実物大の透過型 3Dモデルの製作が必要と考える。 【結語】 3D画像により後頸部経穴から内部の筋と椎骨動脈までの関係を多方向から可視化したことで、後頸部の経穴内部の筋と動脈の関係を立体的かつ実践的に認識可能とした。 キーワード:後頸部経穴、椎骨動脈、後頭下三角、3Dデータ化、可視化 138(14:12) 運動負荷による筋硬度変化と鍼通電が筋硬度に与える影響について 関西医療大学大学院保健医療学研究科 山下勝大、木村研一 【目的】一般に鍼治療後に筋緊張が緩むとされているが、客観的な指標を用いて検討した報告は少ない。近年、非侵襲的に組織の硬さを画像化して評価する超音波エラストグラフィ(real time tissue elastography: RTE)が開発された。RTEを用いた研究で運動負荷後に筋硬度が増加したことやストレッチによって筋硬度が低下することが報告されている。鍼灸臨床では鍼通電がスポーツ後の筋疲労改善や筋緊張緩和を目的に用いられている。本研究ではRTEを用いて運動負荷による筋硬度変化に鍼通電が及ぼす影響について検討した。 【方法】実験1は健常成人男性11名(23.4±5.9歳)、実験2は健常成人男性 10名(22.1±5.0歳)を対象とした。実験 1は腹臥位にて5分間安静後、腓腹筋内側頭の RTE測定および自覚的な筋疲労感を VASで測定した。測定後、非利き足の片脚カーフレイズ運動を行い、運動後、15分後、30分後にRTEとVASの測定を行った。実験2は5分間安静後、片脚カーフレイズ運動を行った。運動後に RTEとVASを測定した後、腓腹筋の承筋穴と承山穴に鍼通電を15分間行い、通電直後、通電 15分後に測定を行った。統計解析はフリードマン検定を行い、ボンフェローニ補正による多重比較検定を行った。 【結果】実験1でひずみ比(Strain Ratio:SR)は安静時に比べ、運動後に有意に増加した。運動後に比べ、15分後、30分後で有意差はみられなかった。実験2ではSRは運動後で有意に増加した。運動後に比べ、鍼通電後に有意に低下し、通電15分後も低下した。 VASは実験 1、2ともに運動後に有意に増加し、運動後は有意に低下した。 【考察・結語】腓腹筋の経穴への鍼通電は片脚カーフレイズ運動により誘発される腓腹筋の筋硬度の増加を有意に低下させたことより、筋硬度の回復を促進する可能性が示唆された。 キーワード:超音波エラストグラフィ、筋硬度、カーフレイズ運動、鍼通電 139(14:24) 慢性肩こり患者における鍼治療の効果の意味に関する質的研究 1)東京有明医療大学保健医療学部鍼灸学科 2)東京有明医療大学保健医療学研究科鍼灸学分野 3)University of Illinois Chicago 高梨知揚 1)、梶原優花 2)、矢嶌裕義 1,2)、高山美歩 1,2)、Schlaeger, Judith M.1,3)、 Patil, Crystal L.3)、高倉伸有 1,2) 【目的】肩こりに対する鍼治療の効果に関する研究は、数量的に検証されたものが大半であり、検証期間も短期間のものがほとんどである。しかし実際の臨床においては、長期間継続的に鍼治療を受ける慢性肩こり患者も少なくない。そこで本研究では、慢性肩こりに対する鍼治療の効果の意味について明らかにすることを目的とし、鍼治療を継続して受けている慢性肩こり患者へのインタビューを通じて、鍼治療の経験とそれに対する認識について質的に検討した。 【方法】6ヶ月以上定期的に鍼治療を受けている慢性肩こり患者14名を対象に、インタビューガイドに基づいて1対1の半構造化インタビューを行った。インタビュー内容はICレコーダーにて録音し逐語録を作成した後、 Grounded Theory Approach(GTA)の手法に基づき質的に分析した。 【結果】GTAによる分析の結果、7つのカテゴリーが得られた。そのうち、鍼治療の効果の意味に関する中心的なカテゴリーは、[こりの緩和]、[効果の累積]、[体調が整う]、[生活の助け]であった。鍼治療により即時的に得られる[こりの緩和]は、継続的な治療により[効果の累積]とともに、[整う体調]という効果の意味をももたらしていた。さらに、[こりの緩和]、[効果の累積]、[整う体調]という効果の意味は、対象者らの[生活の助け]という意味の認識にも繋がっていた。これらの効果の意味が認識される過程には、患者個々が抱く[鍼治療の作用イメージ]と、[治療を通じた身体認識]が影響していた。また、鍼治療の効果の意味に関する中心的な4つのカテゴリーの背景には、対象者の大半が実感していた[肩こりの治らなさ]が存在していた。 【考察・結語】本研究の結果は、慢性肩こりに対する継続的な鍼治療が、根本的な「治癒」をめざす「キュア」以上に、こりを「緩和」し、体調を整え、生活を支える「ケア」としての意味を持つことを示唆している。 キーワード:肩こり、鍼、効果、意味、質的研究 140(14:36) 肩こりに対する鍼治療の影響 触診と超音波エラストグラフィを指標として 1)東京大学医学部附属病院 リハビリテーション部 2)新潟医療福祉大学鍼灸健康学科 林健太朗 1)、小糸康治 1)、粕谷大智 2) 【目的】本研究の目的は、肩こり自覚部位として多い僧帽筋上部(UT)への鍼治療の影響を自覚および客観的所見から明らかにすること。 【方法】対象は、本研究の趣旨の理解と書面による同意が得られた、当院に通院し肩こりの訴えに対して鍼治療を受ける者14名(男2名、女12名、64.2±17.2歳)。鍼治療は、伏臥位、50ミリ、20号のディスポ鍼を用い、左右の UTに各 1本、筋内に達する深さまで刺入し、特別な手技は加えずに 15分間の置鍼をした。評価は、肩こりの程度(VAS)、触診、超音波エラストグラフィ(RTE)とした。肩こりの程度は、治療前後に評価し、治療前には過去 1か月と治療前の程度を評価した。触診とRTEは、座位良姿勢で上肢下垂位、座位良姿勢で上肢90度屈曲位、座位安楽姿勢で上肢90度屈曲位で、第7頸椎棘突起と肩峰外縁中央を結ぶ線上の中点を測定した。触診は、3種類の触診圧で硬さを4段階で評価した。 RTEは、音響カプラーを用いて測定し、僧帽筋上部と音響カプラーの歪み値の比(SR)を評価とした。各 3回計測した中央値または平均値を用いた。