一般演題(ポスター発表) 5月26日(日)午前(9:00〜12:00) 1)発表スケジュール(各抄録は全体スケジュールの後に記載してあります) ポスター発表@(Sun-P1-9:00) 9:00〜9:48 腰痛1 座長:井上基浩 072 慢性腰痛者に対するトリガーポイントへの鍼刺激時間の検討 073 腰痛の背景に心理状態が存在する可能性に関する多面的探索 074 非特異的腰痛患者の鍼治療効果に影響を及ぼす因子の探索 075 慢性の腰下肢痛に対する鍼治療 ―施術方法の違いによる疼痛軽減の検討― 9:48〜10:48 腰痛2 座長:北川洋志 小糸康治 076 腰部脊柱管狭窄症が北里方式経絡治療で改善した一症例 077 初診時車椅子で来院した腰部脊柱管狭窄症の鍼治療の一症例 078 下肢神経痛に対し漢方治療と鍼灸施術の併用で効果を示した一例 079 上・中位腰椎の神経根障害と推測された腰下肢痛の一症例 080 痺れを伴う慢性腰痛に鍼通電療法が有効であった1症例 10:48〜12:00 実態調査1 座長:今村頌平 仲嶋隆史 081 医療機関における鍼灸治療の実態と養成校への要望に関する調査 082 eスポーツプレイヤーが抱える身体愁訴に関するアンケート調査 083 東京医療専門学校教員養成科附属施術所の患者動態調査 084 はりきゅう・あん摩・柔道整復利用者のがん検診の受診状況 085 大学附属鍼灸施術所におけるインシデント・アクシデ ントの分析 -落下鍼と鍼の抜き忘れを中心として 086 埼玉医科大学病院における鍼治療受診患者の実態調査 院内外の診療科より依頼があった患者の分析 ポスター発表A(Sun-P2-9:00) 9:00〜10:00 精神科領域 座長:伊藤剛 脇英彰 098 鍼灸臨床におけるHADスケールを用いた不安・抑うつ調査 099 ミラーニューロンに着目した自閉症スペクトラム障害の鍼灸治療法 100 パニック症患者に対する治療に重要と感じたこと 鍼灸治療と目標設定を用いた1症例 101 うつ病患者に対する鍼療法と認知行動療法の併用を試 みた一症例 102 鍼灸と湯液による治療が奏効した難治性身体表現性障害の1症例 10:00〜10:48 睡眠領域 座長:藤田洋輔 103 うつ症状に対する現代医学的考察による鍼刺激の評価法 104 睡眠障害に対する灸セルフケアの血圧に与える影響 −第2報− 105 中途覚醒を訴える患者に対する鍼灸治療と灸セルフケ ア実施の1例 106 挙児希望患者が有していた睡眠障害に対する鍼通電療法の効果 10:48〜11:36 自律神経系 座長:二本松明 107 かかりつけ鍼灸師として患者の命と生活の質を守る 左右同時血圧測定実施の提唱 108 パーキンソン病患者の自律神経症状が経絡治療で軽快した一例 109 鍼刺激が呼吸数に及ぼす影響とHRV解析との関係 5事例についての途中報告 110 局所治療に遠隔部刺激を加えた時の心拍数・血圧への 影響の検討 ポスター発表B(Sun-P3-9:00) 9:00〜10:12 消化器領域  座長:谷口授 石崎直人 124 がん性疼痛患者の便秘症に対する鍼灸治療の1症例 125 質問紙による若年女性の便秘の要因分析質問紙による若年女性の便秘の要因分析 126 胃切除後の嘔吐に鍼治療が奏功したことで退院が可能となった1例 127 鍼灸治療が著効した機能性ディスペプシア患者の1症例 -GSRSを指標として 128 鍼灸研究を視野に入れた胃音と胃電図の同時記録 −1事例における検討− 129 標準治療に奏功しなかった上部消化管愁訴に対する鍼灸治療の症例 10:12〜11:36 中枢神経系 座長:松本淳 武田真輝 130 脳卒中急性期に生じた持続性吃逆に対する鍼治療の効果 131 脳卒中患者の評価ツール「鍼灸ケアシート」の特徴 (第一報) 132 痙縮に伴う腹部絞扼感に対する鍼灸治療の一症 133 片麻痺の上肢痙縮に対して鍼治療を行い関節可動域が改善した一例 134 意識障害軽減と呼吸安定に鍼治療が有用であった重症頭部外傷例 135 座位保持が困難な頸部ジストニア患者に対しての鍼治 136 上肢の震えが著明でADLに支障をきたした上肢ジストニアの一症例 −書字困難に着目した鍼治療− ポスター発表C(Sun-P4-9:00) 9:00〜9:48 鍼(基礎) 座長:谷口博志 147 鍼刺激のイメージは脊髄前角細胞の興奮性を増加させる(予備的調査) 148 変形性膝関節症モデルラットに対する鍼通電の効果 −使用する経穴の差異についての検討− 149 鍼刺激による膝前十字靭帯損傷予防の可能性について 150 四肢と体幹を模した生体モデルへの鍼通電状況のシミュレーション 9:48〜10:48 環境感染・安全性 座長:菅原正秋 新原寿志 151 施術所における災害対策の調査報告 受講者アンケートから見る災害対策の現状 152 衛生的刺鍼のための鍼管のアイデア −片窓鍼管− 153 上肢の肢位の違いが背部経穴の鍼の安全刺入深度に影響を与えるか 154 安全性を配慮し電気ていしんコードで横隔神経刺激を行った1症例 155 衛生的で安全性の高いクリーンニードルテクニックの特許開発 10:48〜12:00 社会鍼灸学 座長:今井賢治 木村友昭 156 高額訴訟事例から後頸部刺鍼のトラブル回避についての考察 157 プレゼンティーズムに対する鍼灸治療その1 −モニタリング調査からみた鍼灸の可能性− 158 中国における江南地域の中医鍼灸について 特に江蘇省の人材の足跡を調査して 159  GHQによる「鍼灸禁止令」の歴史的意義 「三重軍政部月例活動報告書」から読み解く 160 令和6年能登半島地震における鍼灸マッサージ施術導入までの報告 161 災害支援活動からみえた鍼灸マッサージ師の資質 2)各抄録 ポスター発表@(Sun-P1-9:00) 9:00〜9:48 腰痛1 座長:井上基浩 072(9:00) 慢性腰痛者に対するトリガーポイントへの鍼刺激時間の検討 関西医療大学保健医療学部はり灸・スポーツトレーナー学科 北川洋志、増田研一 【目的】本研究は慢性腰痛者を対象に、症状再現が生じるトリガーポイント部への鍼刺激が刺激時間ごとに局所痛覚感受性に対して及ぼす影響について検討した。 【方法】対象は腰部に手術の既往がなく、下肢症状を有さずに3か月以上腰痛を自覚している腰痛者で、第4腰椎棘突起の高さで後正中線から外方約2〜2.5cmの部位(腰部多裂筋)を圧迫した時に腰痛症状の再現を認めた60例(平均年齢22.1±2.1歳)とした。すべての対象者に対して、測定を実施する1週間以上前に圧迫により腰痛症状の再現が認められた部位にエコーガイド下で鍼刺激を行い、症状再現が生じる組織の深度の調査を行った。また刺激時間を6群(単刺群、1分置鍼群、5分置鍼群、10分置鍼群、20分置鍼群、30分置鍼群)に分け、各群10名ずつになるように対象者を無作為に振り分けた。なお、本研究は関西医療大学研究倫理審査委員会の承認のもとで実施した(承認番号:23-08)。すべて群において鍼刺激はステンレス鍼(60ミリ・24号鍼)を用いて、圧迫により症状再現が生じた体表面上の部位で行い、目的の深度まで刺入した後、割り当てられた刺激時間だけ留置した。評価として末梢性感作の指標とされる圧痛閾値(以下、PPT)を鍼刺激部位において刺激前後で測定した。測定機器はNEUTONE TAM-Z2 BT10(TRY-ALL社製)を使用し、プローブはφ10半球タイプとした。 【結果】鍼刺激前後のPPTにおいて5分置鍼群、10分置鍼群、20分置鍼群、30分置鍼群では有意な上昇を認めた(p<0.05)。また各群の鍼刺激前後の変化量を比較したところ、単刺群と10分置鍼群、20分置鍼群、30分置鍼群の間に、1分置鍼群と10分置鍼群、20分置鍼群、30分置鍼群の間にそれぞれ有意な差を認めた(p<0.05)。 【考察・結語】慢性腰痛者の症状再現が生じるトリガーポイント部への単回の鍼刺激における圧痛閾値上昇効果を得るには5分以上の置鍼が必要であり、10分以降は横ばいになることが示唆された。 キーワード:トリガーポイント、慢性腰痛、PPT、圧痛閾値、刺激時間 073(9:12) 腰痛の背景に心理状態が存在する可能性に関する多面的探索 1)中央大学理工学部 2)鍼灸新潟 3)ICM国際メデイカル専門学校 4)海沼鍼灸院 5)新潟医療福祉大学 渡邉真弓1,2,3)、角田洋平2)、浦邉茂郎2)、小川哲央2,5)、中村吉伸2)、岩村英明3)、大槻健吾3)、立川諒3)、角田朋之3)、谷口美保子3)、海沼英祐4) 【目的】鍼灸治療の現場においてよくある主訴に腰痛がある。近年、器質的以外にメンタルヘルスも重要という報告があるが施術には腰痛の原因の探索が必要である。腰痛は主観的主訴であるのでアンケート調査が可能であり鍼灸に興味がある女性を対象に調査を行った。 【方法】20-60歳の女性を対象に全国横断地域性別年齢層化無作為抽出法によるweb調査を行い(n=1000)腰痛(-)(n=646)vs腰痛(+) (n=354)に二分してSPSSを用いて解析した。1. 腰痛の関連因子を抽出(Chi squared test、Multivariate logistic regression) 2.腋窩、額、手、足の体温との関連(Student's t test) 【結果】Chi squared test において21 因子を、Multivariate logistic regressionでは、8因子を抽出した(年齢、貧血との関連、消炎鎮痛剤の使用、ダイエット、夜間頻尿、サウナの使用、「冷え」、疲労感)。さらに、腰痛(+)の体温(腋窩/額)は、腰痛(-)に比し有意に低かった(36.18±0.36 vs 36.13±0.42, p<0.001)。さらに伝統医学的質問において、「冷え」に関する質問にYESの人が、腰痛を訴える率が高かった。 【考察】腰痛も「冷え」も主観的症状である点が共通しており、患者の精神状態が影響する可能性は否定できない。心理的ストレスが、アドレナリン作動性のα受容体を刺激し血流低下を引き起こすことで身体症状としての腰痛が悪化させる可能性もある。心と体を一体に考える伝統医学的質問を有する鍼灸は患者のメンタルヘルスも重視し現代医学を補完できる可能性が高い。 キーワード:体温、ストレス、「冷え」、腰痛 074(9:24) 非特異的腰痛患者の鍼治療効果に影響を及ぼす因子の探索 探索Keele STarT Back screening tool に着目 1)東京有明医療大学保健医療学部鍼灸学科 2)東京有明医療大学大学院保健医療学研究科 南雲世以子1)、藤本英樹1,2)、木村友昭1,2)、松浦悠人1)、谷口博志1,2)、安野富美子1,2)、古賀義久1,2)、坂井友実1,2) 【背景および目的】本研究は、非特異的腰痛患者を対象に鍼治療の効果に影響を及ぼす因子の探索を目的とした。本報告ではKeele STarT Back screening tool(以下、SBST)に着目した検討を行った。 【方法】研究デザインは、症例対照研究とした。対象は、過去10年間に東京有明医療大学附属鍼灸センターを受診し、体幹動作時痛が再現できる非特異的腰痛患者28例とした。主要評価は、体幹動作で生じる痛みのVisual Analogue Scale(以下、VAS)を鍼治療の前後で評価した。副次的評価は、鍼治療前のSBST、患者情報(性別、年齢、身長、体重など)とした。治療効果の判定は、VAS差が30mm以上の減少でResponder(R群)、29mm以下をnon-Responder(NR群)とし、鍼治療は最大圧痛部への刺鍼を必須として、その他の治療を適宜加えた。統計解析は、治療前後VASおよびSBSTの正規性検定(Shapiro-Wilk)後、対応のある2群間比較にWilcoxon符号付順位検定、独立した2群の比較にはMann-Whitney U検定を用いた。各検定統計量(Z)から、それぞれの効果量(r)を求めた。患者情報やSBSTの各質問項目と各群との関連性については、χ2独立性の検定と連関係数(Φ)を求めた。有意水準は5%とした。 【結果】28例の患者(男性12名、女性16名、年齢は、48.4±14.1歳、身長164.6±9.4cm、体重59.2±10.7kg)のVASは治療前41.6±21.4mm、治療後18.9±17.3mmで有意差を認めた(p<0.01、効果量:r=0.61)。鍼治療前のSBSTは、low risk 21例、medium risk 6例、highrisk 1例であった。また、R群(7例)2.9±1.3点、NR群(21例)2.0±1.9点であり、有意な差は認められなかった(p<0.16、効果量:r=0.27)。SBSTの各質問項目と各群との関連性では、問6、9に有意な差が認められた(p<0.05)。 【考察および結語】非特異的腰痛患者の鍼治療の直後効果において、SBSTの問6または問9を選択した患者は鍼治療の効果に影響を与える可能性が示唆された。この結果は、施術者・患者の双方に有用な情報であると考えた。 キーワード:非特異的腰痛、鍼治療、Keele STarT Back screening tool、症例対照研究 075(9:36) 慢性の腰下肢痛に対する鍼治療 ―施術方法の違いによる疼痛軽減の検討― 東京大学医学部附属病院リハビリテーション部 小糸康治、林健太朗、母袋信太郎、永野響子 【目的】当科では腰部脊柱管狭窄症(以下LSCS)に対し鍼治療を行っているが、罹病期間が長く質問紙の評価で心理社会的要因の修飾が疑われる症例は、下肢の末梢神経を対象とした鍼施術方法では疼痛評価(VAS)の軽減が不十分な場合を経験する。今回、罹病期間が長く痛みの破局的思考評価(PCS)が高値であった患者を対象に、慢性疼痛に対して有用とされる鍼施術方法を加えた症例と従来の施術方法のみで行っていた症例をカルテより抽出し介入後の疼痛評価の変化を比較したので報告する。 【症例】LSCS神経根型と診断され、腰下肢痛が10年以上継続しているPCSが35点以上の手術歴のない患者で、初診時より慢性疼痛患者に行う治療法を加えていた3名(前処置群:年齢64.0±7.0歳、VAS 65.3±27.3、PCS 37.0±2.0(平均±SD))。比較する症例はLSCS神経根型で罹病期間3年以上、PCSが35点以上の手術歴がない従来の治療法で行っていた患者3名(比較対象群:年齢73.3±14.0歳、VAS 53.7±33.1、PCS 40.0±6.1(平均±SD))。 【鍼施術方法】前処置群は初めに足三里-合谷への2Hz15分の低周波鍼通電と三陰交、太衝、手三里の置鍼を行い、続けて自覚症状や病態に基づき選択した下肢末梢神経近傍への2Hz15分の低周波鍼通電を週1回の頻度で行った。比較対象群は下肢末梢神経近傍への低周波鍼通電を主に行っていた。評価は初診時と5回施術後のVAS、SF-MPQ、PCSを比較した。 【結果】5回の施術後、VASとPCSの変化量は前処置群の方が大きい傾向であった。SF-MPQに著明な差は認められなかった。 【考察及び結語】LSCS神経根型は比較的予後が良く自然経過で症状が軽快する例も少なくないが症状が遷延するケースもある。引き続き症例を増やして検討する必要があるが、そういった症例に対し下肢の神経血流改善を期待する施術方法の前に上脊髄性の鎮痛を期待する施術方法を行うことで、よりVASとPCSが改善する可能性が示唆された。 キーワード:鍼治療、腰部脊柱管狭窄症、慢性疼痛、PCS、低周波鍼通電療法 9:48〜10:48 腰痛2 座長:北川洋志 小糸康治 076(9:48) 腰部脊柱管狭窄症が北里方式経絡治療で改善した一症例 1)北里研究所病院漢方鍼灸センター鍼灸科 2)北里研究所病院漢方鍼灸センター漢方科 富澤麻美1)、近藤亜沙1)、伊藤雄一1)、井門奈々子1)、井田剛人1)、桂井隆明1,2)、伊東秀憲1,2)、伊藤剛1,2)、星野卓之1,2) 【目的】今回、腰部脊柱管狭窄症患者に北里方式経絡治療を行い、良好な効果が得られたので報告する。 【症例】59歳、男性[主訴]右膝痛、腰痛、右腰から殿部・大腿後側痛[現症]身長:173.5cm、体重:61.2 kg、BMI:20.3、血圧:137/69mmHg、 [既往歴]尿路結石(30歳)、高脂血症(56歳)、正常眼圧緑内障(56歳) [現病歴]X-1年トイレで座る時、両膝上部から大腿前面下部に膝関節屈曲時違和感を自覚。X年Y-10月、長時間の座位時に右腰から殿部の痺れを自覚し、Y-8月に階段を降りる際、右大腿から膝上部に痛みを自覚したため、近医整形外科を受診したが、CR検査では異常を指摘されなかった。しかしX年Y-2月に1時間程度の座位で同部位の疼痛を自覚し、1km程度の歩行時に間欠性跛行が出現し、改善しないためX年Y月に当科を受診した。