一般演題(ポスター発表)抄録 5月25日(土)午前(10:50〜12:00) 1)発表スケジュール(各抄録は全体スケジュールの後に記載してあります) 学生発表@ 10:50〜11:30「基礎・臨床」座長:岡田岬 175 鍼灸施術に応用できる腰痛に関連する要因の検討 176 ヒトにおける足三里への鍼通電刺激は全血LPS耐性を変容するか? 177 鍼刺激による精巣機能への効果ついて 178 鍼刺激による男性型脱毛症への効果について 学生発表A 11:30〜12:00「調査・フィールドワーク」座長:中村優 179 肩こり・腰痛患者数と気象データとの相関 180 教科書に記載される五臓病証 『新版東洋医学概論』記載の五臓病証の検討 181 疼痛に悩む育児中の女性に有用な対策の検討 ポスター発表@(Sat-P2-11:00) 11:00〜12:00 COVID19関連 座長:恒松美香子 関真亮 015 コロナ禍における鍼灸施術の状況に関する調査 パンデミック下での感染対策の状況 016 新型コロナウイルス罹患後症状の咳に対する鍼の一症例 喘息日誌による評価 017 知的障害者家族の心身変化にあはき師が継続的に関わった一症例 018 コロナ禍が特別支援学校理療科臨床実習受療者の実態に及ぼす影響 019 教育機関のはりきゅう治療室におけるコロナ禍前後の患者の変化 ポスター発表A(Sat-P3-11:12) 11:12〜12:00 顔面神経麻痺 座長:山口智 034 陳旧性顔面神経麻痺後遺症に対する鍼治療の有用性 035 末梢性顔面神経麻痺の鍼治療期間後に形成外科手術に至った1症例 036 末梢性顔面神経麻痺に対し鍼治療併用でQOL向上に寄与できた1症例 037 Emotricsで表情筋麻痺を評価した末梢性顔面神経麻痺患者の1症例 ポスター発表B(Sat-P4-11:00) 11:00〜12:00 スポーツ領域 座長:近藤宏 泉重樹 052 女子陸上長距離選手における大腿骨疲労骨折の1症例 鍼灸治療初診時に疲労骨折が疑われた事例 053 灸セルフケアが認知反応時間に与える影響―第2報― 054 アメリカンフットボールチームにおける鍼治療の試み 2年間のスポーツ外傷・障害を対象として 055 スポーツ外傷・障害に対する鍼治療の疫学調査 アメリカンフットボール選手を対象として 056 中学生へのスポーツを通した東洋医学的観点からの健康教育の試み 2)各抄録 学生発表@ 10:50〜11:30「基礎・臨床」座長:岡田岬 175 (10:50)鍼灸施術に応用できる腰痛に関連する要因の検討 1)帝京平成大学ヒューマンケア学部鍼灸学科 2)帝京平成大学東洋医学研究所 鈴木宥翔1)、小川日奈子1)、須藤里香1)、高田柚希1)、野口真吾1)、恒松美香子1,2) 【背景】腰痛には、身体の様々な要因が関与していることが示唆されている。鍼灸施術を行う上でも、どのような要因が腰痛に関連しているかを考慮した上で、その部位に刺激を与えることが効果的な施術を行う上で有用であると考えられる。そこで、本研究は、腰痛に関与する身体の要因を明らかにし、有用な鍼灸施術部位を検討すること目的とする。 【方法】対象者は20名の大学生とし、Visual analoguescaleによる腰部、股関節、膝関節、足関節の疼痛の程度、Modified Thomas test(MTT)による腸腰筋の柔軟性、股関節・体幹の屈曲および伸展の関節可動域、超音波画像診断装置を用いた腸腰筋の厚さ、ハンドヘルドダイナモメーターを用いた股関節の屈曲・伸展の筋力、側面からの写真撮影とその写真を基にした骨盤の傾きを評価した。測定した項目と安静時の腰痛の程度との関連をピアソンの積率相関係数で検討した。 【結果】安静時の腰痛(以下、腰痛)の程度と股関節痛の安静時・運動時痛には、正の相関が認められた。また、安静時の腰痛の程度とMTTとの間には、負の相関が認められた。安静時の腰痛の程度と大殿筋および腸腰筋厚との間には、負の相関が認められた。 