なお、鍼治療、各測定は異なる者が行った。対象者は、基本調査、5分間の安静座位、触診、RTE、鍼治療、鍼治療直後調査、RTE、触診の順序で行った。統計解析は、SPSSを用い、鍼治療前後の差の検定は、肩こりの程度、触診は Wilcoxonの符号付順位検定、SRは対応のある t検定を用いた。統計学的有意水準は 5%未満とした。 【結果】肩こりの程度は、過去 1ヶ月と鍼治療後、鍼治療前と鍼治療後で有意差を認めた(p<0.05)。その他の項目に有意差は認められなかった。 【考察】鍼治療は、肩こりの程度を有意に改善したが、その他の項目では変化は認められなかった。本研究には二次性肩こりが含まれている可能性があるが、自覚症状の改善という観点からは医師の管理下での鍼治療は有益であることが推測される。一方で、触診や RTEによる評価は困難である可能性が示唆された。 キーワード:鍼治療、肩こり、僧帽筋上部、超音波エラストグラフィ、触診 14:48〜15:36 運動器2  座長:高梨知揚 141(14:48) 東洋医学的な視点で治療した下肢痛の1例 市立砺波総合病院 土方彩衣、林佳子、武田真輝 【はじめに】現代医学的な病態評価に加え、歩き方や肌肉の状態など東洋医学的な視点も併用し、下肢痛が軽快した症例を経験したので報告する。 【症例】[患者]70代、女性 [主訴]左大腿後面から下腿後面の痛み] [既往歴]乳癌( 70代) [現病歴] X-7日、左下肢痛のため近医整形外科を受診。MRI検査などを受けたが器質的な異常は指摘されなかった。 X-3日、痛みのため左下肢に加重がかけられず、趣味の太極拳もできなくなった。 X日から鍼灸開始となった。 [初診時所見]身長 152cm、体重 44kg。痛み Numerical Rating Scale(以下 NRS)4、歩行への支障 NRS4、歩行は不安定。下肢伸展挙上テスト 90°/90°、アキレス腱反射 +/+、膝関節可動域制限なし、膝関節の伸展・屈曲の徒手筋力テスト 5/5(痛みは誘発されない)、膝関節の熱感・腫脹なし。 [東洋医学的所見]望診:不安定な歩行、不安そうな表情。問診:重い鈍痛、温めで軽減、筋肉の引きつり、食欲・睡眠良好。切診:脈やや浮、実渋。左大都膨隆、左委中膨隆、左束骨圧痛。下肢の肌肉は軟弱で痩、冷えなし。 【経過】脾の病(本治)と足太陽経脈病証(標治)と捉え、大都・脾兪・束骨・腎兪・肝兪・大腸兪・委中・殷門・委陽・承筋などに接触鍼、疼痛部位に棒灸を実施した。 1回/週の頻度で施術した。 X+7日(2診)、痛みが軽減し、加重をかけずに太極拳を再開。 X+20日(4診)、痛み NRS3、歩行は安定してきたが、太極拳の時は不安のため加重をさけていた。 X+35日(6診)、階段昇降時の痛みが改善し、太極拳でも加重可能となった。 X+42日(7診)、痛み NRS1、歩行 NRS0、太極拳の発表会に出られるようになり、終診となった。 【考察・結語】「素問:臓気法時論篇」の「脾病者、身重、善飢、肉痿、足不收行。」を参考に、肌肉軟弱で痛みによって歩行が不安定な患者に、脾の治療を加え良好な経過だった症例を経験した。局所の痛みに対しても本治を行うことが重要と思われた。 キーワード:本治、接触鍼、棒灸、素問 142(15:00) 太白穴への円皮鍼刺激がヒラメ筋の筋緊張に与える変化の検討 1)健康スタジオキラリ Kirari鍼灸・マッサージ院 2)関西医療大学附属鍼灸治療所研修員 3)医療法人寿山会喜馬病院 4)関西医療大学大学院保健医療学研究科 山崎正史 1,2)、高橋護1,2)、井尻朋人 3)、鈴木俊明 4) 【目的】我々は毫鍼を用いた置鍼術や集毛鍼刺激が脊髄神経機能の興奮性に変化を与え、筋緊張に変化を及ぼすことを報告してきた。今回は足太陰脾経に属する太白穴への円皮鍼が同経絡の走行するヒラメ筋の筋緊張に与える影響について、筋緊張の指標の一つと言われている誘発筋電図の H波を導出し検討した。 【方法】本研究に同意を得た健常成人15名(平均年齢27.6±5.4歳)の左下肢を対象とし、円皮鍼(セイリン社製パイオネックス鍼体長0.6mm)は太白穴へ5分間の貼付とした。測定条件として被検者は腹臥位とし、安静時、円皮鍼貼付直後、貼付開始5分後、抜鍼直後、抜鍼5分後、抜鍼10分後に脛骨神経刺激によるヒラメ筋のH波を導出した。記録電極は脛骨結節と内果の中間の高さで脛骨内側すぐのヒラメ筋上に配置し、得られた波形から振幅 H/M比を算出し、安静時と他の試行をそれぞれ比較した。統計学的検定には多重比較検定(Dunnett法)を用いた。本研究は医療法人寿山会倫理審査委員会の承認を得た( No.2023108)。 【結果】ヒラメ筋振幅 H/M比は、安静時と比較して全ての試行で統計学的有意差を認めなかった。 【考察】変化を認めなかった要因の一つとして、太白穴が属する足太陰脾経はヒラメ筋内側の一部のみを通る経絡であることが考えられる。そのため、ヒラメ筋全体の筋緊張に及ばす影響が少なかったと考えられた。また、刺入深度の影響も考えられる。本研究と同じくヒラメ筋から H波を導出した先行研究では、脳血管障害後遺症により筋緊張亢進を認める対象に対し、陽陵泉に毫鍼を2cm刺入した置鍼術は1cm刺入した場合と比較して振幅 H/M比の変化量の増大が報告されている。今回使用した円皮鍼の刺入深度は0.6mmであり、先行研究と比較して刺入深度が浅いため、変化を認めなかった可能性がある。 【結語】太白穴への円皮鍼刺激がヒラメ筋に対応する脊髄神経機能の興奮性に与える変化を検討したが、統計学的有意差は認めなかった。 キーワード:円皮鍼、循経取穴、誘発筋電図、 H波、筋緊張 143(15:12) 太白穴への置鍼刺激がヒラメ筋の筋緊張に与える変化 1)健康スタジオキラリ Kirari鍼灸・マッサージ院 2)関西医療大学附属鍼灸治療所研修員 3)医療法人寿山会喜馬病院 4)関西医療大学大学院保健医療学研究科 吹野将大 1)、高橋護1,2)、井尻朋人 3)、鈴木俊明 4) 【目的】太白穴への鍼刺激により膝関節伸展保持時の筋活動が刺激15分後に減少したという報告はあるが、神経機能に及ぼす変化を調べた報告は少ない。今回、神経機能のなかでもヒラメ筋の筋緊張に影響を及ぼす脊髄神経機能の興奮性に対して、太白穴への鍼刺激が与える影響について誘発筋電図H波を用いて検討した。 