なお初診3日後に近医でMRI検査により右L3/4から4/5間の腰部脊柱管狭窄症と診断された。初診時のVAS(Visual Analog Scale;mm)は、右膝痛82、腰痛65、右腰から殿部大腿後側痛は82だったが、SLR、ケンプ、Kボンネットテスト、ケンプ徴候は全て陰性だった。 【治療・経過】北里方式経絡治療に基づき脈診により主に腎虚証の本治法を行い、標治法として居りょう・殷門・風市・委陽などに置鍼、志室に灸頭鍼を行った。3診目に懸鍾・秩辺に置鍼後、腰痛、右腰から臀部後側痛の痛みが軽減。5診目に右曲泉・承山に追加したところ、4km歩けるようになった。7診目、VASは右膝痛36、腰痛4、右腰から臀部後側痛40と改善し、さらに右期門・日月に追加したところ間欠性跛行が消失したため、13診目に終診となった。 【考察・結語】本症例は神経根型の腰部脊柱管狭窄症と考えられるが、鍼通電を用いなくても北里方式経絡治療にて標治を活用する事により、全体治療と腰下肢への刺鍼が末梢や脊髄の循環を改善させ、間欠性跛行などの症状にも有効である事が示唆された。 キーワード:北里方式経絡治療、腰部脊柱管狭窄症、腰痛、間欠性跛行 077(10:00) 初診時車椅子で来院した腰部脊柱管狭窄症の鍼治療の一症例 1)東京有明医療大学附属鍼灸センター 2)東京有明医療大学保健医療学部鍼灸学科 判治由弘1)、松浦悠人1,2)、小田木悟1)、加持綾子1)、坂井友実1,2) 【目的】医療機関にてX-P検査で異常なしと判断され、薬物療法での効果がみられず、症状が増悪し車椅子で来院した症例に対し鍼治療を行うとともに、本学附属のクリニックを通して行ったMRI検査で腰部脊柱管狭窄症と診断された1例を報告する。 【症例】88歳女性。 [主訴]左臀部から左下肢の痛みと左下腿の痺れ。 [現病歴]X-1か月前から誘因なく主訴が現れ、近医整形外科を受診。処方されたロキソプロフェン等を服用したが効果は得られなかった。来院1週間前から増悪し、自立歩行不可となり日常生活での支障が強くなったため家族に付き添われ車椅子で来院した。[所見]身長150cm、体重55kg。体幹動作:痛みの為不可。下肢神経学的所見:正常。SLR(-/-)FNS(-/-)、Newton(-/-)。足背動脈触知可。 【鍼灸治療】初診時、L5神経根症状を疑い、疼痛緩和を目的とし左最長筋、左臀部圧痛部位、左前脛骨筋への刺鍼を行った。4診目以降、鍼通電療法を行った。 【経過】初診時の鍼治療直後に疼痛が軽減した。初診治療後に圧迫骨折や腹部疾患等の精査が必要と考え、本学附属クリニックを紹介したところA病院へ精査依頼となり、腰部脊柱管狭窄症と診断された。その後、トラマドール塩酸塩、エチゾラムと鍼治療を併用し経過観察となった。初診、2診目、7診目のNumericalRating Scaleは安静時痛5 6 0、寝返り時痛10 7 0、動作開始時痛10 5 0と推移した。2診目以降、徐々に症状は軽快し、施術間隔を1回/月にした。約8か月後まで経過観察したが再燃することはなかった。 【考察結語】薬物療法の影響も否定できないが、鍼治療は治療直後に体幹動作時痛が軽減したことから本症例の症状の軽快に寄与した可能性は大きいと考える。初診時クリニックへご高診を依頼した事は、より詳細な病態を捉える上で適切であったと考える。本症例の疼痛軽減に鍼治療が有効であると共に、病態を適切に捉えるために医療機関との連携の重要さが示唆される。 キーワード:腰部脊柱管狭窄症、医療連携、腰痛、下肢痛 078(10:12)下肢神経痛に対し漢方治療と鍼灸施術の併用で効果を示した一例 1)東北大学大学院医学系研究科 漢方・統合医療学共同研究講座 2)東北大学病院 総合地域医療教育支援部・漢方内科 3)はり処愈鍼 小泉直照1,3)、高山真1,2) 【目的】西洋医学的治療の効果が限定的な腰椎椎間板ヘルニアに起因する下肢神経痛に対し、漢方治療と鍼灸施術の併用で効果を示した一例を経験したので報告する。 【症例】44歳、女性。 [主訴]左足首外側から腓腹中央までの疼痛。 [現病歴]X-3年の秋、突然左足の大腿部付近に痛みが出現。立位・歩行時に最も痛みが増強し、座位で緩和される。近医にて腰椎椎間板ヘルニアによる第1仙骨神経根症状と診断された。鎮痛薬や神経ブロックなどの保存療法を行ったが、一時的な治療効果しか得られず、疼痛改善を目的に東北大学病院漢方内科を受診。[所見]身長157.5cm、体重77.6kg、BMI 31.3 kg/m2 、血圧123/75mmHg、脈拍91bpm。立位・歩行時の痛みはVAS 86mmであり、松葉杖を使用して歩行していた。脈診は沈でやや。 【経過】漢方薬処方(疎経活血湯・五苓散)開始と同時期に鍼灸施術を開始。症状は漢方医学的には血・痰湿、西洋医学的には腰椎椎間板ヘルニアと仙腸関節障害の併存と考え、活血・去痰、仙腸関節障害の緩和を目的に、両三陰交・足三里、左解渓・丘墟・陽陵泉・仙腸関節に刺鍼した。漢方治療に併用して鍼灸施術を2回施行後、歩行時の痛みが減少し、減量を目的としたエアロバイクを行うことができるようになった。3カ月間、計5回の鍼灸施術後には松葉杖無しで歩行ができ、疼痛VAS 10mm に減少、体重が5kg減少した。 【考察】漢方専門医とカルテ情報の共有など緊密な連携を取ることにより、活血・去痰などを目的とした漢方薬処方と、下肢神経痛と仙腸関節障害の緩和を目的とした鍼灸施術を行い、疼痛の軽減ができたと考えられた。また、これにより運動が行えるようになり、疼痛悪化要因である肥満への対処もできた。結果として相乗的に疼痛改善につながったと考えられた。 【結語】西洋医学的治療の効果が限定的な下肢神経痛に対し、漢方治療と鍼灸施術の併用が有効である可能性が示唆された。 キーワード:漢方、下肢神経痛、病鍼連携、減量 079(10:24) 上・中位腰椎の神経根障害と推測された腰下肢痛の一症例 1)東京有明医療大学附属鍼灸センター 2)東京有明医療大学保健医療学部鍼灸学科 3)東京有明医療大学保健医療学研究科鍼灸学分野 山口紗和1)、高梨知揚1,2,3) 【目的】身体診察を重ねる中で、上・中位腰椎の神経根障害による腰下肢痛と推測し鍼灸治療を継続した結果、良好な経過を得た症例を経験したので報告する。 【症例】64歳男性。主訴は左腰殿部、左大腿前面の痛み [現病歴]X-5日、長時間の車の運転と長時間の川釣りをした後から、左腰殿部・左大腿前面に立位が保持できないほどの痛みが出現した。数日経っても痛みが治まらず、X-1日にマッサージを受けるも症状の改善がみられなかったため、当院を受診。 [症状・所見]痛みのため杖歩行。間欠跛行(+)。胸腰部の前・後屈、自動での下肢伸展挙上、L3棘突起およびその左外方3cm押圧で主訴が再現、また、側臥位にて股関節伸展・内転位を取ると主訴が強く再現される。他動での左下肢伸展挙上テスト(-)、左大腿神経伸展テスト(-)。股関節可動域制限および痛み(-)。膀胱直腸障害(-)。痛みの程度はVisual Analogue Scale (VAS)にて79mmであった。 【治療・経過】初診の段階で他科診療を促したものの、明確な診断病名は告げられなかった。当院では腸腰筋由来と上・中位腰椎神経根由来の両者の病態を考慮し、腰殿部、股関節前面、大腿前面の疼痛部位局所への置鍼、症状部位に流注する経絡上への温筒灸を行い、2診目には大腿神経への低周波鍼通電療法を加えた。3診目には、大腿前面筋の筋力低下、大腿前面の知覚異常が認められ始めたことから、改めて上・中位腰椎の神経根障害と推測した。また大腿外側部の痛みが新たに出現したため、外側大腿皮神経への低周波鍼通電療法を加えた。5診目(治療開始後5週)で痛みのVASが6mmまで減少し、その後痛みは違和感程度となり、9診目(治療開始後15週)で完全に消失した。 【考察・結語】本症例からは、明確な診断病名が告げられていない中でも、経時的に変化する患者の症状に対して細かな身体診察を繰り返すことで、治療効果に繋がる適切な病態把握が鍼灸臨床においても可能であると考えられた。 キーワード:腰下肢痛、鍼灸、身体診察、病態把握 080(10:36) 痺れを伴う慢性腰痛に鍼通電療法が有効であった1症例 PDASとRDQ日本語版を指標として 筑波技術大学大学院技術科学研究科保健科学専攻 鍼灸学コース Bolot kyzy Shirin、近藤宏 【目的】慢性腰痛はADLに支障をきたし、腰痛患者のQOLに悪影響をもたらすことが知られている。今回、鍼施術が慢性腰痛患者に対して疼痛や痺れと共にADL制限やQOLの改善が観察された症例について報告する。 【症例】64歳女性、主婦。主訴:腰痛、右下腿部の痺れ感診断名:変形性腰椎症 [現病歴]X年8月にコンサート鑑賞後より帰宅時に突然、腰痛が出現した。翌日から右臀部から下肢にかけて強い痛みとしびれ感が発症し、数日間は夜間痛もみられた。市販の鎮痛剤を内服し様子をみたが症状に変化がないため、11月本学附 属医療センターを受診し鍼施術開始した。 [所見]腰部両側及び右臀部の鈍痛と右下腿前面及び外側面部の痺れ感が常時ある。X線画像で、L2/L3及びL4/L5 DSN+、ケンプテスト+/−、体幹後屈制限+ 【治療・評価】痛み及び痺れについては毎回鍼施術前にVASを用いて評価した(100mmを想像できる最も激しい痛みまたは痺れとした)。またQOLについてはRDQ日本語版、ADL制限についてはPDAS日本語版を用いて、4週間毎に評価した。 【治療・経過】左右L3/4、L4/5椎間関節部及び右総腓骨神経部に対して、鍼通電療法(1Hz、15分間)を行った。右梨状筋下孔部・大殿筋部及び左右腰部脊柱起立筋部の圧痛点部に対して置鍼術(15分間)を行った。初療時の腰痛VASは25mm、右下腿の痺れVASは30mmであった。鍼施術毎に症状は改善し6療目には腰痛VAS 5mm、7療目には右下腿の痺れVAS 0mmとなった。なお、RDQは初療時8点が4週後(4療目)には6点、PDASは初療時36点が4週後(4療目)には19点となり、改善した。 【考察・結語】本症例に対する鍼施術は疼痛や痺れの改善とともにQOLやADL制限の改善に役立つ可能性が示された。 キーワード:慢性腰痛、しびれ、鍼通電療法、PDAS、RDQ 10:48〜12:00 実態調査1 座長:今村頌平 仲嶋隆史 081(10:48) 医療機関における鍼灸治療の実態と養成校への要望に関する調査 森ノ宮医療大学医療技術学部鍼灸学科 松熊秀明、鍋田智之 【目的】鍼灸治療を導入していると考えられる医療機関を対象として「鍼灸治療の実施状況」、「求められる人材の条件」、「養成校での教育に求める事柄」などについて調査した。 【方法】医療機関検索サイト「病院なび」を用いて「鍼灸」のキーワードで検索した関西2府4県の医療機関116件を対象とした。調査は質問紙郵送法で実施した。調査期間は2023年10月〜11月とした。調査内容は1)鍼灸治療の導入状況、2)担当者、3)導入場所、4)診療科、5)治療費、6)開設日、7)導入理由、8)導入継続における必要事項、9)採用条件、10)求める知識・技術、11)養成校への要望とした。本調査は森ノ宮医療大学学術研究委員会の承認を得て実施した(2023-062)。 【結果】回収数は30件(回収率25.9%)であった。鍼灸治療の導入状況は26施設(86.7%)であり、8施設は医師が治療を行っていた。23施設が施設内で治療を行っており、主な診療科・部門は漢方外来、リハビリテーション科、整形外科であった。治療費は22施設で徴収しており、10施設で毎日治療が行われていた。鍼灸治療を導入する理由は21施設が効果があるからとしたが、医療機関内での混合診療を可能とする必要を半数以上が訴えた。鍼灸師の採用形態は17施設が経験者を必要とした。一方、採用する人材には鍼灸に関する高い技術と知識だけでなく、多職種連携の出来ることが求められており、養成校に対する要望でも西洋医学の幅広い基本的知識以外に電子カルテの操作や医療事務能力も求めた。 【考察・結語】鍼灸治療を導入し、鍼灸師を採用している医療機関は少なからず存在している。その採用条件は経験者重視に現れるように、確かな知識・技術以外に多職種連携の能力や医療機関で働く基礎力であった。鍼灸師のフィールドを広げるためには養成校においてこれらの能力を持つ人材を育成するカリキュラムを検討する必要があると考える。 キーワード:実態調査、質問紙法、専門教育、病院、鍼灸療法 082(11:00) eスポーツプレイヤーが抱える身体愁訴に関するアンケート調査 1)大阪府鍼灸マッサージ師会 2)履正社国際医療スポーツ専門学校 3)森ノ宮医療大学 佐藤想一朗1)、古田高征1,2)、松熊秀明3)、鍋田智之3) 【目的】近年、eスポーツ競技人口が増加している。eスポーツが身体にどのような影響を与えるのかを調べた報告は少なく不明な点が多いが、長時間の同一姿勢やモニター画面の凝視、身体操作が何らかの身体症状を引き起こすことが推測される。そこで、eスポーツ教育を行う専門学校において学生が抱える身体愁訴を調査し、鍼灸マッサージ治療がeスポーツ領域へ活用できる可能性を検討した。 【方法】対象はeスポーツ選手育成を行う専門学校に在籍する学生とした。調査内容は、競技歴、身体愁訴の有無とその内容、鍼灸マッサージ治療に対する期待とイメージ、鍼灸マッサージ治療の経験の有無などとし、Googleフォームを用いて回答を得た。 【結果】回答数は57名であった。平均競技年数は3.48±2.91年であった。競技歴は1年以内の者から10年以上の者まで様々であった。競技年齢を1年以内、3年未満、3年以上と区分し有愁訴率を比較した。1年以内は「愁訴なし」約50%、「時々ある」約38%、「ある」約13%、3年未満は「愁訴なし」25%、「時々ある」約50%、「ある」約25%、3年以上は「愁訴なし」約31%、「時々ある」約54%、「ある」約17%であった。競技年数1年を超えると何らかの愁訴を抱えるものが増加していた。愁訴で多いものは、目が疲れている、首や肩がこっている、腰が痛いなどで、長時間の同一姿勢やモニター画面の凝視の影響と考えられた。受療経験の有無から治療のイメージを比較すると、経験者の方が「痛みを減らす」などポジティブな施術効果について高い回答であった。 【考察・結語】愁訴の中で多く訴えられた首・肩・腰の症状は臨床で多く経験する愁訴であり、鍼灸マッサージ治療がeスポーツプレイヤーへの治療として活用できることが示唆された。治療のイメージは経験者でポジティブな回答が多いものの、「あやしい・効果がない」との意見もあり、個々の状況に合わせた施術や説明が必要と考えられた。 キーワード:eスポーツ、アンケート調査、意識調査 083(11:12) 東京医療専門学校教員養成科附属施術所の患者動態調査 1)東京医療専門学校教員養成科 2)呉竹学園東洋医学臨床研究所 栗林晃大1)、金子泰久2)、上原明仁2)、小川裕雄1) 【目的】東京医療専門学校教員養成科附属施術所は、過去4回、動態調査が行われている。2024年8月に代々木(東京都渋谷区)から四谷(新宿区)に移転するため、移転前の最終年度の患者動態の把握を目的に調査した。 【方法】2022年10月31日から1年間の来所患者を対象に、総患者数、新規患者数、年間治療日数、総治療回数、月別と曜日別の患者数、男女比、年齢、居住地、通院年数、主訴、治療種別の割合を調査した。 【結果】総患者数は270人、新規患者数は73人、年間治療日数は200日、総治療回数は7286回、月別患者数は、6月が最も多く798人、8月が最も少なく319人、曜日別の平均患者数は、水曜日が最も多く39.9人、平均は36.4±2.2人であった。男女比は30:70、平均年齢は67.1±14.5歳、年代は70代(30.0%)、60代(21.1%)、80代(19.6%)の順に多く、居住地は85.2%が東京都で、市区町村では渋谷区(18.3%)、世田谷区(12.6%)、練馬区(11.3%)の順であり、10年以上通院している患者は73人(28.5%)、主訴は頚肩の凝り・痛み(32.6%)、腰痛(20.4%)、下肢の痛み・痺れ(10.4%)、膝関節痛(9.6%)であった。治療種別は現代鍼灸(38.9%)、経絡治療(25.2%)、中医鍼灸(24.4%)、手技(11.5%)であった。 【考察・結語】本調査を通じて、当施術所の現状と動態を把握することができた。最も多い患者像は運動器系の主訴をもつ高齢者であることが明らかとなった。また、過去4回の調査と比較すると、第1回から本調査までの患者の平均年齢が上昇しており、長期通院している患者が多いことが推察された。施術所移転後にはこれらの患者層の中に、継続通院が困難となる者が出ることが推察される。 