【方法】対象は本研究に同意を得た健常成人15名(平均年齢27.6±5.4歳)の左下肢とした。測定条件として被検者は腹臥位とし、安静時、鍼刺入直後、置鍼5分後、抜鍼直後、抜鍼5分後、抜鍼10分後に脛骨神経刺激によりヒラメ筋 H波を脛骨結節と内果の中間の高さで脛骨内側すぐのヒラメ筋上から導出した。鍼刺激は太白穴に5mm刺入し5分間置鍼した。得られた波形から振幅 H/M比を算出し、安静時と各試行の変化を比較した。統計学的検定には Dunnett検定を用いた。本研究は医療法人寿山会倫理審査委員会の承認を得た(No.2023109)。 【結果】振幅 H/M比は、安静時と比較して全ての時期で統計学的有意差を認めなかった。 【考察】今回置鍼を行った太白穴が属する足太陰脾経はヒラメ筋の内側を通る経絡である。しかし、ヒラメ筋は下腿後面を広く覆う筋肉であり太白穴への鍼刺激ではヒラメ筋への影響が軽微であったため、有意差がなかったと考える。また、太白穴への鍼刺激により膝関節伸展保持時の筋活動が置鍼 15分後に減少したと報告されている。加えて、陽陵泉穴への鍼刺激がヒラメ筋H波に与える変化の検討では置鍼時間の違いにより脊髄神経機能の変化量が変わったと報告されている。先行研究では置鍼時間が 15分だが本研究は置鍼時間が 5分と短い刺激時間であったため、変化を認めなかった可能性がある。 【結語】今回太白穴への置鍼刺激がヒラメ筋の筋緊張に及ぼす変化について誘発筋電図H波を用いて検討したが、安静時と比較して統計学的有意差は認めなかった。 キーワード:循経取穴、置鍼、誘発筋電図、 H波、筋緊張 144(15:24) 足関節可動域に対する鍼治療効果のレビュー 1)九州看護福祉大学看護福祉学部 鍼灸スポーツ学科 2)早稲田大学スポーツ科学研究科 3)早稲田大学スポーツ科学学術院 古庄敦也 1,2)、前道俊宏 3)、広瀬統一 3) 【目的】鍼、ドライニードリングを用いた介入が足関節可動域に与える影響について文献調査によって明らかにする。 【方法】2023年12月1日に文献調査を行なった。検索媒体は PubMed、Scopus、MedLine、SportDiscuss、Web of Science、医中誌webを用いた。キーワードは英語論文では "Acupuncture(AC)" or "Dry needling(DN)" and "Range of motion" or "ROM" or "Flexibility" or "Mobility" or "Stiffness"、日本語論文では "鍼" or "ドライニードリング " and "関節可動域 " or "柔軟性 " or "弾性 " or "たわみ性 " or "剛性 "とした。選定基準としては( 1)AC、DN、鍼、ドライニードリングを用いた研究であること、(2)ヒトを対象とした研究であること、(3)運動器を対象とした研究であること、(4)RCTであること、(5)英語もしくは日本語論文であることとした。除外基準としては( 1)タイトルに AC、DN、鍼、ドライニードリングが含まれていない、(2)中枢神経性の可動域制限が起こっている、(3)毫鍼以外を用いている、(4)可動域の評価を行っていないこととした。 【結果】データベース検索で Pubmed 1739件、 Scopus 2216件、 MedLine 1450件、 Sport Discuss 273件、Web of Science 1261件、医中誌 web 1093件が抽出され、採択条件を満たす論文は 7件であった。可動域の評価方法としては、非荷重位での自動運動による測定、荷重位での他動的測定、等速性筋力装置による測定が含まれていた。対象としては健常者 6件、足関節骨折患者1件であった。 【考察】鍼・ドライニードリング治療の効果を表す指標として関節可動域は多く用いられており、様々な手法によって評価されてきた。一方で鍼・ドライニードリング治療が関節可動域に与える影響、そのメカニズムに関しては一定の見解が得られておらず、メカニズム解明のためのさらなる研究の必要性が示唆された。 キーワード:文献調査、関節可動域、足関節 15:36〜16:00 泌尿器科領域  座長:伊藤千展 145(15:36) 膀胱痛症候群に鍼灸治療が有効であった1症例 北里研究所病院漢方鍼灸治療センター鍼灸科 井田剛人、富澤麻美、近藤亜沙、伊藤雄一井門奈々子、桂井隆明、伊東秀憲、伊藤剛、星野卓之 【目的】膀胱痛症候群に対し鍼灸治療を行い、良好な経過が得られた症例を経験したので報告する。 【症例】41歳、女性 [主訴]下腹部の不快感(ムズムズ感) [現症]身長: 170.8cm、体重: 61.3kg、BMI:21.0、血圧:123/79mmHg、腋窩温:36.4℃ [既往歴]チョコレート嚢腫(X-4年)[現病歴] X-1年膀胱炎を発症し、抗菌薬内服で治癒したが X年2月に再発し、抗菌薬を 6週間服薬し一時的に軽快したが、同年 4月下旬に症状の再増悪がみられた。再度泌尿器科で検査したところ膀胱痛症候群と診断された。夜間尿、下腹部の不快感はあるが西洋医学的には治療法がないと言われ、 X年6月に当鍼灸外来を受診した。 【治療・経過】六部定位脈診で腎虚証と診断し、北里方式経絡治療による本治法として陰谷、復溜の他、共通基本穴として腹部、背部の経穴に置鍼し、標治法として中極、次りょう、下りょうに灸頭鍼を行った。各治療前にVAS(Visual Analogue Scale)にて下腹部不快感の程度を評価し、初診時の VASは40mmだった。 1週間後のVASは29mmに軽減し、夜間尿が消失した。以後下腹部不快感の強弱はあるが比較的落ち着いた状態を維持し、 2ヵ月後の 9診時には VASが12mmとなり、午前中のみの不快感が残存した。 2ヵ月半後の 10診時で VASは5mmとなり下腹部の不快感は生活上、気にならない程度に改善した。 【考察・結語】膀胱痛症候群の症状は心身の緊張と相関することが報告されており、本症例においてもストレスの関与が考えられた。圧痛や硬結など各所の筋緊張に対する、中極や中および下りょうへの温熱刺激は、膀胱を支配する交感神経の過緊張を緩め、下腹部不快感の改善に繋がった可能性が考えられた。西洋医学的に難治である膀胱痛症候群に対し鍼灸治療が有用である可能性が示唆された。 キーワード:膀胱痛症候群、灸頭鍼、北里式経絡治療 146(15:48) 夜間頻尿に対するへの鍼治療の1症例(第2報) 中りょう穴への長期施術の経過観察 1)東京有明医療大学附属鍼灸センター 2)東京有明医療大学保健医療学部鍼灸学科 加持綾子 1)、谷口博志 1,2)、松浦悠人 1,2)、 淺田麻希 1)、坂井友実 1,2) 【目的】我々は第72回全日本鍼灸学会学術大会にて、中穴への徒手的刺激の効果が減弱した夜間頻尿の症例に対して、同位部への鍼通電療法(以下EAT)に切り替えたところ良好な経過が得られたことを報告した。今回は同一症例にその後も EATを継続し、 2年2か月にわたり経過を観察した。 【症例】 64歳男性主訴:夜間頻尿(頸肩こり)[現病歴] 10年前から夜間頻尿を自覚し始め、増悪傾向(4〜5回/夜、尿意により覚醒)にあったため夜間頻尿の改善を目的に鍼治療の開始となった。 [所見と推定病態]頻尿に関する基礎疾患は有さず、夜間尿量が320〜550mlで多尿ではなく、夜間排尿回数が 5回であることから、過活動膀胱による夜間頻尿と推定し治療を開始した。鍼治療は 2年10か月(128診)まで中りょう穴への徒手的刺激、129診以降は EAT(100Hz・間欠波15分)とした。使用鍼:60mm・30号鍼ステンレス製ディスポーザブル鍼(セイリン製)。【経過】治療開始後、夜間排尿回数は 1〜2回に減少しその後同治療を継続したが、2年10か月後の126診目に誘因なく夜間排尿回数が増加した。刺激時間を延長したが著効なく、129診の刺激法の変更に伴い夜間排尿回数は0〜1回に減少、夜間に覚醒しない日も出現した。それ以降2年2か月間同状態を持続できた。 【考察及びまとめ】鍼灸治療は慢性疾患を対象とすることから治療期間は自ずと長期に渡る。過活動膀胱はその顕著な例となる。中りょう穴への徒手的刺激での改善効果が減弱した同じ期間の EATを行っておらず有意性を示すことはできないが、刺激方法を変更するのみで2年以上の有効性が示されていることは、慣れが生じた際の選択肢の一つとしてEATに変更することも検討に値すると考えられる。刺激方法を検討することで過活動膀胱などの慢性疾患患者の生活の質向上に鍼灸治療が寄与していけるものと示唆される。 キーワード:夜間頻尿、過活動膀胱、中りょう穴、徒手的刺激、鍼通電療法 ポスター発表G(Sun-P4-14:00) 14:00〜15:00 小児科領域  座長:尾崎朋文 桐浴眞智子 162(14:00) 頭痛により不登校となった中学生男児への小児はり灸治療の1症例 1)どんぐり鍼灸室 2)東京有明医療大学保健医療学部鍼灸学科 山口あやこ 1)、松浦悠人 2) 【目的】薬物療法により改善せず、不登校となった中学生の頭痛に対して小児はり灸治療を行い、良好な経過が得られた1例を報告する。 【症例】男児、 14才 [主訴]頭痛、不登校[初診日]X年 [現病歴]X年-4月前から頭痛を自覚。学校を度々休むようになり、小児科を受診。MRI、脳波検査で異常なく緊張型頭痛と診断され、アセトアミノフェンを処方されるが改善なし。 X年-1月前より毎朝頭全体を締め付けられるような頭痛に増悪したため不登校となった。 [所見]身長 160cm、体重 52kg。痛みは両側性、頭全体の締め付け感、軽度から中等度の強さで日常生活に支障はあるが寝込むことはない。頭痛出現は、平日の朝から昼前の2時間程度で休日は気にならない。頭痛のNumerical Rating Scale(NRS)は10、望診:つり目で力なし。聞診:早口でおしゃべり、吃音。問診:食欲・便通・睡眠は正常、悪夢をみる、クラスが騒がしく人間関係が面倒、緊張しやすく疲れやすい。切診:足先の冷え。脈診:浮・数・弦。尺膚診:突っ張っている。腹診:胸脇苦満。季節:五季の春、六気の初之気。 【治療方法及び経過】四診法により肝病とした。初診時、銅のてい鍼を使用して曲泉に本治法、反応穴に標治法を行った。下腿の肝経、胆経、肺経の要穴付近を摩擦刺激で経絡を流し、太敦付近への棒灸を行った。2診目以降のNRSは635と推移した。 5診目で NRSが8と増加、この時いじめの告白があり、心理カウンセラーと不登校の子を持つママの会へと繋いだ。7・8診目の NRSは0となった。不登校状態に変化はなく、フリースクールを検討のため一旦終了となった。 【考察と結語】今回の頭痛は学校内でのいじめが誘因となり出現した緊張型頭痛と考えられる。小児はり灸治療による頭痛の軽減と、いじめ告白を施術者だけで抱え込まずに専門家に繋ぎ、連携が取れたことの相乗効果が大きかったと考えられる。 キーワード:小児はり、緊張型頭痛、不登校、思春期、いじめ 163(14:12) 小児のアトピー性皮膚炎のそう痒感にてい鍼治療が著効した1症例 1)こうたの森のはり灸院 2)東京有明医療大学保健医療学部鍼灸学科 3)三河漢方鍼医会 森野弘高 1,3)、松浦悠人 2) 【目的】アトピー性皮膚炎の子を持つ保護者の精神状態の悪化が問題視されている。今回、てい鍼による小児はり治療によりアトピー性皮膚炎による小児のそう痒感を軽減させ、両親の Quality of life(QOL)が向上した1症例を報告する。 【症例】生後11か月女児、主訴:全身のそう痒感 [現病歴]生後6か月頃から全身にそう痒感が出現し、特に頬部、下顎部の痒みが強く掻破がみられた。複数の皮膚科を受診しアトピー性皮膚炎の診断を受けヒドロコルチゾン酪酸エステル等処方されるも寛解は一時的であった。痒みで中途覚醒が続き、両親も熟睡できず、口論やトラブルが絶えなかった。 [家族歴]母親は幼少期よりアトピー性皮膚炎を発症し薬物を服用中。 [所見]身長 75cm、体重 9kg、肘窩、膝窩、頬部、下顎部に発疹や丘疹、紅斑あり。望診:両頬が赤い。聞診:泣いている。問診:そう痒感が強く寝つけず、よく目が覚める、便秘。切診:手足の冷え、脈診:浮、数尺膚診:赤く熱い。 【治療方法】証を「心病」とした。アルミニウム製と銅製の形状の異なる 2種類のてい鍼を使用し、8診目までは週に2回、9診からは週に1回の頻度で実施した。初診時は、銅製のてい鍼で大陵穴に本治法、反応のある経穴に標治法、心包経と心経の要穴付近に摩擦刺激を行ない、そう痒感の強い患部へは、アルミニウム製のてい鍼にて摩擦刺激を行なった。 