キーワード:実態調査、患者動態、専門学校附属施術所、調査報告、ICD-11 084(11:24) はりきゅう・あん摩・柔道整復利用者のがん検診の受診状況 国民生活基礎調査を用いた反復横断研究 1)岡山大学医学部疫学・衛生学分野 2)鍼灸治療院簡松堂 松木宣嘉1,2) 【目的】補完代替医療の利用者の医療機関への受診行動は、適切な医療を受ける機会の喪失を防ぐ意味で重要であり、補完医療の利用者はがん検診の受診率が高くなり、代替医療の利用者はがん検診の受診率が低くなることが報告されている。しかしながら日本ではこのような報告は乏しい。そのため日本で一般的な補完代替医療である、はり・きゅう・あん摩マッサージ指圧・柔道整復の利用者のがん検診および健康診断の受診状況を調査し、補完代替医療利用者の医療機関受診行動について検討することとした。 【方法】2001年から2013年に実施された国民生活基礎調査データに含まれる83,827人のうち、がん検診データのない20歳未満の15,610を除外した68,217人を研究対象とした。曝露ははり・きゅう・あん摩マッサージ指圧・柔道整復の利用、アウトカムは胃がん、肺がん、大腸がん、子宮頸がん、乳がんの検診と健康診断の受診とした。統計解析はパラメーターをマルコフ連鎖モンテカルロ法にて推定したクロス分類マルチレベルロジスティック回帰モデルを用い、Age-Period-Cohort分析にてがん検診と健康診断のオッズ比と95%信用区間(credible interval: CI)を推定した。 【結果】はり・きゅう・あん摩マッサージ指圧・柔道整復利用者の胃がん検診、肺がん検診、大腸がん検診、子宮がん検診、乳がん検診受診の調整オッズ比はそれぞれ1.40 (95%CI:1.35-1.44)、1.37 (95%CI:1.34-1.40)、1.52(95%CI:1.49-1.54)、1.29 (1.26-1.38)、1.37 (1.33-1.41)、健康診断受診の調整オッズ比は1.29 (1.27-1.31)であった。 【考察・結語】はり・きゅう・あん摩マッサージ指圧・柔道整復利用者は、すべてのがん検診、健康診断を受診する傾向にあることが示唆された。 キーワード:がん検診、健康診断、Age-period-cohort分析、マルコフ連鎖モンテカルロ法、クロス分類マルチレベルロジスティック回帰モデル 085(11:36) 大学附属鍼灸施術所におけるインシデント・アクシデ ントの分析 -落下鍼と鍼の抜き忘れを中心として 1)東京有明医療大学保健医療学部鍼灸学科 2)東京有明医療大学附属鍼灸センター 菅原正秋1,2)、木村友昭1,2)、水出靖1,2)、古賀義久1,2)、高梨知揚1,2)、高山美歩1,2)、谷口授1,2)、谷口博志1,2)、藤本英樹1,2)、松浦悠人1,2)、矢嶌裕義1,2)、安野富美子1,2)、坂井友実1,2) 【目的】東京有明医療大学附属鍼灸センター(以下、鍼灸センター)では、2011年の開設当初からインシデント・アクシデントレポートシステムを導入している。今回は、2020〜2022年度の3年間の報告を集計し、事象として比較的多くみられた落下鍼および鍼の抜き忘れについて詳細な分析を行った。 【方法】調査対象は、鍼灸センターにおいて作成・保管されていたインシデント・アクシデント報告で、2020年4月から2023年3月までの3年間の192件とした。インシデント・アクシデントの種類と件数を集計し、「通常でない場所での鍼の発見(以下、落下鍼)」および「鍼の抜き忘れ」の項目にチェックが入っているものについては、さらに詳細な分析を行った。 【結果】報告件数の上位は、落下鍼106件(55.2%)、鍼の抜き忘れ21 件(10.9%)、出血・内出血13 件(6.8%)であった。落下鍼の詳細では、発見場所は施術室の床が多く(71件)、鍼の種類は40mm・14号(25件)と40mm・16号(24件)が多かった。また、鍼の抜き忘れの詳細では、発見場所は施術室(9件)、患者の自宅(8件)が多く、施術部位は頭部・殿部(各4件)が多かった。鍼の種類は40mm・16号(8件)、60mm・20号(5件)が多かった。患者被害としては、疼痛の残存が1件あった。抜き忘れた要因としては、多くの報告でダブルチェックまたはクロスチェックが不十分であったことが挙げられていた。 【考察・結語】落下鍼の上位を占めた鍼は、鍼灸センターの年間使用本数の上位を占める鍼であった。また、鍼の抜き忘れについては、患者が自宅で発見した事例が8件あり、さらなる有害事象を引き起こす可能性をはらんでいた。しかし、今回は折鍼や臓器損傷などの事例は発生していなかった。落下鍼と鍼の抜き忘れの両事象は、使用鍼のカウントを怠っていることが発生要因と推測できるため、今後は施術者に対し、ダブルチェックおよびクロスチェックの徹底を促す必要があると考えられた。 キーワード:インシデント、アクシデント、有害事象、落下鍼、鍼の抜き忘れ 086(11:48) 埼玉医科大学病院における鍼治療受診患者の実態調査 院内外の診療科より依頼があった患者の分析 埼玉医科大学病院東洋医学科 田口知子、井畑真太朗、皆方英樹、村橋昌樹、中原崇、浅香隆、堀部豪、小内愛、山口智 【目的】本邦では鍼治療受診可能な大学病院は少なく、医療連携に関する実態調査報告はほとんど見当たらない。埼玉医科大学病院における鍼治療受診患者は、当院内診療科、及び、当院外医療機関からの紹介が多い。そこで今回は当科への受診経緯や診療依頼のあった疾患について分析した。 【方法】調査期間は2008年4月〜2020年12月、対象は当科の鍼治療初診患者、調査項目は性別、年齢、受診経緯、診断名とし、当院電子カルテから情報を抽出した。 【結果】初診患者総数は2939名、男性1210名(41.2%)、女性1729名(58.8%)、年齢は多い順に60歳代713名(24.3%)、70 歳代589 名(20.0%)、50 歳代495 名(16.8%)であった。医師からの紹介は2328名(79.2%)、そのうち当院他診療科からの紹介が2028名(69.0%)、紹介元診療科は脳神経内科731名(36.0%)、当科漢方診405名(20.0%)、神経耳科329名(16.2%)、整形外科133名(6.6%)が多かった。診断名はベル麻痺605名(29.8%)、緊張型頭痛150名(7.4%)、ラムゼイハント症候群114名(5.6%)、腰部脊柱管狭窄症83名(4.1%)が多かった。外部医療機関からの紹介は299名(10.2%)、診断名はベル麻痺48名(16.0%)、腰部脊柱管狭窄症31名(10.3%)、緊張型頭痛12名(4.0%)が多かった。また、診断名のない機能性疾患の紹介も504名(21.6%)と多かった。 【考察・結語】当科における鍼治療受診患者の大半は医師からの紹介であり、医療連携が推進されていることが示された。今回の結果から、院内外共に医師から鍼治療に期待される疾患は、末梢性顔面神経麻痺、緊張型頭痛、腰部脊柱管狭窄症が上位であることが示唆された。一方、診断名のない機能性疾患で紹介される患者も散見された。 キーワード:大学病院、鍼治療、実態調査、医療連携 ポスター発表A(Sun-P2-9:00) 9:00〜10:00 精神科領域 座長:伊藤剛 脇英彰 098(9:00) 鍼灸臨床におけるHADスケールを用いた不安・抑うつ調査 1)鈴鹿医療科学大学鍼灸治療センター 2)鈴鹿医療科学大学保健衛生学部 鍼灸サイエンス学科 光野諒亮1)、浦田繁2) 【目的】「疼痛」は、不安や抑うつを増加させるが、「疼痛」患者が多い鍼灸治療院において、それら精神状態を調べたものは少ない。また一般人との比較を行った研究は、我々の知りうる限りみられない。本研究では、鍼灸患者と一般人を対象にHAD (Hospital Anxiety and Depression)スケールを用いて「不安度」と「抑うつ度」を調査し比較検討した。 【方法】対象は、鈴鹿医療科学大学附属鍼灸治療センター患者67名(センター群)年齢53.3±19.4歳(平均値±標準偏差、以下同様)、鈴鹿市主催救急健康フェア参加者78名(フェア参加群)年齢54.7±17.5歳とした。調査においてHADスケールは自己記入式とし、年齢・性別・症状を聴取した。解析は、student t-testを用いて群間比較した。 【結果】「不安度」は、全体にてセンター群7.5±2.2点(中央値7、以下同様)・フェア参加群5.2±3.9点(4)、男性にてセンター群7.7±2.4点(7)・フェア参加群4.3±3.0点(4)、女性にてセンター群7.4±2.0点(7)・フェア参加群5.5±4.1点(4.5)となり、いずれもセンター群が有意に高い点数となった(p<0.01)。「抑うつ度」は、全体にてセンター群10.6±2.0点(11)・フェア参加群5.8±3.1点(5)、男性にてセンター群10.6±1.9点(11)・フェア参加群6.7±3.3点(7)、女性にてセンター群10.6±2.0点(11)・フェア参加群5.5±3.0点(5)となり、いずれもセンター群が有意に高い点数となった(p<0.01)。 【考察および結語】「不安度」「抑うつ度」ともにセンター患者では、フェア参加者より有意に高い点数を示したことから、症状をもつ一般人よりも鍼灸患者は、不安や抑うつが強いことが示唆された。抑うつ度について中央値が11点を示した。11点以上は、うつ病等の可能性を示唆している。したがって鍼灸師は、患者の精神的な背景に常に留意しなければならないことが示唆された。 キーワード:不安、抑うつ、HAD、鍼灸、患者 099(9:12) ミラーニューロンに着目した自閉症スペクトラム障害の鍼灸治療法 ― 難治性てんかんの併存する症例― 1)一般財団法人ファジィシステム研究所 2)ヤマック鍼灸アカデミー 3)九州工業大学 山川烈1,2,3) 【目的】自閉症スペクトラム障害はミラーニューロンの脆弱化によるという仮説に基づき、ミラーニューロンの活性化方法を、また、てんかん発作抑制のための効果的鍼灸施術法を求める。 【症例・現病歴・所見】52歳。男性。3歳のころに自閉症と診断。以来、自閉症スペクトラム障害。48歳の時、最初のてんかん発作(全身が硬直、救急車で病院へ搬送)。その後4カ月の間に8回のてんかん発作。脳神経内科で抗てんかん薬(レベチラセタム錠、ビムパット錠)が処方されてはいるが、自閉症スペクトラム障害に対する治療は全く無し。 【治療・経過】西洋医学によるてんかん治療と並行して、鍼灸の介入により、「自閉症スペクトラム障害の改善」と「てんかん発作の抑制」の同時治療を試みた。刺鍼部位は、耳介の三角窩に一穴、耳甲介舟に三穴、耳甲介腔に一穴、そのほか耳門、聴宮、聴会、合谷、手三里。毫鍼(0.16mmΦ)を適切な深さに置鍼(20分間)した後、各穴に電子温灸(メンシンBS-15)を10壮ずつ施し、最後にそれら全てに円皮鍼(パイオネックス1。5mm)を貼付。三か月程度でコミュニケーション能力が上がり、てんかん発作も、鍼灸介入後20カ月の間に4回に抑制できた。 【考察・結語】Mirella Daprettoらは、高機能自閉症児の前頭葉下部のミラーニューロンが活動していないことをfMRIで示した(2006)。Masatoshi ITOHらは、合谷のTENS刺激により前頭葉眼窩回が賦活化されることを報告した(2001)。一方、迷走神経刺激はてんかん発作の抑制と同時に、やる気の亢進にも有効であることが知られている。これらのことを踏まえ、本論文では、耳介迷走神経、耳介側頭神経(耳門、聴宮、聴会)および合谷、手三里の鍼灸刺激が、自閉症スペクトラム障害の改善とてんかん発作の抑制に有効であることを示した。今後の課題は、その機序を明らかにすることである。 キーワード:ミラーニューロン、自閉症スペクトラム障害、難治性てんかん、うつ症状、耳介迷走神経 100(9:24) パニック症患者に対する治療に重要と感じたこと 鍼灸治療と目標設定を用いた1症例 -Sun-P2- 1)ここちめいど 2)女性専門治療院はり灸さくら堂 3)新潟医療福祉大学リハビリテーション学部 鍼灸健康学科 4)はりきゅう処ここちめいど 外松恵三子1,2)、金子聡一郎1,3)、米倉まな1,4) 【はじめに】患者が「良くなってほしい」と願うことは施術者にとって切実な感情である。しかし、施術者が改善に注目しすぎると、患者本人が焦りを感じたり、自身を否定してしまうケースがある。今回、1人で外出が困難なパニック症の患者に対して鍼灸治療と平行して改善を押しつけない態度と目標達成を共有することにより通学が可能となった症例を経験したので報告する。 【症例】[主訴]外出困難、31歳、女性、身長159cm、体重48kg。X-1年7月、仕事のストレスから外出が困難となり近医精神科にてパニック症と診断、標準治療にて改善した。新型コロナワクチン接種後の翌朝にパニック発作が再燃し、その後回復するも再燃を繰り返していたため、X年11月鍼灸治療の開始となった。 [随伴症状]胸腹部不快感、悪夢、早朝覚醒、手足冷え、月経痛。 【治療】[治療方針]鍼灸治療、目標設定を行い、対話により施術者の価値観を押しつけない姿勢で望む。 [鍼灸治療]Kiiko Style(腹部圧痛の消失を目標に取穴)、灸頭鍼。[薬物療法]半夏厚朴湯、桂枝加竜骨牡蠣湯、ロフラゼプ酸エチル。[目標設定]大(職業訓練校に通う)・中(駅まで一人で往復)・小(郵便局・眼科・美容院まで往復)目標を設定。 【経過】「改善させたい」という施術者側の思いは極力表出させず、傾聴を交えて施術に臨んだ。[初診]一人で寝る、診察室に入れない。[7診目]母親同伴にて外出が可能。[20診目]学校に通うという目標を設定、中目標に困難を感じ、小目標を段階的に設定。[22診目]「よくなる」ことについて患者の思いを傾聴する。[23診目]単独で中目標をクリア。[32診目]通学が可能となり開始となる。 【考察および結語】施術者の「良くなってほしい」という思いは、ときとして病を抱える本人の否定につながることがあると考えられた。本症例では、患者との対話により価値観を押しつけない姿勢で望み、かつ目標達成を共有することで、患者の改善を促したと推測された症例であった。 キーワード:パニック症、価値観を押しつけない、目標設定、鍼灸治療、傾聴 101(9:36) うつ病患者に対する鍼療法と認知行動療法の併用を試 みた一症例 1)帝京平成大学ヒューマンケア学部鍼灸学科 2)帝京池袋鍼灸院・鍼灸臨床センター 脇英彰1,2)、鈴木卓也1,2) 【目的】うつ病患者の治療には薬物療法、認知行動療法(CBT)が推奨されている。近年、国外において推奨治療に鍼治療を併用した症例についての報告が散見されるようになったが、国内において「はり師」が鍼治療にCBTを併用した例は報告されていない。 【症例】30代、男性、事務職。 [主訴]抑うつ、不安、倦怠感、入眠困難および中途覚醒。 [既往歴]アトピー性皮膚炎。 [現病歴]X-5年、職場のストレスにより転職、X-2年4月に心療内科を受診し、うつ病と診断され、薬物療法(抗うつ・抗不安薬)を開始する。X年4月、倦怠感がさらに強くなり、午後勤務のみとなる。X年9月、週1回の休日午後勤務となり、症状の改善を求めて鍼治療とCBTを開始することとなった。 【方法】鍼治療はYin Xらの研究をもとに、内関、神門、三陰交、安眠、風池に置鍼、神庭と百会、左右の四神聡に100Hzの鍼通電を10分間実施し、各身体症状に応じて単刺を行った。治療頻度は1回/週を基本とした。CBTは「睡眠日誌」のアプリを用いて、睡眠衛生指導などを5週間行い、その後、セルフヘルプとして自記式の書籍を用いて認知再構成法などを5週間行った。効果判定は、不眠重症度尺度(ISI)、抑うつ尺度(PHQ-9)および不安尺度(GAD-7)とした。 【経過】初日ではISIが15点(中等度)、PHQ-9が16点(中等度〜重度)、GAD-7が12点(中等度)であったが、6週後でISIが9点(軽度)、PHQ-9が13点(中等度)、GAD-7が4点(正常値)となり、精神科医との相談の上で減薬を開始した。7週後では通常勤務の復帰までは至らず退職となった。12週後ではISIが2点(正常値)、PHQ-9が9点(軽度)、GAD-7が3点(正常値)となり、復職に向けて活動できるまでに回復した。 【考察・結語】本症例は、薬物療法に加え、はり師による鍼治療とCBTの併用により、概ね良好な経過をたどることができた。今後は鍼治療のみの場合とCBTを併用した場合との比較検討に発展させたい。 キーワード:抑うつ、不眠、認知行動療法 102(9:48) 鍼灸と湯液による治療が奏効した難治性身体表現性障害の1症例 北里大学北里研究所病院漢方鍼灸治療センター 伊藤剛、富澤麻美、近藤亜沙、伊藤雄一、 井門奈々子、井田剛人、桂井隆明、伊東秀憲星野卓之 【目的】原因不明の難治性身体表現性障害に対して、 東洋医学的治療の有効性を示す症例を経験したので報 告する。 