【経過】93日間で17回の施術を行った。初診時治療後、患児の睡眠は良好、そう痒感での中途覚醒は軽減。6診(治療21日目)後以降は中途覚醒がなくなり、 17診(治療93日目)には、 Numerical Rating Scale(母親から聴取)は、全身、頬部、下顎部のそう痒感 10 1、中途覚醒 10 0。また両親の中途覚醒も 10 0、口論やトラブル 10 0、さらに笑顔での会話も増えた。 【考察・結語】てい鍼による治療は、小児のそう痒感を軽減し、中途覚醒の頻度を減らしたことによって両親の QOLも向上させたと考えられる。 キーワード:小児のアトピー性皮膚炎、小児はり治療、アルミニウム製のてい鍼、銅製のてい鍼、両親のQOL 164(14:24) ストレスによる胸痛のある児に対する鍼治療鍼を用いた てい鍼治療が有効であった1例 1)大阪医科薬科大学病院 麻酔科・ペインクリニック 2)明治国際医療大学大学院鍼灸学研究科伝統鍼灸学分野 桐浴眞智子 1)、和辻直2) 【目的】対人関係のストレスによる胸痛を訴える神経発達症のある児に対し、緊張緩和を目的に鍼を用いた鍼治療で痛みの軽減を得た1例を報告する。 【症例】14歳女性。主訴は胸痛。既往歴: 10歳から ADHD、IBS。現病歴:特に誘因なく X-2年に左胸、翌12月に右胸にも痛みを自覚。鎮痛剤が効かず、経過観察するも増悪傾向。X年3月、他院より当科こどもの痛み外来を紹介受診。ストレスによる筋筋膜性疼痛の疑いで緊張緩和目的に鍼を用いた鍼治療を開始した。初診時所見:症状は発作性で痛む場所は不定。ナイフで刺されたような痛みが日に 7回程度、安静で軽快し、朝が辛い。あい気が多い。睡眠、排便は服薬により良好。淡紅舌・薄白苔。浮・虚脈。中・天枢の拒按。評価は、自覚症状の強さ(NRS) 7、 QOL(EQ5d)0.610であった。 【治療】病証は肝気の停滞による胃虚気逆を主とし、概ね週 1回の鍼治療を 10回行った。鍼を用い、緊張緩和のために内関(PC6)、中(CV12)、太衝(LR3)等に軽く接触、背部及び前腕・下腿陰陽経脈に沿ってタッピングと軽擦を行った。診察中に母親に助けを求める動作を認めたため、診療は日常会話を行っているように努めた。【経過】治療期間中の舌診、脈診、腹診に著変はないが浮脈とあい気が消失。回を重ねる毎に胸痛の頻度や程度が改善傾向にあると自覚し、終診時 NRSは4、 EQ5dは1.000であった。初診時にみられた診察への緊張感が和らぎ、漸次、自身の言葉で話すように変化した。また以前は嫌がっていた外出も鍼を受けるためにできるようになった。 【考察・結語】鍼治療には気血を巡らせる作用がある。日常会話の様な雰囲気を作ることで緊張感が和らぎ、診察や鍼治療に積極的に向き合えるようになり、痛みの増悪するイベントがあったものの胸痛の改善に繋がったと推察する。鍼を用いた鍼治療で緊張が緩和し症状軽減が得られた。 キーワード:鍼、鍼治療、神経発達症、 ADHD 165(14:36) 伊勢地域における「疳切り」の調査 じねん堂はり灸治療院 西出隆彦 【背景】三重県伊勢市では小児の「疳の虫」に対する施術として「疳切り」と称した鍼が行われていた。当院を受療した伊勢市出身の 50代女性からは、本人や近隣の子供だけでなく親世代も幼少期に疳切りを受けていたとの証言を得ている。また伊勢市史(2009)には「疳の虫とは、親指と人差し指の間に出る青い筋のことで、宇治地区や西豊浜町では虫を封じこむカンノムシノオジイサンという人が筋を切って治したという。鹿海町では針医者に筋を針でついてもらった」と記載があり、近隣の多気町史(1992)にも「手の親指と人差し指を開いて、間の筋を切る」との記載がある。しかし、現在ではあまり知られておらず、失伝の可能性が高いため、今後の小児鍼研究に寄与することを目的として調査を行った。 【方法】(1)宇治地区や西豊浜町、鹿海町で聞き取り調査を行った。(2)疳切りを実施していた鍼灸院への取材を行った。 【結果】(1)公民館や集会所、民家へ訪問して聞き取り調査を行ったが、当該地区で疳切りを行っていた鍼灸院を見つけることはできなかった。(2)50代女性の記憶を基に調査すると、宮後地区の A鍼灸院( 2010年廃業)で疳切りが実施されていたと判明したため、 20 21年10月に取材を行った。取材に対応した A鍼灸師(73)は 50年前に伊勢市の鍼灸院へ嫁いできており、当時すでに先代鍼灸師が疳切りと称して三間( LI3)付近の細絡への刺激を行っていた。 A鍼灸師は後を継ぐ形で廃業まで疳切りを行っていた。1970年代には疳切りだけで 1日30人の来院があったとのことだった。 【考察・結語】疳切りは三重県伊勢市で古くから行われていたものの、現在実施している施設は無いと考えられる。しかし、疳虫症の治療として『小児針法』(米山、森 , 1964)に「二間で点状瀉血を行う場合もある」と類似した手法が紹介されており、他府県においては現在も行われている可能性がある。今後はより範囲を広げ、調査を継続したい。 キーワード:疳の虫、疳切り、小児鍼灸 166(14:48) 症状の聴取に工夫を要した小児片頭痛に対する鍼灸治療の一症例 1)東京有明医療大学附属鍼灸センター 2)東京有明医療大学保険医療学部鍼灸学科 曽田真由美 1)、水出靖1,2)、平松燿1)、飯田百合子 1)、山口沙和 1)、木村友昭 1,2) 【目的】病態を把握するためには患者の状態を適切に把握することが大切である。しかし、自覚症状を容易に共有できない場合も多い。今回は医療面接で所見を得ることが困難だった小児片頭痛症例に鍼灸治療を行ったので報告する。 【症例】9歳男児 [主訴]頭痛 [現病歴]X年2月、塾の時間を増やしたところ、週に1回1分以内のクラっとする頭痛と、月に1回2時間ほど悪心を伴う頭痛を発症した。頭部外傷の既往なし。頭痛専門医にて小児片頭痛と診断され鎮痛剤を処方されたが、以前より服薬回数が増えてきたため、X年5月、当鍼灸センターへ母親と来療した。 [所見]悪心を伴う頭痛:部位と性質に関して上手く表現できない。日常動作で増悪。前駆症状は重だるさと生あくび。随伴症状は悪心。誘発因子は疲労と塾のテスト。クラっとする頭痛:部位は上手く表現できない。倒れそうな感覚で、発作時以外は元気。左耳介周囲に触覚過敏領域あり。