【症例】16歳女性、主訴は不眠、全身倦怠感、食欲不振。 [現病歴]X-2年、足の転倒骨折後に全身痛と食欲不振が起こり体重5kg減少。その後、原因不明の嘔気や食後の呼吸苦と失声を生じ、救急を頻回受診後大学病院に入院。退院後COVID-19に感染し、回復後に原因不明の腹痛と体重減少があり、大学病院で低血圧と起立性調節障害として治療されたが、不眠、全身倦怠感、食欲不振などの症状が改善しないため、X年、当漢方鍼灸治療センターを受診。 [所見]BMI17.5、血圧118/68mmHg、脈拍90bpm。リアルタイム心拍変動検査では交感神経反射低下と副交感神経過剰反応。CMI、POMS、TEG、GHQなどの精神心理検査では、準神経症、攻撃性、心理的混乱、軽度のうつ傾向などを認めた。 【治療・経過】不眠、全身倦怠感、抑うつ、腹痛、食欲不振、肩背部の強い凝りなどに対し、漢方では煎じ薬の加味帰脾湯合桂枝加葛根湯を処方。また鍼灸では、北里式経絡経筋治療として肺虚証の脈診に基づく本治穴と共通基本穴に加え、四神聡、肩井、天、膏肓、太衝と足陽明経筋の陥谷、旁谷、侠渓などに刺穴し、督脈上の身柱から至陽に温筒灸を行ったところ、治療直後から症状の改善が診られ、4ヶ月後(5診目)には、VAS(mm)でも食欲不振は96 61、不眠は89 0、全身倦怠感は80 4まで改善を認めた。なお使用鍼は灸頭鍼以外、基本的に40ミリ・20号鍼で15分間の置鍼を行った。 【考察】本症例は、現代医学的には原因不明で難治であったが、鍼灸医学的には慢性的な肩背部の過度な筋と緊張に伴う経絡や交感神経の過緊張により生じた肺虚と脾虚などによる内臓の機能異常が原因と捉えることで治療が奏効した。 【結語】鍼灸と湯液を合わせた東洋医学的治療は、現代医学において原因不明で難治な症状に対しても有効であることが示唆された。 キーワード:北里式経絡経筋治療、身体表現性障害、鍼灸治療、湯液治療、難治性 10:00〜10:48 睡眠領域 座長:藤田洋輔 103(10:00) うつ症状に対する現代医学的考察による鍼刺激の評価法 呼吸と循環を用いた心身連関テストについて 大阪公立大学都市健康・スポーツ研究センター 山下和彦 【目的】本研究は、現代医学的考察による鍼刺激が睡眠障害に対する有効性について、心電図および呼吸測定による心臓自律神経機能から評価することを目的とした症例報告である。 【症例】症例は62歳、女性。[経過・所見]56歳の時に一人息子が自分の思いと異なる大学に入学し、一人暮らしとなってから不眠症状が発症した。61歳に良性の卵巣嚢腫が発見されてからは将来の不安から入眠障害、中途覚醒が継続するようになる。近隣医科に「うつ病」と診断されて薬物治療を継続したが症状不変にて転院し、他院にて「適応障害」と診断されて薬物治療を変更したが症状不変のため、整体、鍼灸、気功を継続したが症状不変のため当院に来院した。主訴は入眠障害、中途覚醒。[治療目的と評価法]鍼刺激は心臓自律神経機能の亢進目的とし、他覚的評価法は臥位、座位ならびに両姿勢での深呼吸による心拍変動および呼吸性洞性不整脈から心臓自律神経機能を評価した。 【方法】刺鍼法は左右の合谷―孔最、足三里―三陰交へ長径40ミリ直径0.18ミリを1Hzの鍼通電療法を行うと共に、腹部置鍼を巨闕、中\kan\、水分、盲兪、天枢、梁門、巨骨へ長径40ミリ直径0.14ミリに25分間である。この刺鍼法は心電図および呼吸測定、脈波等による測定によって心臓自律神経機能の亢進が報告されている手法である。 【治療・経過】今回、昼寝をしたことの無い入眠障害、中途覚醒の症例が本刺鍼法で入眠し、心臓副交感神経機能の亢進が認められた。 【考察】現代医学的考察による鍼手法による睡眠障害に対して主観的評価だけでなく、客観的評価として心臓自律神経機能の評価が可能であることが示唆された。また、今後ますます増加が推定される開業鍼灸師の慢性症状の鍼灸治療に関して、患者にわかる客観的心臓自律神経機能評価の有効性についても示唆された。本臨床報告は症例本人の同意を得て、ヘルシンキ宣言に基づく倫理規範に準拠しておこなった。 キーワード:睡眠障害、現代医学的思考による鍼刺激、自律神経、心拍変動、呼吸性洞性不整脈 104(10:12) 睡眠障害に対する灸セルフケアの血圧に与える影響 −第2報− 1)森ノ宮医療大学医療技術学部鍼灸学科 2)関西医療大学保健医療学部 はり灸・スポーツトレーナー学科 鍋田智之1)、松熊秀明1)、堀川奈央1)、鍋田理恵2)、宮武大貴1)、高橋秀郎1) 【目的】入床前の灸セルフケアが睡眠障害を改善し、同時に血圧の改善にも有用かを検証する。2023年度の第1報に引き続き現況を報告する。 【方法】ピッツバーグ睡眠調査票(PSQI)が6点以上で収縮期血圧が140mmHg未満かつ拡張期血圧が90mmHg未満である者を対象とし、無作為に対照群と灸治療群に割り付けた。期間は介入前2週間、介入4週間、介入後2週間とした。介入は被験者自身が入床30分前までに週3回以上太衝穴、太渓穴、足三里穴、内関穴、神門穴に台座灸を実施した。睡眠はPSQIを2、6、8週目に記録した。血圧は朝晩各3回測定した中央値を用いた。本研究は森ノ宮医療大学学術研究委員会の承認を得て実施した(承認番号2022-025)。利益相反は無い。 【結果】2023年12月時点で12例を収集し、介入開始前にPSQI6点以上の基準を満たした8例を解析対象とした。PSQIは介入群(n=5 59.6±7.1歳)で10.0±2.56.2±2.3と低下し、対照群(n=3 55.7±4.6歳)では9.0±1.0 9.7±3.5で変動しなかった。起床時の収縮期血圧は対照群で130.8±7.9 130.3±11.4と変化しなかった。介入群では131.1±9.2 129.4±12.2となり、5例中3例で低下傾向を示した。起床時の収縮期血圧が顕著な低下傾向を示し、夜間頻尿が認められた1例において分割表分析を行った結果、介入群で140mmHg未満の記録が多く(p<0.01)、排尿回数に有意差が認められた(介入群1.1±0.9回対照群2.3±0.9回p<0.01)。 【考察・結語】継続した灸セルフケアは睡眠障害を改善する傾向を示し、起床時の収縮期血圧の改善にも影響を与える可能性が考えられた。また、収縮期血圧140mmHg未満に改善することで夜間頻尿の改善に繋がる可能性が考えられた。 キーワード:睡眠、血圧、灸、セルフケア 105(10:24) 中途覚醒を訴える患者に対する鍼灸治療と灸セルフケア実施の1例 森ノ宮医療大学医療技術学部鍼灸学科 堀川奈央、松熊秀明、鍋田智之 【目的】附属臨床センターに睡眠障害(中途覚醒)を主訴として来院した患者に対して、鍼灸治療と自宅での灸セルフケアを併用して実施し、中途覚醒の改善を認めたので報告する。 【症例・現病歴】47歳女性。中途覚醒を主訴としてX年5月中旬に来院した。症状は業務多忙となった3月中旬から出現し、入眠に30分以上を必要とし、ほぼ毎日午前4時ごろに中途覚醒、自覚的睡眠時間は4時間で日中の眠気に苦痛を自覚した。医療機関は受診しておらず、服薬ない。[初診時所見]胸脇苦満、少腹急結、紅舌、痩舌、少苔、剥落苔、脈浮細数、ピッツバーグ睡眠質問票(以下PSQI)12点。 【治療・経過】治療は8月上旬まで週に1回の頻度で全13回実施した。鍼灸治療は百会・手三里・三陰交・太渓を基本穴とし、治療ごとに適宜経穴を減増した。やや陰虚所見が多いが自覚的な症状として熱の所見がなかったため灸セルフケアを指導した(神門・内関・三陰交への台座灸を入床30分前に実施)。PSQIを初診、7,12診時に記録した。スリープスキャンによる客観的睡眠評価を5月下旬、6月下旬、8月初旬に各1週間実施した。 【結果】患者は2日に1回以上の頻度で施灸を実施した。PSQIは初診12点から7診目で7点、12診目で6点と改善した。スリープスキャンの記録で実睡眠時間が初診時期270.2±28.2分から1ヵ月後に297.2±69.53分に延長し、入眠潜時は18.6±8.6分から15.6±5.6分に短縮、中途覚醒6.6±6.3分→1.5±0.7分に短縮した。8月初旬では実睡眠時間が310.3±49.3分に延長したが、感冒に罹患していたため他の値では悪化が認められた。 【考察・結語】週1回の鍼灸治療に加えて継続的に灸セルフケアを実施することで睡眠障害の改善が確認できた。患者は現在も灸セルフケアを実施しており、治療後6か月の評価を実施する予定である。 キーワード:睡眠障害、不眠、中途覚醒、セルフケア 106(10:36) 挙児希望患者が有していた睡眠障害に対する鍼通電療法の効果 睡眠障害の改善に対する治療の展望 1)ここちめいど 2)はりきゅう院さくら 3)新潟医療福祉大学リハビリテーション学部 鍼灸健康科 4)はりきゅう処ここちめいど 田中隆一1,2)、金子聡一郎1,3)、米倉まな1,4) 【はじめに】挙児希望で鍼灸院を受診する患者の多くは頭痛や肩こり、腰痛、不眠などの症状を抱えている。今回、長期に睡眠障害を有していた挙児希望患者に通常の治療に頭皮への鍼通電治療を追加した結果良好な経過を得たので報告する。 【症例】41歳、女性、身長156cm、体重70kg。[主訴]睡眠障害(入眠障害、中途覚醒)。X-5年10月友人より足がむずむずして眠れないという話を聞いた後から足のムズムズを感じ睡眠障害を発症し入眠に2時間、中途覚醒も3回あったが医療機関には未受診であった。X年5月、挙児希望に対して鍼灸治療を開始。当初、患者は睡眠障害を挙児希望とは無関係と考えていたが、X年7月(8診目)患者より相談があり睡眠障害に対する鍼灸治療が開始となった。 【治療】挙児希望患者に対する基本経穴、腹部と下肢、腰部と中りょう穴への鍼通電、頸部、腹部と臀部へのスーパーライザー。鍼は28mm20号ステンレス鍼。8診目以降に睡眠障害に対して百会、神庭に鍼通電を追加した。 【経過】9診目:施術後1日だけ入眠までの時間が2時間から30分に改善。13診目:頭皮鍼を行わず経過を見る。14診目:入眠までの時間が再度延長した為、頭皮鍼を再開。19診目:入眠までの時間が再度改善。22診目:入眠が改善する日が1日から3日、中途覚醒は3回から1回に改善、その後も治療の継続により改善を維持している。 【考察および結語】本症例の患者は数年前から睡眠に不満を感じていたが医療機関の受診もなく服薬も行われていない状態であった。挙児希望に対する鍼灸の標準治療を行うと共に三叉神経領域の鍼通電療法を追加したことにより入眠までの時間が短くなり、中途覚醒の回数も減少したと考えられる。挙児希望する患者は、経済的・社会的・身体的な苦痛の影響でさまざまな症状を有し、その症状が挙児希望治療を阻害している可能性がある。頭皮への鍼通電療法は挙児希望患者の睡眠障害に有効である可能性が示唆された症例であった。 キーワード:睡眠障害、入眠困難、中途覚醒、頭皮鍼、三叉神経領域 10:48〜11:36 自律神経系 座長:二本松明 107(10:48) かかりつけ鍼灸師として患者の命と生活の質を守る 左右同時血圧測定実施の提唱 1)中村整骨院 2)新潟医療福祉大学 3)鍼灸新潟 4)中央大学 中村吉伸 1,2,3)、渡邉真弓 3,4) 【目的】古来、鍼灸・あまし施術では脈診など「脈」を重視してきた。また、簡易な方法であるが血圧測定は重要であり、医療機関も患者さん自身も血圧測定を行う。当院では、長年、左右の拡張期血圧・収縮期・そして左右の血圧の差の値(バランス)に着目・分析を継続してきた。そして、自律神経機能に偏りがある場合、この差の値に特徴が見られることこれまで報告してきた。今回、耐えがたい症状を訴え、複数の医療機関を訪ねながらも適切な診断を得るまでに時間を要した患者おいて特徴的な症例が示されたので、施術の経過とともに報告する。 【症例】女性67歳。身長143.0cm、体重57.0kg、BMI(27.87)、近隣在住。頭痛、かたこり、眩暈、吐気、不眠、不安で体調悪く退職。降圧剤・抗不安剤など服用薬 7種。近隣複数の医療機関にかかったがいっこうに不調は改善しなかった。 【経過・結果】大椎、背部兪穴を中心に指圧、単刺。悩みも丁寧に傾聴し、適度の運動など生活指導を行った。以下、は左右血圧の差を示す:(右拡張期 /収縮期、左拡張期 /収縮期、単位はmmHg)。1診施術前(200以上 /155、137/110)、施術後(193/109、147/98)であった。11診施術前(施術開始6か月後)には(118/72、116/68)となった。 【結果・考察】通常、血圧は、左右いずれかの一側上腕のみで測定する。このことが、仕事を継続することができないほどの主訴を訴え複数の医療機関を訪れながらも、診断の確定に時間を要した理由と考えられる。実際、変動制血圧の診断や、精神科入院を勧められたものの眩暈、吐気、不眠、不安の症状はなかなか緩解しなかったという。かかりつけ治療家として、非侵襲的で簡易な左右両側上腕の血圧測定や脈診を用いて得た情報をもとに患者に適切な医療機関受診を促すことが、かかりつけ鍼灸師として患者の命と生活の質を守るため大事であると考える。 キーワード:左右同時血圧測定、かかりつけ 108(11:00) パーキンソン病患者の自律神経症状が経絡治療で軽快した一例 1)鍼灸アキュミット 2)北里研究所病院漢方鍼灸治療センター 大谷倫恵 1)、伊藤剛2) 【目的】パーキンソン病(以下 PD)患者の自律神経症状に対し、経絡治療を基本とした鍼灸治療により改善した症例を経験したので報告する。 【症例】患者は 7X歳女性。主訴は歩行障害と体調不良。 X-14年に PDと診断を受け治療していたが、夕方以降に歩行困難と同時に発汗発作、悪寒、動悸、血圧上昇(収縮期圧 190mmHg前後)などの自律神経障害や自律神経症状による体調不良が 4〜5時間出現、特に発汗は就寝後に着替えと清拭を2回行う状態であった。 X年、これら症状の改善目的で治療を希望された。 【治療】治療はディスポーザブルの寸3、2番鍼を用い、脈診に基づき主として肝虚の治療を原則週 2回、往診で行った。標治として膀胱経への追加鍼や督脈および膀胱兪の台座灸を行った。 【経過】治療開始3か月(20診目)に、自律神経症状の体調不良感は、全体的に治療前 VAS64mmから治療後29mmと改善。特に初診時 10割だった発汗発作と悪寒の症状は、5〜7割まで改善した。そこで3か月目以降は治療を週1に減らし治療時間を症状発生時間帯に合わせた結果、7か月目以降では、発汗発作や悪寒が5割前後で推移するだけでなく、自律神経症状による体調不良感の出現は週1〜2回程度に減り、発現時間も1時間以下に短縮した。なお歩行に関しては大きな変化はなかったが転倒回数は減少した。 【考察】PDにおける便秘、排尿障害、便秘、起立性低血圧、流涎や発汗障害などの自律神経障害は、患者のQOLを低下させる一因として治療上問題となっている。本症例のように発症 14年という経過の長いPDの患者においても、鍼灸治療を症状発生時間に実施するなど工夫を含め、発汗発作などの自律神経障害に加え、悪寒、動悸、血圧上昇などの自律神経症状の改善が診られたことは、経絡治療などの鍼灸治療が、患者QOL向上に寄与する可能性が示唆された。 【結語】経過の長い PDに伴う自律神経症状においても、経絡治療を基本とした鍼灸治療は有効であると考えられた。 キーワード:パーキンソン病、発汗発作、自律神経症状、経絡治療 109(11:12) 鍼刺激が呼吸数に及ぼす影響とHRV解析との関係 5事例についての途中報告 1)帝京平成大学健康科学研究科 2)帝京平成大学ヒューマンケア学部 3)高崎健康福祉大学看護学科 4)スポーツ健康医療専門学校鍼灸科 廣井寿美 1,3)、篠崎波輝 1)、篠原大侑 1,4)、長嶺澄佳 1)、玉井秀明 1,2)、今井賢治 1,2) 【目的】鍼刺入時の痛みや緊張に伴う呼吸の乱れが、心拍変動(heart rate variability: HRV)解析に影響を及ぼす可能性がある。呼吸統制を行った実験もあるが、 HRV解析における呼吸の詳細な影響や留意点に一定した見解は得られていない。鍼刺激による呼吸パターンの変動を心電図と同時に測定し、 HRV解析の影響を評価することで、鍼灸における今後の自律神経機能評価の検討に役立てる。 【方法】18歳〜30歳の健康な男性を対象者とし、対照群と鍼刺激群のクロスーバーデザインで行った。ディスポ―ザブルステンレス鍼(長さ 40mm、太さ 0.20mm)を用いて、合谷穴(LI4)に体表面から直刺で15mm刺入し、雀琢術(1Hz)を90秒間行った。前後の安静データを含め呼吸と心電図を同時に継続的に記録した。 【結果】現時点で 5名のデータを採取した。呼吸変動に合わせて瞬時心拍が変動する位相の一致が視覚的にとらえられた。測定中に嚥下により呼吸が止まると、20秒程度瞬時心拍数の増加がみられた。鍼刺激時の疼痛を訴え、呼吸パターンが変化したケースで、鍼刺激中の心拍減少が見られた。一方、同一被験者でも2群間で心拍数が平均5回/分異なるケースが見られた。 【考察】呼吸パターンの変化と瞬時心拍の位相の一致が見られた。 High-Frequency power:HFはおおむね呼吸サイクルに起因するが、嚥下などによって呼吸パターンが変化すると、結果的に HRVの帯域に影響が生じる可能性がある。また、鍼刺激により呼吸パターンが変化しても、先行研究で示された心拍の減少反応の再現性が確認されたと考えられる。しかし、日々体調は変化するため、クロスオーバーデザインでも条件が異なってしまうことがある。 【結語】心拍変動解析を行う場合は、原波形を吟味し、オートマチックな取り扱いとならないよう、慎重に評価する必要がある。 キーワード:心拍変動解析、呼吸、鍼刺激、クロスオーバーデザイン 110(11:24) 局所治療に遠隔部刺激を加えた時の心拍数・血圧への 影響の検討 1)履正社国際医療スポーツ専門学校 2)健康スポーツ医科研究所 古田高征 1)、辻田純三 2) 【目的】一般に本治は、手足など遠隔への刺激を行うことが多いが、局所治療と局所治療に遠隔刺激を加えた場合の心拍数・血圧の変化を検討した報告は少ない。そこで、肩凝りのある症例に対し、愁訴部位の局所治療のみと局所治療に遠隔刺激を行った場合の影響の違いを検討した。 【方法】研究は、実験についてインフォームドコンセントを行い、同意が得られた成人8名(のべ24回の施術)を対象にとした。実験は、施術前後に肩凝りの症状の程度を VASにて記録した。また施術前後に血圧計により血圧と心拍数を測定した。比較は、局所のみ群、局所遠隔群とした。鍼施術は、ディスポーザブル鍼18号40mmを使用し、被験者を腹臥位として局所治療を、背臥位として遠隔部への刺鍼を行った。局所治療では、愁訴部位あたりの圧痛部へ刺鍼した。遠隔部の刺鍼部位は、東洋医学的な問診スコアにて変調をしている五臓を定め、関係する経絡の原穴と絡穴へ刺鍼した。 【結果】施術前後の変化について、 VAS値は局所のみ群-58.6±11.8、局所遠隔群 -62.4±12.7、平均血圧では局所のみ群は -1.7±5.8mmHg、局所遠隔群 1.2±6.5mm Hg、心拍数は -4.1±5.7拍/分、局所遠隔群 -5.5±5.1拍/分であったが、いずれも有意差はみられなかった。 VAS値との相関について、心拍数は局所のみ群 r=-0.04、局所遠隔群 r=-0.25、平均血圧では局所のみ群 r=-0.08、局所遠隔群 r=-0.11であった。 【考察】一般に鍼灸施術は副交感神経活動を高め、自然治癒力を高めると言われることが多い。今回、 VAS値と心拍数に弱い相関関係が伺われ、症状が軽減されるほど心拍数の低下が伺われた。遠隔部への刺激がより副交感神経活動の増大が症状の軽減に関与していると推測された。 【結語】局所治療に遠隔刺激を行った鍼施術では、肩凝り VAS値の変化と心拍数に弱い相関が伺われた。 キーワード:肩凝り、心拍数、血圧 ポスター発表B(Sun-P3-9:00) 9:00〜10:12 消化器領域  座長:谷口授 石崎直人 124(9:00) がん性疼痛患者の便秘症に対する鍼灸治療の1症例 1)香川大学医学部公衆衛生学 2)香川大学医学部附属病院緩和ケア科 神田かなえ 1)、村上あきつ 2)、Ngatu Nlandu Roger1)、平尾智広 1) 【目的】オピオイド誘発性便秘症(Opioid-Induced Constipation: OIC)はオピオイド鎮痛薬を使用中の多くの患者で生じ、緩下剤の使用が不可欠となる。今回OICが出現している患者に灸治療を行い有効だった症例を報告する。 【方法】36歳男性。主訴は便秘、硬便、腹部膨満感。現病歴は頭頚部がんにより化学療法開始。がん性疼痛に対するオピオイドの導入後から便秘症状となり緩下剤を併用していたものの、便秘、硬便を繰り返していたため補助療法として灸治療の介入を行った。治療は週2回・3週間(全6回)とした。腹部(天枢、中かん、関元、腹結)・手部(合谷、神門)・足部(足三里、三陰交、太衝)の経穴に対し、セイリンセラミック電気温灸器を用いて温熱刺激を与えた。主要評価項目は、日本語版便秘評価尺度( CAS:8項目 0〜2点の3段階、高得点であるほど便秘傾向)とし、鍼灸治療前後の変化を比較した。副次評価項目として、緩下剤の投与量、ブリストル便形状スケ−ル( BSFS)、エドモントン症状評価システム改訂版日本語版(ESAS-r-J)を用いた。 【結果】治療前後で CASは9から4と改善を認め、治療終了4週後のフォローアップ時には0まで改善した。治療期間中は排便回数が増えたため、緩下剤の使用量は1日2剤から1剤に減らすことができた。 BSFSは3〜4(普通便)が出る回数が増え、毎日1回以上の排便が得られた一方で、少量の排便で残便感を訴える日もあった。ESAS-r-Jは23から12と改善を認め、便秘以外の身体症状も落ち着いていた。 【結論】今回 OICに対する鍼灸治療の補助的介入により治療期間中の便秘症状の改善が認められ、緩下剤の使用も減らすことができた。しかしながら、便量が少量であることや硬便と軟便が混在している点で課題も残る。今後実践例の集積が必要である。 キーワード:鍼灸、がん性疼痛、オピオイド誘発性便秘症、症例、緩和ケア 125(9:12) 質問紙による若年女性の便秘の要因分析質問紙による若年女性の便秘の要因分析 関西医療学園専門学校 中井一彦 【目的】便秘の訴えは男性より女性に多い。特に若年女性は、体型を意識した過度の食事制限や羞恥心からくる便意我慢など特有の要因が考えられる。一方東洋医学の古典には、便秘の鑑別について様々な見解が見られる。今回は質問紙をもとに若年女性の排便状況の実態および東洋医学的病証を調査し、便秘の要因を東洋医学的な視点から検討した。 【方法】対象は、同意を得た本学の女子学生71名(平均年齢21.0±3.2歳)。収集データは、基本情報、排便状況( 1週間の排便回数、1回の排便量)、生活習慣(睡眠、運動、食事、排便)、東洋医学病証スコア(気虚、血虚、陽虚、陰虚、気滞)を、4件法により独自で質問項目を作成してグーグルフォームにて回答させた。分析は、排便回数および排便量の結果をもとに被験者を便秘群と正常群の2群に分け、各群の病証スコアおよび生活習慣項目をマンホイットニーの U検定により群間比較した。また、便秘の重要因子を抽出するため、2群を目的変数としてロジスティック回帰分析を行った。 【結果】正常群(N=37)と便秘群(N=34)の2群間を比較した結果、各病証スコアでは有意差は認められなかったが、各スコア質問項目の、「声が小さい」「寝汗」「腹の張り感」で有意差が認められ、生活習慣項目では「運動」「線維食」「水分」「排便意識」で有意差が認められた。また有意差のあった項目を3項目ずつ説明変数として組合せてロジスティック回帰分析を行った結果「声が小さい」「線維食」「排便意識」が最も良い組合せとして抽出された。 【考察】「声が小さい」に有意な差が観察されたことは、若年女性の排便には呼吸の力が関連していることを示唆している。また、食生活では線維食の摂取不足、排便習慣では普段の排便意識の低下が影響していることがわかった。 【結語】若年女性の排便は、声の大小、線維食の摂取、排便意識が影響するようだ。 キーワード:若年女性、便秘、病証スコア、質問紙、ロジスティック回帰分析 126(9:24) 胃切除後の嘔吐に鍼治療が奏功したことで退院が可能となった1例 1)福島県立医科大学会津医療センター鍼灸研修 2)福島県立医科大学会津医療センター附属研究所漢方医学研究室 山田雄介 1)、加用拓己 2)、宮田紫緒里 1)、津田恭輔 2)、鈴木雅雄 2) 【目的】胃切除後の胃食道逆流症に伴う嘔吐に加え誤嚥性肺炎により食事提供ができないことで、退院困難に至った症例に対して鍼治療が有効であったため報告する。 【症例】80歳代女性。[主訴]嘔吐、発熱。 [現病歴]X年5月に胃癌の診断にて腹腔鏡下幽門側胃切除術が施行された。術後4日目に食事が開始され重湯から3分粥まで食上げしたが、術後の胃食道逆流症に伴う嘔吐に加え誤嚥性肺炎を繰り返したため絶食および退院延期となった。X年8月に繰り返す嘔吐に対して再手術が行われた。術後に薬剤調整が行われ、食事を再開したところ嘔吐と誤嚥性肺炎が認められたため再度絶食となった。そのためX年9月に主治医から主訴に対して当科に紹介となり鍼治療が開始された。 [現症]腹部蠕動音の減弱が認められた。術後の上部消化管内視鏡検査では食道炎および食道裂孔ヘルニアを認め、吻合部に狭窄は認めなかった。東洋医学所見では舌質淡白・舌苔白滑、脈遅・細・虚、食後の嘔気嘔吐、倦怠感、四肢厥冷を認めた。治療は脾胃虚寒証に基づき、梁門穴、足三里穴、太渓穴、太白穴を基本とした鍼治療および鍼通電療法を行い、治療は1日1回、週に5回実施した。評価は食事形態と提供日数、嘔吐および誤嚥性肺炎発生の有無を評価した。 【経過】胃切除術から鍼治療開始までの114日間のうち、嘔吐5回、誤嚥性肺炎7回、食事提供の合計日数は12日間であったが、鍼治療開始から退院までの84日間では嘔吐1回、誤嚥性肺炎1回、食事提供の合計日数は71日へ改善した。食事は鍼治療開始2日目から再開し、78日目にはきざみ食へと食上げが進んだことで84日目に自宅への退院が可能となった。 【考察・結語】本症例は術後に繰り返す嘔吐と誤嚥性肺炎のため食事提供ができず、退院困難であったが、鍼治療を開始したところ症状の軽減が得られたことで、自宅への退院が可能となった。本症例に対して鍼治療が有効であったと考えられた。 キーワード:胃食道逆流症、胃癌術後 127(9:36) 鍼灸治療が著効した機能性ディスペプシア患者の1症例 -GSRSを指標として 1)ここちめいど 2)フルミチ鍼灸院 3)東京有明医療大学保健医療学部鍼灸学科 4)はりきゅう処ここちめいど 杉山英照 1,2)、松浦悠人 3)、米倉まな 1,4) 【目的】機能性ディスペプシア(functional dyspepsia: FD)患者に鍼灸治療を行い、 Gastrointestinal Symptom Rating Scale(GSRS)を指標に経過観察したところ良好な経過が得られたため報告する。 【症例】37歳、女性、主婦。 [初診日]X年11月。主訴:腹部膨満感、曖気、胃痛。[現病歴]X-4年東京へ転勤した頃から胃痛発症。X-3年コロナ禍で外出できない事や子育てのストレスにより腹部膨満感、曖気が出現し、胃痛憎悪。X-2年内科の内視鏡検査は異常なく、オメプラゾール、六君子湯服用も著変なし。X-1年、引越し後、環境のストレスは軽減したが主訴に変化なし。X年1月、内科にて胃カメラと X線検査を行うも異常なくFDの診断。 [初診時所見]ほぼ毎日の心窩部痛・灼熱感、食後のもたれ・早期膨満感(+)、触診:心窩部圧痛(+)、脊柱起立筋( Th7〜Th12)筋緊張(+)、東洋医学的所見:胸脇苦満、心窩痞硬、GSRS全体スコア47点、酸逆流6点、腹痛8点、消化不良14点、下痢8点、便秘7点。 [鍼灸治療]腹部、背部の所見の緩和と消化機能の向上を期待し、整動鍼の理論で施術した。使用経穴は、足三里、築賓、心兪、条口、四涜、合谷、菱形筋硬結部とし、単刺や置鍼、腹部への箱灸を行った。 【経過】2診目(8日後) 3診目( 19日後)4診目(42日後)5診目(55日後)の GSRSの変化は、 GSRS全体スコア 36 19 16 15点、酸逆流 5332点、腹痛 643 3点、消化不良 13 6 4 4点、下痢 6333点、便秘 633 3点と推移した。日常生活の面では FD症状の寛解とともに食べることができるようになった。家族や友人と外食に行けるようになり、対人関係が回復したことで精神的にも前向きになった。 【考察・結語】鍼灸の介入直後から GSRSスコアの全体スコア、下位尺度ともに減少し、 FDの症状の軽減が示された。慢性的な FDであっても短期的な鍼灸治療で著効が得られた 1例であった。 キーワード:鍼灸、機能性ディスペプシア、機能性消化器疾患、腹部膨満感、 Gastrointestinal Symptom Rating Scale 128(9:48) 鍼灸研究を視野に入れた胃音と胃電図の同時記録 −1事例における検討− 1)帝京平成大学健康科学研究科 2)スポーツ健康医療専門学校鍼灸科 3)帝京平成大学ヒューマンケア学部鍼灸学科 4)帝京平成大学東洋医学研究所 5)東京有明医療大学鍼灸学科 6)明治国際医療大学 長嶺澄佳 1)、篠原大侑 2)、廣井寿美 1)、皆川陽一 1,3,4)、岡田岬6)、谷口博志 5)、今井賢治 1,3,4) 【目的】胃音と胃電図を同時に記録することは、鍼灸刺激に対する胃運動の作用をさらに解析することができる。そこで、簡便で非侵襲的な記録方法はないか鍼灸研究を視野に入れ、胃音と胃電図を同時に記録し、データの比較を行いつつ機械操作およびデータ解析の習得を行った。今回は取得したデータの関連性について報告する。 【方法】対象1名(28歳,女性)。6時間の絶食の後、胃電図測定用の電極と胃音測定用の高感度マイクを腹部に装着し、90分間の記録を行った。胃電図の測定は、専用のポータブル型胃電計 EGS2(ニプロ社製)を用いた。胃音の測定は、高感度ピエゾセンサーマイク(GOKSENS)を対象者の心窩部に固定し、音響アンプ(audio-technic社製 , AT-HA2)で増幅させて記録した。解析は A/Dコンバーター(power lab 8sp)を介しPCに取り込み、胃音と胃電図の原波形を比較した。 【結果】胃音および胃電図の位相の一致が見られた。さらに、胃音および胃電図から空腹期強収縮を確認することが出来た。その際には胃音と胃電図の振幅が同時期に大きくなった。 【考察・結語】 1事例ではあるが胃音と胃電図の関連性を見ることができ、さらに空腹時の胃の運動パターン(いわゆる phase1および phase3)も確認できた。このことから、ヒトにおいて胃音と胃電図の同時記録を応用すれば、簡便で非侵襲的にヒト胃運動とそれを調律する電気活動に対して鍼灸刺激の作用を捉えられることが期待できる。今後は、本実験を計画し、倫理申請の認可を経て、再現性の確認をするとともに鍼灸刺激をした際の変化を評価していく。 キーワード:胃運動、胃音、胃電図 129(10:00) 標準治療に奏功しなかった上部消化管愁訴に対する鍼灸治療の症例 1)東京有明医療大学保健医療学部鍼灸学科 2)東京有明医療大学附属鍼灸センター 谷口授1,2)、谷口博志 1,2)、小田木悟2)、竹谷真悠 2)、坂井友実 1,2) 【目的】逆流性食道炎および胃潰瘍と診断され、標準治療を開始したが奏功しなかった患者に対する鍼灸治療を経験したので報告する。 【症例】18歳、女性、大学生。X-4ヶ月より、新しい環境や友人関係のストレスから、次第に胃痛、嘔気、嘔吐が強くなり、X-2ヶ月にかかりつけ医を受診。ランソプラゾール、グーフィスなどを処方されるも改善しなかったため他院へ紹介となり、胃内視鏡検査の結果、逆流性食道炎と胃潰瘍と診断された。レバミピドとドンペリドンを処方され服用したが症状は改善されなかった。最近では、これらの症状に加え通学中の電車内での急な冷や汗と嘔気に困っており、途中下車を余儀なくされていた。学業にも支障が出始めており、症状改善を目的に当院の来療に至った。 [現病歴]胃痛や嘔気は程度の差はあるが毎日感じている。症状が最も強いのは朝であり朝食は食べられない。嘔吐は毎日ではないが食後吐くことがある。食前や食後に特徴的な胃の痛みは無い。ピロリ菌感染なし。 [所見]脈診:数弦、舌診:淡紅〜絳舌、白黄苔、剥落(中心部)、舌尖紅、紅点、腹診:心窩痞硬、胸脇苦満、症状:嘔気、嘔吐(酸苦味)、呑酸、目の充血、多弁、熟眠感なし。左背部に痛みが出ることがある。性格は快活で友好的であるが、人間関係に悩むことが多い。 【治療・経過】肝胃不和(肝鬱化火犯胃)証として治療を開始。初診時の GSRS全体スコアは 3.82であったが、5診目には 1.82まで低下した。鍼灸治療を開始してからも増悪と緩解を繰り返していたが、治療後 2〜3日は症状が落ち着くというコメントが得られた。また 4診目には毎日感じていた症状が、週2〜3回感じる程度まで減少していた。 【考察・結語】標準治療が奏功しなかった症例に対して鍼灸治療を行ったところ、症状の改善が得られた。