寝つきが悪い。患児からは明確な症状が表出されなかったことから、母親への聴取や描画法を行なったところ片頭痛やめまいであることが判明した。 【治療】頸肩部の筋緊張緩和とリラクゼーションを目的に、主に僧帽筋に対してディスポーザブル小児鍼での押圧や豪鍼による切皮刺激、背部や腹部に施灸を 1回/1、2週間の頻度で行なった。 【経過】約7ヶ月間の経過中、片頭痛の頻度は変わらなかったが、随伴症状のめまい、悪心、左耳介周囲の触覚過敏、寝付きの悪さは改善ないし消失した。 【考察及びまとめ】頭痛の頻度に変化は見られなかったが、随伴症状は緩和されたことから、鍼灸治療の継続により頭痛も軽減する可能性があると考える。小児の場合、自覚症状を的確に表現できないため、保護者からの情報収集や描画法を取り入れるなど、成人とは異なる医療コミュニケーションの工夫が必要と考える。 キーワード:小児、片頭痛、医療コミュニケーション、鍼灸 15:00〜15:48 頭顔面部の疼痛  座長:石山すみれ 167(15:00) 左側上下顎臼歯部の痛みに対して鍼治療を行った1症例 歯原性歯痛と非歯原性歯痛の併発疑い 1)大阪大学歯学部附属病院歯科麻酔科 2)紗楽鍼灸院 高橋沙世 1,2)、小田若菜 1)、山本伸一朗 1) 【目的】歯が痛いといって鍼灸院に行くことはあまりなく歯痛に対する鍼治療の報告は少ない。今回、左側上下顎臼歯部の痛みに対して鍼治療を行い良好な経過が得られたので報告する。 【症例】39歳女性、自営業(パソコン作業)。主訴は食事中、左側の上下奥歯に痛みが出るので左側でかめない。[現病歴] X-5年左側下顎臼歯部の根管治療を行った。X -1年5月同部に痛みが出現し、非歯原性歯痛の診断のもと当鍼灸院と大学病院で治療を行い、8月末症状が寛解したため略治とした。12月下旬食事中かみ合わせると左側上下顎臼歯部に痛みが出現し歯科治療を開始した。痛みが続くので X年4月ペインクリニックで投薬治療を開始した。5月中旬痛みが治まらないため当鍼灸院に来院した。 【治療】鍼治療は僧帽筋、胸鎖乳突筋、咀嚼筋の筋緊張を緩和する目的で刺鍼し、疼痛緩和には山元式新頭針療法を行った。左側の翳風 -大迎、側頭筋圧痛部 -下関をつないで3/15Hzで15分間鍼通電を合計10回行った。 【経過】初診時、左側上下顎臼歯部の疼痛、左側の頬と上下顎臼歯部辺りの歯茎の熱感、左側舌と喉に痺れの自覚症状があった。これまで経験した一番強い痛みをVAS値100とすると痛みの VAS値は10、かんだ時は一時的に VAS値30になる。ペインクリニックでデュロキセチン塩酸塩を処方してもらい、歯科医院では左側上顎5番の虫歯治療が終了し、左側上下顎 6番の根管治療を行っている。7診目、柔らかいものなら左側でかめるようになり投薬治療を終了した。10診目、かんだ時の痛みの VAS値は15になり補綴物を入れて歯科治療が終了した。 【考察・結語】患者は以前、非歯原性歯痛の診断のもとブロック注射や鍼治療を行い寛解していた。今回、歯科治療やペインクリニックでの投薬治療を進めても痛みが改善しなかったことから、非歯原性歯痛が再燃したのではないかと考え以前有効であった鍼治療を再度行うことで痛みが軽快し歯科治療を終了することができた。 キーワード:非歯原性歯痛、臼歯、咀嚼筋 168(15:12) 持続性特発性顔面痛と診断された患者に対する鍼治療の1症例 1)大阪大学歯学部附属病院歯科麻酔科 2)大手前短期大学歯科衛生学科 酒井浩司 1)、中井麻衣 1)、山田雅治 1)、河野彰代 1,2)、工藤千穂 1) 【目的】2017年に国際疼痛学会が痛覚変調性疼痛という概念を提唱し、これを受けて2020年に国際口腔顔面痛分類に特発性口腔顔面痛の章が設けられ、 3疾患の分類が発表された。その一つの疾患である持続性特発性顔面痛と診断された患者に対して鍼治療が有効であった症例を経験したので報告する。 【症例】 60代男性。既往歴、糖尿病、強迫性障害。X年6月初旬に眼窩下神経領域の麻痺を自覚し、X年6月中旬に当科を受診。右側鼻翼基部から眼窩下部、右側口蓋部に時折締め付けられるような痛み、痺れ、違和感があり持続性特発性顔面痛と診断されブロック注射と漢方薬、低出力レーザー照射による治療を開始した。痛みはやや軽減したが、痺れと違和感には変化がなく、X年10月より鍼治療を開始した。 【治療方法と評価】右側顔面部の痛み・痺れ・違和感に対して、太陽、四白、迎香、上迎香、下関を選穴し、遠隔部の経穴は、陰谷、太谿、復溜を選穴した。右肩の張りなど不定愁訴に対して追加穴を加え全身治療をおこなった。鍼治療と併用して低出力レーザー治療も継続した。知覚異常の程度は VAS値にて評価した。 【経過・考察】鍼治療開始前の VAS値は、痛み57、痺れ50であった。5回目の治療後のVAS値は、痛み25、痺れ25。鍼治療10回目の治療後の VAS値は、痛み22、痺れ22であった。治療経過に従って緩やかに VAS値は減少する傾向がみられた。鍼治療の回数を重ねる度に痛みや痺れは軽減し違和感の範囲は狭くなった。症状を忘れていることもあり、会話時や食事の時も気にならなくなるなど自覚症状の改善が見られた。持続性特発性顔面痛にはうつ病や不安症などの既往歴がある場合が多いと報告されている。本症例では強迫性障害の既往があったため、右側顔面部の症状だけでなく不安感や不定愁訴を含めた全身治療をおこなった。不安感や恐怖感を与えないよう適宜問診し鍼治療をおこなったことが症状の緩和に繋がったのではないかと考えられる。 キーワード:口腔顔面領域、痛覚変調性疼痛、顔面痛、知覚異常 169(15:24) オトガイ神経知覚異常患者に対する鍼灸治療 1)大阪大学歯学部付属病院歯科麻酔科 2)芦屋百会鍼灸治療院 3)広島大学大学院医系科学研究科歯科麻酔学 山本伸一朗 1,2)、高橋沙世 1)、小田若菜 1)、花本博1,3) 【目的】抜歯・嚢胞摘出術後のオトガイ神経知覚異常に対して鍼灸治療で改善を認めたので報告する。 【症例】52歳の女性。主訴は左顎の痺れとゴロっとした違和感。 [現病歴]X-2年12月に当院口腔外科で左側下顎智歯抜歯及び顎骨嚢胞摘出術を受けた。 2週間後に頬側歯肉軽度腫脹、創部に感染所見が見られ、左オトガイ神経知覚異常が認められた。X-1年2月、鍼治療を希望されて当科に紹介された。 [所見]左オトガイ部に痺れと違和感、しこりがあった。洗顔時や冷たい風で痺れが増強し、歯ブラシが左歯肉舌側に触れるとピリピリした。 VAS値は痛み 0mm、痺れ 66mm、SW知覚検査は左右両側 0.008gだが感じ方が異なった。痛覚閾値は左で 8gと鈍麻であった。電流知覚閾値(CPT)は Aβ線維が左 179/右85、Aδ線維が左 52/右34で左が鈍麻であった。温覚閾値は右 40.1℃、左 48℃以上で左右差を認めた。舌診と脈診から肝虚証であった。 【治療・経過】治療は 4回目までは毎週、以後2〜5週毎に行った。下関、太陽、巨膠、大迎、翳風、合谷、風池の取穴に加えて肝虚証の治療を行い、下顎や頚部の運動療法と養生法を自宅で行ってもらった。4回目の治療後にオトガイ部外側の痺れが軽減し、8回目の治療後には中央 1/4のみ痺れが残っていた。痺れの VAS値は14回目に20mmまで改善した。それ以降、電子温灸器で低温 47℃、 600mJの温灸と自宅での台座灸を開始した。16回目の治療前、左の温覚閾値が 42.8℃、CPTはAβ線維が左 105、Aδ線維が左 32と改善を認めた。 【考察】筋緊張の緩和および神経損傷部位の血流改善を目的として咀嚼筋や頚肩部への鍼治療を行った。治療後にオトガイ神経知覚異常症状が改善したため、鍼治療が神経修復に効果を認めた可能性が考えられた。また、下顎の運動療法や軽い運動、リラックスできる養生法の実践が効果を高めたと考えられた。 【結語】抜歯・嚢胞摘出術後のオトガイ神経知覚異常に対して、鍼灸治療が有効であった。 キーワード:オトガイ神経知覚異常、温度覚鈍麻、咀嚼筋、鍼灸治療、電気温灸器 170(15:36) 下歯槽神経損傷に伴う知覚鈍麻・痺れに対する鍼治療の1症例 埼玉医科大学東洋医学科 山本彩子、小内愛、堀部豪、井畑真太朗、村橋昌樹、山口智 【目的】抜歯後の下歯槽神経損傷による障害は4〜8週間以内に回復すると言われているが、薬物療法の無効例がある。今回、薬物療法で期待すべき効果が得られない、抜歯後の下歯槽神経損傷による痺れ・感覚鈍麻に対して鍼治療を行い、症状軽減を認めた症例を報告する。 【症例】52歳女性。 [主訴]右側下口唇部の痺れと感覚鈍麻。 [現病歴]X-1年10月に近医歯科の健診にて、右第1大臼歯の埋伏による下歯槽神経の圧迫を指摘され、X-1年12月に歯科口腔外科を紹介受診。口腔内XP、CT、MRIの結果、同様の所見を確認。同月に埋伏歯の抜歯直後より、右下口唇の痺れと感覚鈍麻を自覚、右オトガイ神経麻痺と診断。術後よりプレドニゾロン、メコバラミンを服用するも期待すべき効果は得られず、X年2月に当科受診。身長 153cm、体重 49kg、血圧 100/ 72mmHg、脈拍 80bpm(整)。右三叉神経第3枝領域触覚・痛覚鈍麻、 [鍼治療]40mm・16号、ステンレス製単回使用鍼、下関、オトガイ孔部、合谷、足三里に 10分間置鍼。2回目以降は下関とオトガイ孔部に、1Hzの鍼通電療法を追加。治療間隔は 1回/週。痺れの評価は触覚・痛覚検査、Visual analogue scale(VAS)。 【治療・経過】初回時の痺れのVASは45mm、無自覚に涎を垂らし、唇がゴムの様な感覚。4回目は75mm、痺れの面積が縮小したような感覚。無意識に口の中を噛む回数が減少。治療16回目には食事の取り辛さが減少。治療35回目は8mmに軽減し、日常生活動作の支障が改善。触覚・痛覚検査は治療35回目まで左右差が認められたが、問診で感覚鈍麻の自覚的改善を聴取。 【考察・結語】本症例の痺れ・感覚鈍麻の軽減は、鍼治療による軸索再生の促進効果や、主に脊髄や脳を介する鎮痛機構が賦活化したものと考える。標準治療で期待すべき効果が得られなかった、下歯槽神経損傷による痺れ・感覚鈍麻に対し鍼治療が症状の軽減に寄与した可能性が示唆された。 キーワード:鍼療法、電気鍼療法、下歯槽神経損傷、オトガイ神経麻痺、軸索再生 15:48〜16:36 免疫・アレルギー  座長:江川雅人 171(15:48) 鍼灸刺激による口腔内免疫活性の変化 1)九州看護福祉大学看護福祉学部鍼灸スポーツ学科 2)九州看護福祉大学大学院看護福祉学研究科健康支援科学専攻 花田雄二 1)、塚本紀之 1,2) 【目的】これまで鍼灸刺激により獲得免疫である口腔内の唾液中sIgA分泌と口腔内の自律神経活動の関連に焦点を当て、検討を行ってきた。しかし鍼灸刺激による自然免疫への影響を検討した研究は少なく、鍼灸刺激により自律神経を介した自然免疫の調節についてはほとんど明らかになっていない。鍼灸刺激が口腔内の免疫活性および自律神経活動にどのような影響を与えるのか検討する。 【方法】対象は九州看護福祉大学鍼灸スポーツ学科に通う男子学生 30名とした。封筒法で鍼刺激群 10名、灸刺激群 10名、無刺激群 10名に割り振った。唾液アミラーゼ活性値を測定後、サリベットを用い唾液を採取した。介入は仰臥位にて、鍼刺激群、灸刺激群は足三里穴、頬車穴(左右4部位)に10分間の鍼灸刺激、無刺激群は10分間の安静をとらせた。10分間の介入直後および介入30分後に唾液アミラーゼ活性値を測定、唾液を採取した。採取した唾液を用い、唾液分泌量、唾液総蛋白濃度、唾液sIgA濃度、唾液ディフェンシン濃度を測定した。 【結果】介入前と介入直後、介入前と介入30分後の唾液アミラーゼ活性値、唾液分泌量、唾液総蛋白濃度、唾液 sIgA濃度に有意な差はみられなかったが、唾液分泌量は鍼刺激群、灸刺激群で増加する傾向が、唾液総蛋白濃度は鍼刺激群で増加する傾向が、唾液sIgA濃度は鍼刺激群、灸刺激群で減少する傾向がみられた。 【考察・結語】今回の鍼灸刺激では各指標に有意な差がみられなかったため、鍼灸刺激により30分以内の口腔内の免疫活性に影響を与えることを示すことができなかった。唾液総蛋白濃度、ディフェンシンは交感神経活動の関連性が認められており、鍼刺激群では唾液総蛋白濃度が増加する傾向がみられたため、鍼刺激群でディフェンシン分泌に影響を及ぼすことが予想され、その解析結果についても報告したい。 キーワード:口腔内免疫、鍼刺激、灸刺激 172(16:00) ギラン・バレー症候群によるしびれに鍼治療が有効であった1症例 1)福島県立医科大学会津医療センター鍼灸研修 2)福島県立医科大学会津医療センター附属研究所漢方医学研究室 宮田紫緒里 1)、津田恭輔 2)、山田雄介 1)、加用拓己 2)、鈴木雅雄 2) 【目的】ギラン・バレー症候群(以下 GBS)は、先行感染に伴い両側性弛緩性運動麻痺で急性発症する免疫介在性多発根神経炎である。今回、GBSによる下腿の強いしびれに対して鍼治療が有効であった1症例を報告する。 【症例】63歳女性主訴は下腿の強いしびれ。 [現病歴]X年にCOVID-19を罹患し自宅療養にて寛解したが、13日後に下肢の疼痛と脱力を自覚し体動困難に至り当院総合内科へ入院した。精査後、GBSの診断となりIVIg療法は施行せずに下肢の疼痛は改善し、リハビリ療法により歩行補助具での歩行が可能になった。しかし、経過中に下腿の強いしびれが出現したため、入院12病日に主治医より当科へ紹介となり、しびれに対しての鍼治療が開始となった。 [初診時現症]しびれは強い電撃様のピリピリとした性状であり、突発的に自覚した。部位は両側の足関節周囲に1日最大6回認めた。その他、腰下肢筋の筋力低下に加えて両下肢深部腱反射の消失と振動覚の低下を認めた。 [東洋医学的所見]問診では、痿躄、下腿麻木、易疲労感、労作後の倦怠感などを聴取し、舌は暗紅、痩薄、少苔、脈は細、虚の所見を認めた。 [評価]1日におけるしびれの回数としびれの強さは患者の訴えを評価した。 【治療】鍼治療は弁証論治に基づき気血両虚証、血痺証とした。初診から第5診は下腿にざん鍼を実施し、第6診以降は足三里、三陰交、血海に捻転補瀉手技と鍼通電療法を 1日1回、週 6回の頻度で実施した。 【経過】突発的な強いしびれは鍼治療実施毎に軽減し、「鍼治療を始めてからしびれが減って弱くなり足が楽になった。」と患者の訴えを聴取した。鍼治療継続により1日6回あったしびれは第10診目には消失し、入院30日目に退院が可能となった。 【考察・結語】本症例のしびれはGBSに伴う異常感覚と考えられるが、鍼治療によりしびれの改善が得られており、本症例に鍼治療が有効であったと考えられた。 キーワード:ギラン・バレー症候群(GBS)、しびれ、鍼治療 173(16:12) 上頸神経節置鍼法を用いたアトピー性皮膚炎の一症例 (第2報) 山田鍼灸治療院 山田幹夫 【はじめに】難治であるアトピー性皮膚炎に自律神経の調節を目的とした上頸神経節置鍼法を用いたところ、症状が軽減した症例について、第61回三重大会発表の続報として報告する。 【症例】患者男性、36歳、体重90キロ 202X年8月A皮膚科クリニックにてアトピー性皮膚炎と診断され、プロトピック軟膏、コレクチム軟膏、デルモベート軟膏処方、通院加療中。手の甲、手指の亀裂、皮膚の乾燥、湿疹、全身のかゆみがある。不眠、手洗い不可、2か月間上記にて通院加療するものの一向に良くならないので鍼治療を求めて来院した。 [既往歴]3年前当院にてアトピー性皮膚炎の治療5カ月 30診、緩解。腰痛 【治療・経過】全身の皮膚の状態とかゆみの改善を求めて週1回頻度の鍼治療40ミリ・18号鍼を用いて蠡溝、合谷、外雲門、舌咽神経点、腎兪、水分、会に置鍼、雀啄様刺激後留置,委中に斜刺留置加えて50ミリ・18号鍼で左右の上頸神経節傍らに8分雀琢様刺激。3診目にはかゆみが一次的に減弱、睡眠がとれるほどになるが、皮膚の状態は改善が見られなかった。5診目以降で指先や手の乾燥による亀裂が改善するが、顔や頭のかゆみが増大、全身の皮膚状態も赤く、眠りの質が悪化。10診以降併用していた処方薬(塗り薬)を中断して鍼のみとして治療を継続中。12診で全身のかゆみは減弱し四肢の皮膚の状態は改善、手指の亀裂は消失した。 【考察・結語】上頸神経節置鍼法を用いた鍼治療は、自律神経に働きかけ、アトピー性皮膚炎のかゆみや皮膚の状態を改善する事が前回の発表に引続きに確認できた。アトピー性皮膚炎の原因の一つに自律神経の関与があるが、QOLの改善とともに難治に上頸神経節置鍼法が有用であるのでリスクの高い頸部刺鍼法の確立と症例の集積が課題である。 キーワード:アトピー性皮膚炎、上頸神経節置鍼法、自律神経、 QOL 174(16:24) アトピー性皮膚炎に対する鍼治療 患者記入質問票で重症と評価した1症例 名古屋平成看護医療専門学校はり・きゅう学科 辻大恵 【目的】アトピー性皮膚炎(AD)は痒みとそれに伴うQOLの低下をきたしやすい疾患である。ADに対する鍼灸治療の評価では、痒みには NRSやVASが、QOLには SkindexやDLQIが使用されているが、 The Patient Oriented Eczema Measure(POEM)が使用されることは少ない。そこで、本症例ではADに対する鍼治療の効果をPOEMで評価したため報告する。 【症例】38歳女性。主訴はADによる痒み。 [現病歴]生後間もなく、ADと診断された。症状の増悪と寛解を繰り返しながら現在に至り、X年より本校附属鍼灸院にて鍼治療を開始した。近医よりヒスタミン受容体拮抗薬、皮膚保湿剤、外用 JAK阻害剤、外用副腎皮質ホルモン剤を処方されている。 [所見]皮膚の紅斑や乾燥、落屑を特に顔面部、手指、腰背部、足背に認める。痒みの増悪因子は季節の変わり目や夜間、ストレスである。 [評価]ADの病状にはPOEMを、痒みには NRSとVASを、QOLにはDLQIを使用して、毎回の鍼治療前に行った。 【治療・経過】鍼治療は江川らの報告を基に弁証を風熱証、治則を清熱涼血、配穴を大椎、膈兪、肝兪、曲池、合谷、血海、三陰交、太衝とした。鍼治療は 1週間に 1回の頻度とし、8か月間に 18回行った。POEMは鍼治療開始時に20点(重症)であったが、鍼治療を継続することで12点(中等症)や6点(軽症)を示した。なお、NRS、VAS、DLQIに大きな変化はみられなかったが、鍼治療を受けたことで痒みの改善を示すコメントを得ることが多くあった。 【考察】POEMで重症と評価した ADに対して鍼治療が有用であることが示唆された。また、先行報告では軽度から中等度のADには1週間に2〜3回の鍼治療で良好な状態が維持できたとされているため、痒みやQOLをより良好な状態にするためには鍼灸治療の頻度やセルフケアの実施についても検討する必要がある。 キーワード:アトピー性皮膚炎、 POEM、The Patient Oriented Eczema Measure、痒み、 QOL