本症例を通して患者が抱えるストレスと付き合いながら、鍼灸治療を通してサポートを行うことが重要であると考えた。 キーワード:上部消化管愁訴、ストレス、鍼灸治療 10:12〜11:36 中枢神経系 座長:松本淳 武田真輝 130(10:12) 脳卒中急性期に生じた持続性吃逆に対する鍼治療の効果 立砺波総合病院 武田真輝、土方彩衣、林佳子 【はじめに】持続性吃逆に対する鍼治療については、有効性が示唆されているが、本邦における臨床報告は乏しい。今回、脳卒中急性期に生じた持続性吃逆に対して鍼治療を行った症例を後方視的に調査し、鍼治療の影響と安全性を検討したので報告する。 【方法】対象は脳卒中急性期に生じた吃逆に対して鍼治療を行った入院患者(期間 X−7年4月から X年12月)。調査は診療録から後方視的に実施した。鍼治療は 1〜2回/日の頻度で行い、全例に中府と中への接触鍼および腹部の打鍼を実施。個々の証(胃気上逆4例、肝脾不和4例、肺腎陰虚 2例、肺脾両虚 1例)に合わせて接触鍼を実施した。吃逆持続時間は6時間毎の看護記録で評価し、1つの時間帯で「吃逆あり」と記載されていれば吃逆持続時間は6時間、2つの時間帯なら12時間、3つの時間帯なら18時間、4つの時間帯全てなら24時間と定義した。吃逆が48時間以上停止した場合を「消失」と定義した。鍼治療前後の吃逆持続時間を Wil coxon signed-rank testで比較した。 【結果】対象は 11名(全て男性)、年齢中央値(範囲) 68歳( 46-79歳)、脳卒中の内訳は脳出血 2例、脳梗塞 9例、鍼開始時の Japan Coma Scaleは1桁9例、 2桁1例、 3桁1例であった。鍼治療前に行われた治療は柿蔕 10例、メトクロプラミド7例、クロルプロマジン1例、芍薬甘草湯1例であった。吃逆の出現から鍼開始まで平均 8日(範囲 4-33日)であった。鍼治療前の吃逆持続時間の平均値(95%信頼区間)は 17.3時間 /日(18.6 to 15.8)、治療後は 4.8時間 /日(6.0 to 3.5)と有意に低下した(P<0.01)。また、吃逆が消失するまで平均8.6日(範囲2-37日)であった。全 96回の鍼治療で有害事象は認めなかった。 【考察】様々な治療に抵抗性であった脳卒中急性期の吃逆に対して鍼治療を行った。後方視的調査であるが、施術後は吃逆の持続時間が有意に低下していた。持続性吃逆に鍼治療は試みる価値がある方法の一つと考えられる。 キーワード:吃逆、脳卒中、鍼治療、打鍼、有害事象 131(10:24) 脳卒中患者の評価ツール「鍼灸ケアシート」の特徴 (第一報) 1)脳梗塞リハビリセンター 2)東京有明医療大学 宮澤勇希 1)、石上邦男 1)、鶴埜益巳 1,2) 【目的】当施設は関連法規を順守して医療・介護保険外で脳卒中生活期患者に、リハビリテーション専門職とともに外来サービスを提供する。開業の2014年から患者の希望に基づく施術データを蓄積し、2019年に「鍼灸ケアシート」という評価ツールを開発した。今回、その運用開始時データの特徴をまとめたため報告する、 【方法】鍼灸ケアシートは15の大項目(睡眠、冷え、ほてり、硬さ、痛み、しびれ、浮腫み、便、小水、聞こえ、食べること、飲むこと、発汗、その他、女性特有の症状)と、それぞれに状況や身体部位別の複数の中項目を設定する。施術する項目を開始時に中項目でマークし、主観的変化を 4週間毎に 3段階(改善・不変・増悪)で評価する。さらにカウンセリングで症状の自己管理を促すのに活用する、対象者は2020年1月〜2022年1月に当施設を利用し、鍼灸ケアシートで評価した脳卒中生活期患者 56名で、説明と同意は書面にて実施した。方法は鍼灸統括が後方視的に鍼灸ケアシートから個人情報を排除してデータ集計した後、研究担当がその特徴について概観した。主観的変化における改善の比率を算出して、その分布について確認した。 【結果】開始時のマークは629で、大項目での上位3つは硬さ 195(31%)、冷え 110(18%)、浮腫み 79(13%)だった。変化は改善 349、非改善 356で、76項目で継続的なアプローチが確認された。改善が得られ易かった大項目は睡眠、冷え、ほてり、浮腫み、食べることで、逆に得られ難かったのは硬さ、痛み、しびれ、便、小水、聞こえ、飲むこと、発汗だった。 【考察】これまで脳卒中への鍼灸施術の有効性に関する多数例での報告は乏しい。脳卒中患者の医学的な評価ツールは多数あるが、鍼灸施術の患者の要望を包括的に網羅したものはない。今後,さらにデータを蓄積し,また改善と患者属性や施術内容の関係性を明らかにすることで、有効性の高い脳卒中の鍼灸を確立したい。 キーワード:脳卒中、評価ツール、鍼灸ケアシート 132(10:36) 痙縮に伴う腹部絞扼感に対する鍼灸治療の一症 1)筑波技術大学 保健科学部附属 東西医学統合医療センター 2)筑波技術大学保健科学部保健学科 鍼灸学専攻 陣内哲志 1)、鮎澤聡1,2)、櫻庭陽1)、成島朋美 1) 【目的】脊髄病変による痙縮を背景とした腹部絞扼感は、臨床でよく見かける症状だが、鍼灸治療の報告はほとんど無い。今回我々は、体幹部の痙縮に伴う腹部絞扼感を訴える症例を経験したので報告する。 【症例】86歳、男性 [現病歴]X-2年11月、誘因なく突然の背部痛を訴え救急搬送され、発症の状況や症状などから脊髄梗塞と診断を受けた。下肢の弛緩性麻痺が残存し、車椅子による生活となった。以後、常に腹部に縄で縛られたような絞扼感を感じていた。症状は、臥位から体幹を起こす際に増悪し、症状による食欲低下もみられた。 X-1年1月から筋弛緩薬で症状が軽減していたが、咳や痰の増加に伴い肺サルコイドーシスが悪化したため服薬を中断した。そのため、症状の程度は発生当初に戻り、症状の改善は見られなかった。 X年7月、鍼灸治療を希望して来所し、治療を開始した。 [既往歴]肺サルコイドーシス(65歳)、心臓サルコイドーシスで CRT-D(80歳) [所見]第 6胸椎以下の痛覚と温度覚が消失、触覚や深部感覚は異常なし。触診では、腹部の腹直筋や腹横筋に部分的な緊張が触知できた。 【治療・経過】治療は、ステンレス鍼 1寸6分3番鍼(50mm20号)を用いて、腹直筋、腹横筋の緊張部を中心に置鍼を 15分間行った。評価は、想像し得る最大のつらさを10とする NRSで聴取した。経過は、 NRSが初診時 7から 2診目に2と大幅に軽減され、食欲の改善も見られた。3診目以降は 1と低値で維持し、10診目には症状出現範囲の縮小がみられた。 【考察】本症例は、症状が脊髄病変後に見られたこと、座位で増悪し仰臥位で軽減すること、筋弛緩薬により軽減したことから体幹部の痙縮により腹部絞扼感が出現したと考えた。鍼治療により、腹部の筋緊張が緩和することによって絞扼感が改善されたと考えた。 【結語】痙縮に伴う腹部絞扼感に対して鍼灸治療を行い、症状が改善した。 キーワード:腹部絞扼感、痙縮、脊髄梗塞 133(10:48) 片麻痺の上肢痙縮に対して鍼治療を行い関節可動域が改善した一例 1)東北大学病院総合地域医療教育支援部・漢方内科 2)広胖堂はりきゅう治療院 MATAHARI 神谷哲治 1,2)、高山真1) 【目的】脳梗塞によって麻痺が残存するケースは多く、拘縮予防はその後の生活に大きな影響を与える。今回、脳梗塞後左片麻痺の上肢痙縮に対して1回の鍼治療で関節可動域(ROM)の改善を認めたので報告する。 【症例】63歳、男性。 [主訴]左上肢のこわばりと麻痺。 [現病歴]X-2年5月、右放線冠ラクナ梗塞を発症。急性期に投薬とリハビリテーションを受けた後に回復期リハビリテーション病院に転院となった。下肢装具着用による杖歩行が可能となり退院した。リハビリテーション継続のため、同病院に週2日通院していたが発症から6カ月後に終了となった。以降は、週2日デイケアに通い下肢の筋力増強訓練と上肢の ROM訓練を行っていた。さらなる上肢の機能改善を目的に X年10月に当治療院へ来院した。 [所見]痙縮によって肘関節、手関節、手指の伸展が困難であった。各関節の ROMは肘関節伸展 -90度、手指伸展測定不可で爪が手掌に食い込んでいる状態であった。 YNSA診断点の反応は合谷診断点は左、上腕診断点は左頸椎点、左脳幹点であった。 【治療・経過】治療は YNSAを行った。左A点、左脳幹点、左C点、左 Kソマトトープの肩・肘・手・足、左Iソマトトープの肘・手に刺鍼。 YNSAのみでは上肢の痙縮変化が乏しかった為、合谷、尺沢への単刺を加えた。初診鍼治療後は肘関節伸展 -30度、手指伸展はMP関節で 0度、 PIP関節で -30度、 DIP関節で -30度と各関節が軽度屈曲位まで伸展が可能となった。 【考察】痙縮が強いために関節可動域訓練のみの介入では ROMの変化が乏しかった。痙縮に対して 1回の鍼治療でも ROMの改善がみられた。今回、局所へ置鍼しない YNSAを選択することで ROMの変化を確認しながら刺鍼出来た。鍼治療で痙縮を緩和させることで今後の関節可動域訓練を行うことが容易になるのではと考える。 【結語】脳梗塞後左片麻痺の上肢痙縮に対して鍼治療を行う事で ROMの改善に寄与する可能性が示唆された。 キーワード:鍼灸、痙縮、関節可動域 134(11:00) 意識障害軽減と呼吸安定に鍼治療が有用であった重症頭部外傷例 1)岐阜大学医学部附属病院第二内科 2)中部脳リハビリテーション病院・中部療護センター 松本淳1,2) 【緒言】重症頭部外傷後の意識障害と呼吸状態の改善目的にて鍼治療を併用した 1例について報告する。 【症例】年齢20代、男性 [病歴]交通事故にて頭部外傷(外傷性くも膜下出血、脳挫傷、びまん性軸索損傷)や顔面骨骨折、肺挫傷、大腿骨骨折等を含む多発外傷を受傷し、当院高度救命救急センターに入院となった。入院加療が進み鎮静を終了した後にも意識障害が遷延し、人工呼吸器からの離脱にも難渋した。入院21日目より意識障害の軽減と呼吸状態の安定目的にて鍼治療を開始した。 [現症] Glasgow coma scale: E4VtM5。時に自発的な開眼を認めるが、追視や注視は認めず、指示動作も認めなかった。人工呼吸器の設定は CPAPモード、 FIO2 0.3、 PEEP 5mmHg、PS 7mmHgであったが、離脱訓練を試みると呼吸状態悪化のため 1時間未満で中止する状態であり、夜間は無呼吸のため SIMVモードで管理される状態であった。 【主な投薬】プロチレリン、抗痙攣薬、抗菌薬 【鍼治療】水溝、内関、足三里、百会、印堂、上星、合谷等を用いた鍼治療を週3〜4日の頻度で行った。 【経過】鍼治療開始翌日(開始2日目)には呼吸状態の増悪なく終日人工呼吸の離脱が可能となった。鍼治療2診目(鍼治療開始後3日目)の時点では、鍼治療時以外には明確な指示動作を認めなかったが、鍼治療中には指示動作を認めた。7診目(12日目)には開閉眼と頷き動作による YES/NOの応答や歯ブラシや櫛の使用法を示すことが可能となった。10診目(18日目)には気切カニューレが抜去され会話が可能となったが見当識や記憶の障害を認め、 GCSはE4V4M6であった。13診目( 23日目)に施行した長谷川式簡易知能スケールは 17点であった。鍼開始後 28日目に転院となった。 【結語】鍼治療開始後に呼吸状態の安定と意識障害の軽減傾向を認め、鍼治療中に指示に対する応答反応の向上傾向を認めた。本症例に対して鍼治療が有用であったと考えられた。 キーワード:重症頭部外傷、意識障害、人工呼吸器、鍼治療 135(11:12) 座位保持が困難な頸部ジストニア患者に対しての鍼治 1)スピカ鍼灸・マッサージ院 2)健康スタジオキラリ・ Kirari鍼灸マッサージ院 3)関西医療大学附属鍼灸治療所研修員 4)医療法人寿山会喜馬病院 5)関西医療大学大学院保健医療学研究科 高橋護1,2,3)、井尻朋人 4)、谷万喜子 5)、鈴木俊明 5) 【目的】座位保持が困難なジストニア患者に対して鍼治療を行い症状の改善に至ったので報告する。 【症例および現病歴】40代男性。X-1年に抑うつ症状で入院中に内服薬の変更を機に頸部伸展の不随意運動が生じ、K病院にて遅発性頸部ジストニアと診断された。ボトックス治療を3回受け症状は改善したがさらなる改善を求め治療開始となった。 [所見]座位姿勢は頸部伸展、頸部左側屈・右回旋、胸腰椎移行部伸展位、股関節屈曲 70°で骨盤中間位であった。本症例は座位保持開始後に頸部伸展の不随意運動が生じ、しばらくしてから上部体幹伸展の不随意運動が生じた。その後、胸鎖乳突筋の収縮が増大し、頭部伸展が加わり最終的に頸部伸展 30°〜 60°の範囲の不随意運動となった。端座位保持は 1分未満であった。Tsuiスコアは16点であった。両側板状筋、両側胸鎖乳突筋(特に左)、両側多裂筋、両側最長筋に筋緊張亢進と筋短縮、両側腹直筋の筋緊張低下が認められた。胸腰椎部と後頸部の皮膚短縮も認められた。 【治療】不随意運動抑制目的に百会へ置鍼を行った。胸腰椎部、後頸部の皮膚短縮改善目的に集毛鍼刺激を行った。所見の筋緊張抑制と筋伸張目的にダイレクトストレッチングを行った。循経取穴法に基づき両側腹直筋の筋緊張促通目的に両側衝陽へ置鍼を行い、また不随意な収縮のある両側板状筋に対して両側外関、両側最長筋に対して両側崑崙に筋緊張抑制目的に置鍼を行った。 【経過】7ヵ月後に頸部伸展の不随意運動は0〜15°の範囲となり、上部体幹伸展の不随意運動は消失した。端座位保持は15分以上可能になった。Tsuiスコアは 10点となった。 【考察】頸部伸展の不随意運動が生じていたが、体幹伸展の不随意運動が加わることで頸部伸展の不随意運動の範囲が増大していた。そのため、体幹部への鍼治療をしたことが頸部症状の改善に影響したと考えられた。 【結語】頸部と体幹の両方へ治療を行い、端座位保持の延長につながった。 キーワード:ジストニア、集毛鍼、不随意運動、座位保持困難 136(11:24) 上肢の震えが著明でADLに支障をきたした上肢ジストニアの一症例 −書字困難に着目した鍼治療− 1)関西医療大学神経病研究センター 2)関西医療大学保健医療学部はり灸・スポーツトレーナー学 3)関西医療大学大学院保健医療学研究科 東内あすか 1,2,3)、谷万喜子 1,2,3)、鈴木俊明 1,3) 【目的】上肢の震えが著明でADLに支障をきたした上肢ジストニア患者に対して、書字動作に着目して鍼治療をおこない、効果を得たので報告する。 【症例】 23歳女性。左利き。X-1年、左上肢全体が震えて ADLが困難となり、字が書けなくなった。A病院脳神経内科でジストニアと診断された。内服薬の服用では自覚的な効果なく、X年Y月鍼治療開始。発表に際し症例には同意を得た。 【治療・経過】書字動作に着目して評価と治療をおこなった。書字時、骨盤左下制に伴う脊柱の左傾斜と上部体幹左側屈を呈し、左肩関節外転・内旋位で前腕回内が著明であった。左中殿筋の筋緊張低下による左股関節外転・骨盤左下制で生じた体幹左傾斜と、Th7の高位での左多裂筋の筋緊張低下による体幹左側屈により、相対的に生じる左肩の下制を制動するため、左僧帽筋上部線維の筋緊張亢進がみられた。左前鋸筋の筋緊張低下を認め、その代償として左上肢挙上時に肩甲帯を安定させるため左三角筋中部線維・左大胸筋・左小胸筋の筋緊張が亢進し、三角筋前部線維は働きにくい状況と考えた。書字時に増強した前腕回内位を制動しようと上腕二頭筋・腕橈骨筋の筋緊張亢進が見られた。鍼治療は 30ミリ 20号のステンレス製ディスポーザブル鍼を用いた。両側上肢区への置鍼および罹患筋に対する循経取穴として、筋緊張促通目的で左中殿筋・左前鋸筋には左丘墟、左多裂筋には左崑崙、左三角筋前部線維には左合谷、筋緊張抑制目的で左大胸筋・左小胸筋には左衝陽、左僧帽筋上部線維には左外関に置鍼した。手指の巧緻動作獲得を目的で左八邪(第 2-3指間)に置鍼した。筋緊張亢進筋、筋緊張低下筋で筋短縮を伴う筋にはダイレクトストレッチングも実施した。書字動作が改善し、鍼治療開始 29ヵ月後、 80分× 2コマの塾講師の就業が可能になった。 【考察・結語】上肢の震えが著明な上肢ジストニア患者に、書字動作に着目して罹患筋を同定した鍼治療が有効であった。 キーワード:上肢ジストニア、書痙、震え、鍼治療 ポスター発表C(Sun-P4-9:00) 9:00〜9:48 鍼(基礎) 座長:谷口博志 147(9:00) 鍼刺激のイメージは脊髄前角細胞の興奮性を増加させる(予備的調査) 北海道鍼灸専門学校 二本松明、川浪勝弘、工藤匡、塩崎郁哉、志田貴広、笠井正晴 【目的】これまでに我々は合谷穴への鍼刺激により刺激部位直下の第一背側骨間筋の誘発筋電図F波の出現頻度や振幅を増加させることを報告してきた。その際、鍼刺激部位への意識集中が交絡因子として関与する可能性が想定された。そこで本研究では合谷穴への鍼刺激による第一背側骨間筋の誘発筋電図F波の変化と、同部位に鍼が刺入されているイメージ(以後鍼イメージ)による変化を検討した。 【対象及び方法】対象は神経障害の認められない健康成人(16例、30.3±6.2歳)とし、鍼刺激を行いF波を測定した実験、鍼刺激をイメージした状態でF波を測定した実験(10例)を行った。鍼は長さ50mm、直径0.18mmのステンレス鍼を合谷穴に10mm刺入した。鍼刺激のイメージは合谷穴に鍼が実際に刺入されているイメージをさせた。誘発筋電図F波は右手関節部尺骨神経に運動神経を順行性に伝導した際に出現する波形であるM波の出現する最大上刺激を持続時間0.2msec、頻度1Hzで32回加えた。導出電極は表面電極を用い、関電極を第一背側骨間筋筋腹上に、不関電極を第2指基節骨上に貼付しF波を導出した。F波の解析パラメータはF波出現回数とした。 【結果及び考察】鍼刺激によりF波出現回数は増加し、鍼刺激をイメージすることによりF波出現回数は増加した。このことから鍼刺激による脊髄前角細胞の興奮は、刺激部位への注意や集中による促通により補われる可能性があると考えられた。 キーワード:鍼刺激、鍼イメージ、第一背側骨間筋、誘発筋電図F波 148(9:12) 変形性膝関節症モデルラットに対する鍼通電の効果 −使用する経穴の差異についての検討− 昭和大学大学院医学研究科生体制御学分野 チュロウンバトオユンチメグ、池本英志、奥茂敬恭、久光正、砂川正隆 【目的】変形性膝関節症(knee osteoarthritis:以下 OA)の発症には、健常な関節軟骨に不可欠なアグリカンを分解するアグリカナーゼ(ADAMTS5)が関与する。本研究では、OAモデルラットを用いて、異なる経穴への鍼通電(Electroacupuncture:EA)が膝関節滑膜におけるADAMTS5の発現に与える影響の違いを検討した。 【方法】12週令の雄性Wistarラットを5群に分けた:対照群、シャム手術群、OA群、OA誘発後に足三里と曲泉にEA処置を行う(OA+曲泉)群、OA誘発後に足三里と膝頂にEA処置を行う(OA+膝頂)群。OAモデルは、ラットの右膝内側脛骨半月靭帯を切離し、内側半月板の不安定化を行うことで作製した。 EA(矩形波パルス電流、1.5mA、2Hz)は、週3回、毎回 30分間、OA誘発後から4週間実施した。運動調整機能の喪失を評価するロータロッドテストは、術前と術後 28日目に実施した。その後、右膝関節滑膜を採取し、ウエスタンブロット法にてADAMTS5の発現を調べた。 【結果】28日目のロータロッドテストでは、対照群(28.8±0.6s)と比較してOA群のロッド上に滞在した時間が顕著に減少した(19.7±0.9s, p<0.01)。しかしその減少は、OA+曲泉群(24.8±1.5s, p<0.05)およびOA+膝頂群(26.9±1.2s, p<0.01)で有意に抑制された。滑膜におけるADAMTS5の発現は、OA群で有意に増加した(3.0±0.3, p<0.01(vs対照群:1.0)。この増加はOA+膝頂群(1.4±0.4, p<0.05)では有意に抑制されたが、OA+曲泉群(2.1±0.3)では有意な変化は見られなかった。 【結語】これらの結果から、EAの膝関節滑膜におけるADAMTS5の発現抑制効果は、膝周囲の経穴でも異なることが示唆された。 キーワード:変形性膝関節症、鍼通電、ADAMTS5、曲泉、膝頂 149(9:24) 鍼刺激による膝前十字靭帯損傷予防の可能性について 1)関西医療大学はり灸・スポーツトレーナー学科 2)関西医療大学スポーツ医科学研究センター 山口由美子 1,2)、久保結菜 1)、白川雄大 1)、武井陽星 1)、西川陽菜 1)、馬場遥大 1)、伊藤俊治 1) 【目的】これまで雌マウスの三陰交穴への鍼刺激において、血中エストロゲン濃度が増加することを確かめた。膝前十字靭帯(ACL)損傷の発生には男女差があるとの報告があり、ACLについて検討するため動物種をラットに変更した。ペレットにてエストロゲンを投与した雌ラットにおいて、非投与群と比べ有意にACLの強度増加が認められた。そこで我々はエストロゲンの影響を受けにくい雄のラットに対して、性ホルモンの分泌に影響する可能性が示唆された三陰交穴に鍼刺激を加えた場合の ACL強度変化を検討することにした。またエストロゲン濃度の影響を引き続き検討するため卵巣切除(OVE)雌ラットを作成し、 ACL強度を測定した。 【方法】Wistar系雄ラット14匹を無作為に鍼刺激群(A群)7匹、コントロール群(C群)7匹に分け、週2回の鍼刺激を 5週間継続したのち、採血し屠殺後 ACLのみ残した大腿骨―脛骨( ACL標本)を調製し、引っ張り試験機を用い強度の測定をおこなった。次に、雌ラット 10匹を無作為にOVE群(O群)5匹、コントロール群(C群)5匹に分け、麻酔下で両側の卵巣切除術をした。5週間後に採血し屠殺ののちACL標本の強度測定をおこなった。統計学的解析はラットの試験力最大値(N)を2群間で比較し検定した。 【結果】 ACL強度は雄ラット A群( 4膝) 43.91±5.34N(平均±SE)、C群(3膝)53.51±9.10Nで有意差は確認できなかった(P=0.40)。雌ラットは O群(6膝)37.89±3.03N、C群(5膝) 32.08±3.03Nで有意差は確認できなかった( P=0.22)。 【考察・結語】雄ラットへの鍼刺激ならびに雌の卵巣切除ラットにおいてACL強度の変化は確認できなかった。雌ラットにエストロゲンを投与した先行研究と合わせて、エストロゲン濃度が低い場合には強度に影響を与えないが、高い場合には ACL強度が増す可能性が示唆された。今後はエストロゲン濃度を高める経穴の検討に取り組みたい。 キーワード:エストロゲン、ホルモン、鍼、膝前十字靭帯損傷 150(9:36) 四肢と体幹を模した生体モデルへの鍼通電状況のシミュレーション 1)東京有明医療大学保健医療学部鍼灸学科 2)東京有明医療大学大学院保健医療学研究科 3)ICM国際メディカル専門学校鍼灸学科 4)つくば国際鍼灸研究所 木村友昭 1,2)、立川諒3)、形井秀一 4) 【目的】低周波鍼通電時の電流の生体への分布状況に関する知見を得ることを目的として、頭部を除く四肢と体幹を模した生体モデルへの鍼通電状況のシミュレーションを試みたので報告する。 【方法】シミュレータ環境(Femtet、ムラタソフトウェア製)上で上下肢を円柱、体幹部を直方体で模したオブジェクトを作成し、このオブジェクト全体が体液あるいは筋に相当する導電・誘電パラメータをもつ生体モデルを作成した。これらのモデルに対し、一対の鍼モデルを、(1)一方の上肢内、(2)左右の上肢間、(3)左右の側胸部間、(4)一方の下肢内、(5)左右の下肢間、(6)上下肢間、となるように配置し、鍼モデル間に 10Vの電圧を印加した際の生体モデル内における電流密度分布を有限要素法により算出した。 【結果】電極配置が左右の上肢間、側胸部間、下肢間、あるいは上下肢間の場合、電流はモデル内を比較的広範に分布し、その傾向は上下肢間の場合により顕著であった。一方の上肢および下肢内での電極配置の場合、電流分布はそれぞれの肢内にほぼ限局していた。体液モデルにおける電流密度は筋モデルに比して約 4.5倍の強度となっていた。体幹モデル中央部における電流密度推定値は、左右側胸部間の電極配置条件において最も高値となり(例:筋モデルで0.14mA/cm2)、一方の上肢、下肢内への電極配置条件では電流分布はほぼ認められなかった。 【考察および結語】モデル内における電流密度は鍼電極の位置により大きく異なり、特に四肢に通電を行う場合、それぞれの肢内で通電を行った場合はそうでない場合に比して体幹部への電流分布が少ない可能性が示された。本研究で作成した生体モデルは心臓等の重要臓器への影響を考慮した鍼通電手法の検討のためのファントムとして一定の示唆を与えうるものであると考えた。 キーワード:低周波鍼通電、鍼電極、シミュレーション、有限要素法、電流密度 9:48〜10:48 環境感染・安全性 座長:菅原正秋 新原寿志 151(9:48) 施術所における災害対策の調査報告 受講者アンケートから見る災害対策の現状 1)公益社団法人日本鍼灸師会研修委員会 2)公益社団法人日本鍼灸師会危機管理委員会 3)長野県臨床鍼灸学会 4)東京医療専門学校鍼灸・鍼灸マッサージ科 5)セイリン株式会社国内営業部医療・企画推進課 6)公益社団法人全日本鍼灸学会臨床情報部安全性委員会 今村頌平 1,3)、是元佑太 2)、荒木善行 1)、大木島さや香 3)、藤田洋輔 4)、西村直也 5)、菅原正秋 6) 【目的】2023年10月、(公社)日本鍼灸師会にて、施術中に地震や大規模停電に遭遇した場合のオンラインリスクマネジメント研修会を実施した。近年、地震や台風、記録的な豪雨が続いていることから本研修会において終了後に参加者へ施術所における災害対策について調査を実施したので報告する。 【方法】調査方法は、研修会終了後に参加者に対して Google formを用いて 22項目の意識調査を実施した。なお、項目の内容は選択方式として「施術所では災害対策マニュアルを策定しているか」「施術所の災害に対する備えは十分だと思うか」等を設問とした。 【結果】262名が参加し、うち107名より回答を得た(回収40.8%)。施術所の災害対策マニュアルを策定していると回答した者は 11%、施術所の災害に対する備えが十分だと回答した者は 11%、施術所の災害に対する備えが不十分だと回答した者は84%、施術所の免震対策をしている者は 36%、落下物、備品の転倒対策をしている者は39%、非常電源を準備している者は 20%という結果であった。 【考察】今回の調査結果から施術所では災害に対する備えが不十分と認識している者が多く、災害対策マニュアルの策定と落下物や備品の転倒対策等が急務となっていることが分かった。今回の調査は研修会に参加した災害への意識がある者が対象であったと事を考えると、国内の施術所全体では更にその割合は少ないものとも推測できる。今後は職能団体と学会とが協力し、より広く施術所の実態調査に努めると共に、いかに来たるべき災害の対策意識を高めるかが課題であると考える。 【結語】近年多発している自然災害に対し、施術所における災害リスクマネジメント研修会を行い、アンケート調査を行った結果、施術所の災害に対する備えが不十分との回答は 8割を超えていた。今後は職能団体と学会とが協調し、広い実態調査やガイドラインの策定を行い、安心安全な社会資源としての鍼灸医療の確立に寄与したいと考える。 キーワード:リスクマネジメント、災害対策、意識調査 152(10:00) 衛生的刺鍼のための鍼管のアイデア −片窓鍼管− 常葉大学健康プロデュース学部健康鍼灸学科 新原寿志、福世泰史 【背景】感染防止の観点から衛生的刺鍼法の実践が求められている。米国式クリーン・ニードル・テクニックは、鍼体に接触しないことから衛生的刺鍼法として推奨されているが、押手を行わないため、鍼体が撓まない鍼体径の太い鍼を選択する必要があること、索状硬結といった目的の組織へ正確に素早く施入することが容易でないこと、抜管時に左右の手で鍼柄を持ち替える必要があるなどの問題があり、国内では浸透していない。 【目的】本研究は、散鍼用片窓鍼管をヒントに、押手を残し挿管したままの状態で鍼を刺入可能な鍼管を作製し、その機能性について検討した。 【方法】プラスチック鍼柄の毫鍼( JSP type、鍼体径 0.16、0.18、0.20mm、鍼体長 30、40、50mm、セイリン社製)を用いた。鍼管は上端から 5mmの部分に窓(4mm×20mm)を開けた。本鍼管の機能性は、鍼を挿管した状態で円滑に刺入が可能か否か、その際の最大刺入深度(切皮を含む)、抜管時に押手なしで鍼が倒れるか否か、目標物に鍼尖を当てることができるかの4点で評価した。刺鍼の手順は以下である。異なる硬さのゲル(6mm/枚)を軟らかい順に重ねた刺鍼練習台(ユニコ社製)の上に押手をつくり鍼管をたて切皮する。刺手の母指の指腹を鍼柄の側面に当て、鍼を鍼管内で滑らせるように押し込み刺入する。押手を離し抜管する。なお、目標物(直径3mm×長径12mm、円柱状の金属)は、深さ15mmのゲル層内に挿入した。 【結果】いずれのサイズの鍼も、刺入時に鍼管内で鍼体が撓むものの、挿管したままの状態で比較的容易に30mm以上・37mm未満の深さに刺入でき、抜管後も鍼が倒れることはなかった。また、鍼尖を目標物に容易に当てることができた。 【結論】本鍼管は、比較的細い鍼を衛生的に刺鍼できる有用なツールであることが示唆された。また、比較的浅層であれば、目的の組織へ素早く正確に刺鍼することが可能であり、美容鍼をはじめとした臨床応用が期待できる。 キーワード:衛生的刺鍼、片窓鍼管、押手 153(10:12) 上肢の肢位の違いが背部経穴の鍼の安全刺入深度に影響を与えるか 1)平成医療学園専門学校鍼灸師科 2)平成医療学園専門学校東洋療法教員養成学科 佐原俊作 1)、上野暁生 1)、内野容子 2)、北野吉廣 2) 【目的】背部経穴への刺鍼は気胸を発生させる恐れがあり、鍼の安全な刺入深度についてはこれまで報告がされている。過去の生体による報告では計測する際の肢位において差異がみられる。一方で、鍼灸臨床では様々な肢位で鍼施術が行われている。そこで今回は、上肢の肢位の違いが各経穴の体表から胸膜までの距離に影響を与えるかについて検討を行った。 【方法】対象は同意を得た健康成人8名(男性4名、女性4名)、平均年齢23.9(4.7)歳とした。撮像は伏臥位にて、超音波画像装置(日立メディコ社製 HI VISION Avius)を用い、体表から胸膜までの距離を測定した。撮像肢位は肩関節外転 0°、肩関節外転 90°、肩関節外転 135°とし、測定部位は胸郭上にある膀胱経第 2線上で Th1-Th7間の経穴(7穴:14ヵ所)とした。各肢位間における体表と胸膜までの距離は T検定を用いて比較検討を行った。 【結果】各経穴の体表と胸膜までの平均距離は肩関節外転 0°、肩関節外転 90°、肩関節外転 135°の順に mean(SD)で示す。肩外兪は 33.0(8.7) mm・35.0(6.2)mm・38.6(5.5)mm附分は 31.2(7.8)mm・34.9(6.0)mm・38.3(4.5)mm魄戸は 29.0(5.4)mm・32.1(5.5)mm・34.8(4.7)mm、膏肓は 28.1(4.5)mm・29.6(4.2) mm・31.2(3.7) mm、神堂は 25.8(4.0) mm・26.9(3.8) mm・27.5(3.5) mm、は23.5(3.8)mm・24.1(3.9)mm・24.8(3.5)mm、膈関は 23.0(5.5)mm・22.6(4.1)mm・23.8(4.2)mmであった。肢位間で有意差は外転 0°-外転 135°で肩外兪、附分、魄戸、膏肓、神堂、、外転 90°-外転 135°で肩外兪、附分でみられた(p<0.05)。 【考察】体表と胸膜までの距離には肩関節の角度が影響を与える可能性が示唆された。Th1-Th3間の高さにある肩外兪、附分、魄戸は外転 0°-外転 135°で変化が大きくなった。よって臨床においては、患者の上肢の肢位を考慮して刺鍼の深さを調整する必要があると考えられる。 キーワード:超音波画像、刺入深度、気胸、背部経穴 154(10:24) 安全性を配慮し電気ていしんコードで横隔神経刺激を行った1症例 1)東北大学大学院医学系研究科地域総合診療医育成寄附講座 2)東北大学大学院医学系研究科漢方・統合医療学共同研究講座 3)東北大学病院総合地域医療教育支援部・漢方内科 4)新潟医療福祉大学リハビリテーション学部鍼灸健康学科 石井祐三 1,3)、金子聡一郎 1,3,4)、高山真2,3) 【目的】横隔神経付近には血管、神経が分布し刺鍼にはリスクを伴う。そこで安全面を配慮し、経皮的刺激である電気ていしんコード( Electric tei acupuncture以下 ETA:全医療器製)を使用したところ、症状の軽減を認めた症例を経験したので報告する。 【症例】50歳女性、主訴:喉頭部違和感・咳現病歴:X年1月交通事故後より、喉の違和感と軽い咳が出現。他院にて気管支喘息と診断され加療を受けたが改善には至らなかった。X年9月、下痢や身体の痺れも出現し、漢方薬を処方された。また同時期に整骨院にて星状神経節のレーザー治療を受けたが改善に至らず、当院漢方内科を受診し、鍼灸施術の併療となった。所見:身長155cm、体重51kg、血圧150/101mmHg、脈拍82bpm脈候:沈、細、弦、滑、舌候:淡紅色、舌尖紅、薄白苔、胖大、歯痕、オ斑。腹候:腹力中等度、臍上悸、心下痞硬、左胸脇苦満、左右臍傍圧痛、小腹不仁、右頸部深部のこり感あり。気血津液弁証:気滞、水滞、血虚。 【治療・経過】漢方薬は加味逍遙散、当帰芍薬散が処方され、鍼灸は中焦の去湿、呼吸補助筋の筋緊張緩和を目的に行った。喉頭部の違和感と右頸部深部のこり感が残存したため、扶突穴に切皮程度の刺鍼を行ったが症状は軽減せず。さらに深部刺激として横隔神経を刺激することを検討したが、同部は血管や神経に富んでおり、刺鍼ではリスクが高いことから、 ETAにて経皮的刺激を施行した。方法は、下位頸椎の高さにて前斜角筋前際または胸鎖乳突筋内側より横隔膜収縮を確認後に、 1Hzで3〜5分程度の刺激を行った。治療によりVASは53 21mmに軽減し、同治療を 3ヶ月継続することでこり感は軽減、喉頭部の違和感は消失した。 【考察・結語】交通事故による喉頭部違和感・こり感に対し、横隔神経に ETAによる経皮的刺激を行ったところ症状の消失が認められた。刺鍼のリスクが高い部位における安全性に配慮した治療法の 1つとして、有用であると考える。 キーワード:横隔神経、電気ていしんコード、安全性 155(10:36) 衛生的で安全性の高いクリーンニードルテクニックの特許開発 1)全国出張はりきゅう院 2)北海道鍼灸専門学校 3)帝京平成大学ヒューマンケア学部鍼灸学科 平岡光一 1)、川浪勝弘 2)、二本松明2)、今井賢治 3) 【目的】現在の日本の鍼手技において衛生面では限界があり感染や鍼体に直接触れる押手問題、安全面では曖昧な刺鍼深度での気胸や神経損傷等がある。そこで本研究では鍼体に触れずに鍼操作が行うことができ且つ刺鍼深度が一定に保つことのできるクリーンニードルテクニックを開発した。(特許 7307256号) 【方法】3Dプリンターを使用し鍼管の形を上部鍼管、下部鍼管のセパレート型にした。上部鍼管の穴は鍼柄が通過でき下部鍼管の穴の内径は鍼柄より小さくして通過できなくしてある。長さ60mmの鍼に対し下部鍼管の長さを20mmとする。鍼柄は下部鍼管の上部で止まる設計で20mm差し引くと余り40mmが皮膚以下の刺鍼深度になりそれ以上刺入しない設計とする。そのように下部鍼管の長さを30mm40mmと設計変更をすることにより皮膚以下の刺鍼深度は正確な距離となる。 【結果】刺鍼深度を検証するため20mm30mm40mmの刺入深度の下部鍼管を製作し、50mmの厚さのあるスポンジに60mmの鍼を垂直方向に刺鍼した。刺入深度の計測は刺入面から鍼柄下部の長さを鍼体長から引いて求めた。結果下部鍼管を差し引いた以上の刺入は認められなかった。 【考察】このクリーンニードルの安全性は刺鍼深度が決まり設計以上の刺入ができない。今までの曖昧な刺鍼深度ではないのでカルテに記載や写真を撮れば刺入深度によるデメリットが発生しても釈明しやすい。下部鍼管が目立つので抜き忘れ防止になる。また下部鍼管を設ける利点を生かし押手で鍼体に触れる感染リスクのある押手問題も解決できる。 【結語】近年コロナ禍で感染症問題が浮上し鍼灸業界でも衛生面に気をつける風潮になりつつある。医療と同等の標準予防策(スタンダードプリコーション)のように、クリーンニードルテクニックが鍼灸師の標準予防策化する時代がきている。 キーワード:クリーンニードルテクニック、安全性、衛生面、感染、特許 10:48〜12:00 社会鍼灸学 座長:今井賢治 木村友昭 156(10:48) 高額訴訟事例から後頸部刺鍼のトラブル回避についての考察 森ノ宮医療大学保健医療学部鍼灸学科 尾崎朋文、辻丸泰永、仲村正子、辻涼太、松熊秀明 【目的】クモ膜下出血の発症原因を天柱・風池穴への刺鍼とする損害賠償1億円の裁判例から当事者の同意を得て後頸部刺鍼のトラベル回避について考察する。 【症例】発症日: 2017年3月13日 52歳男、身長 177 cm、体重 74.3kg、BMI23.7、主訴:肩こり、頭痛、腰痛 【病歴と経過】普段から腰痛や肩こりに対する鍼治療の往療で症状の軽減あり。 3月13日に鍼治療。天柱、風池に 40mm・50mm鍼の 20・22号を用い刺入深度約 30mmで雀啄し、患者は「響き」を気持ち良いと言う。術後 30分後に頭痛、嘔吐で救急車要請。所見: GCSは E3V5M6、眼球運動障害、両側外転神経麻痺、軽度構音障害、頭部 CTで後頭蓋窩クモ膜下出血を認める。翌日、右片麻痺出現し、 MRIで延髄左腹側に急性期脳梗塞を認めた。当初、右上下肢の MMT1/5が4月25日には 4/5に改善。同日にリハビリ病院に転院、同年 9月 20日退院。ある程度症状改善したが、軽度の複視と右下肢に後遺症が残存。 2016年6月の健康診断で頭部 MRI/MRAで大脳・小脳・脳血管に異常なし。病名:特発性クモ膜下出血、ラクナ梗塞 【既往歴】高血圧症、脂質異常症、睡眠時無呼吸症候群、頸動脈血栓、僧帽弁閉鎖不全症、大動脈弁閉鎖不全症。 【損害賠償請求事件訴状提出】 2020年3月 【裁判のポイント】刺鍼による椎骨動脈・クモ膜下損傷を争う。原告側は過去頭部に異常を認めないこと、刺鍼後に症状が出現した等から刺鍼が原因と主張。被告側は BMI23.7の肥満に近い標準型で 50mm鍼を使用し、押手幅 20mmを除いての約 30mm刺入では椎骨動脈損傷は不可能と主張。 【考察・結論】患者とのトラブルの回避には、同穴の危険深度は 30mm以上であることから、鍼体 30mm以下の鍼を基本とする。 50mm鍼以上の鍼は禁忌。 40mm鍼では押手の幅を必ず保持する。カルテは必須。賠償保険に加入すること。平常から医師、放射線技師等と協力関係を築くこと。以上が重要と考える。 キーワード:天柱、クモ膜下出血、椎骨動脈、危険深度、高額訴訟 157(11:00) プレゼンティーズムに対する鍼灸治療その1 −モニタリング調査からみた鍼灸の可能性− 1)株式会社はあとふるあたご はあとふる鍼灸マッサージ治療院 2)新潟医療福祉大学鍼灸健康学科 高田光俊 1)、粕谷大智 2) 【緒言】近年、健康経営が重視される中で、企業の現場ではプレゼンティーズム対策がより一層求められている。しかし、経産省の健康経営ガイドブックの対策欄には鍼灸は記載されていない。今回、肩こり、腰痛といったプレゼンティーズム症状を訴える勤労者に対して鍼灸治療を行い、自覚症状の変化をモニタリングし、プレゼンティーズム対策としての鍼灸の有用性を検討した。 【方法】新潟市の健康経営優良法人の役員 2名、従業員18名に対して、 1名当り 30分の鍼灸治療を行なった。評価法として自覚症しらべ(日本産業衛生学会産業疲労研究会、2002)を用い、被験者には治療の直前直後と1週間後に症状の変化を入力してもらった。 【結果】被験者20名の自覚症状の度合( 5点評価)の上位 5つについて、その合計点の治療前後の変化については、「肩がこる」 74点→40点(改善度 34点)、「目が疲れる」69点→ 44点(改善度 25点)、「腰が痛い」 65点→35点(改善度30点)、「目がしょぼつく」 60点→42点(改善度 18点)、「頭が重い」 56点→ 31点(改善度 25点)であった。また施術直後で自覚症状の改善を感じた人数は 20名全員に認め、施術 1週間後では 20名中 9名(45%)に認めた。 【考察】今回の結果から、プレゼンティーズム症状に対して鍼灸は即効性があり、一定の効果が期待できると考える。また、鍼灸治療の 1週間後も被験者の 45%が症状の改善を自覚しており、持続効果も示唆される結果となった。 【結語】プレゼンティーズム対策の一つとして鍼灸は有望な候補になり得ると考える。企業が福利厚生ヘルスケアとして鍼灸を導入するようになれば、鍼灸の受療率アップにもつながることが期待される。 158(11:12) 中国における江南地域の中医鍼灸について 特に江蘇省の人材の足跡を調査して 大阪医療技術学園専門学校 奈良上眞 【はじめに】江蘇省は悠久の歴史を持ち、BC514年に呉城を築城した蘇州、 BC202年に無錫県を設置した無錫、AC25年に孟城を築城した孟河、 AC117年に謝陽県を設置した淮安、AC212年に石頭城を築城した南京がある。それらには呉門医派(蘇州)、龍砂医派(無錫)、孟河医派、山陽医派(淮安)、金陵医派(南京)には多くの医家が活躍し継承している。今回、特に鍼灸学派に着目して人材に関して調査した。 【研究方法】現存する江南地域医学流派の資料を対象に鍼灸の動向を調査した。対象文献は『話説国医(江蘇巻)』、『江蘇中医』、『百年金陵中医』、『鍼灸流派概論』等とした。【結果】対象文献から、経穴考訂派の滑寿(元代)は江蘇儀真に生まれ、江蘇鎮江の王居中を師事。貼穴派の徐大椿(清代)は江蘇呉江。急症針灸派の葛洪(東晋)は江蘇句容。外科鍼灸派の劉涓子(東晋)は江蘇徐州、薛己(明代)は江蘇蘇州、陳実功(明代)は江蘇南通。婦科鍼灸派の王肯堂は江蘇常州。喉眼科鍼灸派の夏雲(清末)は江蘇揚州、張路(清代)は江蘇蘇州。中西匯派の承淡安(近代)は江蘇江陰、朱連は江蘇漂陽の出身であった。また地域別流派では龍砂医派(無錫)は承淡安。金陵医派(南京)は邱茂良、楊長森。山陽医派(淮安)は程幸農であった。さらに承淡安は中西医学の融合的現代鍼灸学術の特徴の澄江鍼灸学派から多くの人材を輩出した。邱茂良(南京中医)、楊長森(南京中医)、楊甲三(北京中医)、程幸農(北京中医)等であった。さらに近代上海で黄鴻舫(江蘇無錫)、陸痩燕(江蘇昆山)も活躍していた。 【考察、結語】江蘇地域における中医学流派は地域的要素が強いと考えられ、鍼灸医学は近代の承淡安の澄江鍼灸学派による学院伝承の影響は大きいと考える。また承淡安、朱連は現代科学研究から鍼灸医学の貢献に尽力した。今後、人材の足跡とともに各流派の学説等の伝承および影響を文献整理しなければならないと考える。 キーワード:プレゼンティーズム キーワード:中医鍼灸、江南地域、江蘇省、流派伝承、文献調査 159(11:24)  GHQによる「鍼灸禁止令」の歴史的意義 「三重軍政部月例活動報告書」から読み解く 呉竹鍼灸柔整専門学校 奥津貴子 【目的】第2次世界大戦後、日本を占領統治していたGHQ(連合国軍最高司令官総司令部)は、 1947年(昭和22)9月23日、厚生省(現厚生労働省)に対し、視覚障害者による鍼灸治療の禁止に言及し、鍼灸の改革を勧告している。この出来事を GHQによる「鍼灸禁止令」と解釈した鍼灸業界は一致団結し、鍼灸存続運動を展開している。折しも「鍼灸禁止令」前の7月、 GHQの地方組織である三重軍政部が鍼灸実態調査を行い、その問題点を「月例活動報告書」にまとめ、東海北陸軍政部に提出している。「鍼灸禁止令」の発端である三重軍政部による鍼灸実態調査を分析することで、「鍼灸禁止令」の歴史的意義がわかるのではないかと考え、本研究を行った。 【方法】三重軍政部による「三重軍政部月例活動報告書」(アメリカ国立公文書館・国立国会図書館所蔵)を調査した。 【結果】三重軍政部は鍼灸実態調査を行った理由として「多くの日本人が生涯にわたり病気の治療に灸を用いている。その行為が胃癌の治療の遅れの一因にもなっている」ことを挙げ、「鍼灸への傾倒が適格な治療を受ける機会を遅らせている」と指摘している。また鍼灸には「安全性」、「有効性と科学的根拠」、「視覚障害者による治療」についての問題点があり、「鍼灸は医師の処方箋に基づいて行い、医師の指示の下でのみ許可されるべきである」と結論付けている。 【考察・結語】当時、日本の伝統医療である鍼灸の実態は、現代医学の主流である西洋医学からかけ離れており、 GHQに問題視されることは必至であった。三重軍政部が指摘した問題点は「鍼灸禁止令」の発端となり、未曾有の混乱を招いたが、鍼灸業界を改革へと導き、現代でも鍼灸の発展に繋がる課題として追究されていることに歴史的意義がある。過去の歴史から学んだことは教訓となり、現在・未来に活かすことができれば発展に繋がる。「鍼灸禁止令」を歴史の教訓とし、今後も検証する必要がある。 キーワード:鍼灸禁止令、 GHQ、三重軍政部、鍼灸実態調査、三重軍政部月例活動報告書 160(11:36) 令和6年能登半島地震における鍼灸マッサージ施術導入までの報告 1)常葉大学浜松キャンパス健康プロデュース学部健康鍼灸学科 2)災害支援鍼灸マッサージ師合同委員会 3)全日本鍼灸マッサージ師会 村上高康 1,2)、是元佑太 2)、矢津田善仁 2)、仲嶋隆史 2)、古田高征 2)、清水洋二 2)、杉若晃紀 2)、松浦浩市 2)、榎本恭子 2,3)、朝日山一男 2,3) 【背景】(公社)日本鍼灸師会及び全日本鍼灸マッサージ師会が合同運営する災害支援鍼灸マッサージ師合同委員会(DSAM)は、発災時に行政や関係医療団体等に対する業界の窓口となることを目的に設立されている。近年、発災後の災害関連死予防や支援者支援のための鍼灸・マッサージ施術が注目されている。今回、令和6年1月1日に発生した能登半島地震において DSAMに所属し発災直後から各関係機関等へ情報収集を行い、現地へ鍼灸マッサージ師を募集・派遣を行うための後方支援を経験したので報告する。 【活動経過】1月1日の発災より情報収集に努め、オンラインで活動について協議した。1月8日、3人の調整員は現地鍼灸師会及び鍼灸マッサージ師会との調整後、災害派遣医療チーム( DMAT)調整本部に赴き、活動拠点を設置した。1月9日、石川県庁内にて、鍼灸マッサージ施術による支援者支援を開始。1月14日及び1月21日、いしかわ総合スポーツセンターにて、同様の被災者支援を行った。施術者派遣のため、日程調整・施術道具の準備・受け入れ施設と施術者の調整など後方支援を担当した。所在が分散している構成員との情報共有ツールとして、 DSAM内においては、SNS(グループLINE)を用い、外部の鍼灸支援活動を行う団体とは日本災害鍼灸マッサージ連絡協議会(JLCDAM)のHPを使用した。また、クロノロジーとして情報を Googleスプレッドシートに時系列で整理し、書類や写真は Googleドライブにて共有した。また施術者の募集にはGoogleフォームを活用した。 【活動の総括】派遣された施術者は現地での需要に対応し活動を円滑に行う事が出来た。これは平時から支援活動や講習会への参加、自治体との災害協定締結などの努力の成果と思われた。インターネット活用による情報共有も重要であった。今後は初動を早くすること、被災地では対応出来ていない需要が多くあり、被災地への健康支援活動ネットワークを拡大する必要があると考える。 キーワード:令和6年能登半島地震、被災者支援、支援者支援、鍼灸、マッサージ 161(11:48) 災害支援活動からみえた鍼灸マッサージ師の資質 1)DSAM 2)日本鍼灸師会 3)大阪府鍼灸師会 4)堀口針灸室 堀口正剛 1,2,3,4) 【背景】(公社)日本鍼灸師会では、東日本大震災を契機として平成26年に「災害医療対策委員会」を発足させ、(公社)全日本鍼灸マッサージ師会とともに災害支援鍼灸マッサージ師合同委員会(DSAM)を立ち上げた。DSAMでは平成 30年より、災害支援鍼灸マッサージ師合同育成講習会を開催している。今回、令和 6年能登半島地震における支援活動において、参加した鍼灸師の「支援者としての資質」に対する課題を抽出したので報告する。 【方法】期間は令和 6年1月14日から2月25日間の計7回とした。DSAM支援活動において生じた課題をコーディネータが列挙した。 【結果】支援活動の参加者はのべ40名、平均年齢 43.22歳、所属先は日本鍼灸師会24名、全日本鍼灸マッサージ師会9名、その他 7名であった。コーディネータが列挙した支援者の資質として生じた課題は、(1)責任賠償保険無加入での施術希望、(2)治療時間の大幅な延長、(3)持参の施術器具を許可なく使用、(4)独自の治療理論や健康観を押し付けるなどが抽出された。 【考察と結語】これらの課題に共通しているのは、申し込みの段階等で確認を取っている事項(ルール)でありながら順守されていないということである。参加者に求めるこれらの事項は、基本的に被災地・被災者に迷惑を掛けないという理念のもとで設定したものである。順守されない背景として、ボランティアという無償活動における考えの甘さや、協調性の無さが考えられる。鍼灸師は、その多くが個人で開業しており、その点では鍼灸師の多様性は肯定的な要素と考えられる。しかしながら、ボランティア活動を組織の一員として行うためには、多様性よりも協調性が重要であるため、その点については、教育や意識改革が必要であると考える。協調性は、他(多)職種連携においても重要な要素であるため、学校教育や DSAMの研修会においても重視されるべき点であることが認識された。 キーワード:災害支援活動、 DSAM、多様性、大道団結、基礎教育