【考察】腰痛が強い者ほど股関節の痛みが強かったことより、腸腰筋などの腰部と股関節をつなぐ組織の状態が腰痛に関連していることが考えられた。また、腰痛が強い人ほどMTTの値が小さかったことは、股関節の可動域の悪さが腰痛に関連したと推測された。さらに、腰痛が強い人ほど、大殿筋・腸腰筋厚が薄かったことは、これらの筋の作用を他の腰部の筋肉が代償し負担をかけたために腰痛が発生した可能性があると考えた。腰痛症状改善のための鍼施術を行う際は、腰部だけでなく、股関節周囲の症状にも注意を払い、必 要に応じてその部への刺激を行うことも有用であると推測される。 【結語】腰痛には股関節の状態が関連することが示唆された。 キーワード:腰痛、腸腰筋、股関節、鍼施術 176 (11;00)ヒトにおける足三里への鍼通電刺激は全血LPS耐性を変容するか?  1)帝京平成大学ヒューマンケア学部鍼灸学科  2)帝京平成大学東洋医学研究所  3)筑波大学医学医療系  藤川新大1)、恒松美香子1)、玉井秀明1,2)、小峰昇一1,2,3) 【目的】足三里(ST36)への刺激は免疫応答に影響を及ぼす可能性が示唆されているが、その効果は不明な点が多い。他方、エンドトキシン(LPS)の血中流入は炎症を惹起させ、生活習慣病、自己免疫疾患、COVID-19の後遺症など、様々な疾患に関与する。本研究ではヒトにおける足三里への鍼通電刺激(EA)がLPS由来の血中炎症応答に与える影響を解析するこ とを目的とした。 【方法】若年男女63名を無作為に偽処置群(CON, n=32)、鍼通電刺激群(EA, n=31)に分けた。左右の足三里に対し、CON群は切皮(2〜3mm)程度、EA群は2.5cm程度の深さとなるよう刺入し、EA群には通電刺激を追加した。両群共に介入前と4日間の介入後に採血を行った。介入後の全血に対してLPSを添加し、3時間の培養を行った。その後、血漿中の炎症性サイトカイン(TNF-α, IL-6)、抗炎症性サイトカイン(IL-10)濃度を解析した。また、末梢血単核細胞を単離し、異物貪食能解析のため末梢血単核細胞に蛍光標識ビーズを添加し、FACSにて解析を行った。鍼刺激及び採血は有資格者が実施した。 【結果】介入前後の比較において、両群共にTNF-α、IL-6の濃度に差は認められなかった。介入後において、CON群の全血にLPSを添加すると炎症性サイトカイン濃度は増大した。一方、EA群においてはTNF-αの分泌増大は抑制され、CON群に比してEA群で有意に低値となった(CON 群; 281.4 ± 120.1pg/mL 、EA 群;216.7±89.4pg/mL)。IL-6とIL-10はLPS添加により増大したが、EAによる差は認められなかった。LPSにより異物貪食能は増大したが、差は認められなかった。 【考察・結語】ヒトにおける足三里深部への鍼通電刺激は、足三里切皮程度の刺激に比してLPS誘導性の炎症応答を抑制する可能性が初めて明らかになった。この効果は、LPS由来の血球炎症により惹起される疾患の発症・進展の抑止に有用である可能性が示唆された。  今後は足三里が誘導する効果の経穴特異性を検証していく。 キーワード:鍼通電刺激、エンドトキシン(LPS)、 免疫応答、炎症性サイトカイン 177 (11:10) 鍼刺激による精巣機能への効果ついて 1)関西医療大学保健医療学部 はり灸・スポーツトレーナー学科 2)関西医療大学スポーツ医科学研究センター 武井陽星1)、西川陽菜1)、久保結菜1)、 白川雄大1)、馬場遥大1)、山口由美子1,2)、伊藤俊治1) 【目的】我々はこれまで雌マウスの三陰交穴への鍼刺激により血中エストロゲン濃度が変化することを報告してきた。今回、雄マウスの三陰交穴と腎兪穴への刺激による精巣臓器の変化に着眼した。鍼灸での不妊治療は数多く報告されている。東洋医学にて古代から遺精やインポテンツ等の原因には腎精不足であることが示唆されている為、三陰交穴の他に腎兪穴も刺激した。 鍼刺激による不妊治療への効果や適応が示唆されれば一般不妊治療や生殖補助医療よりも安価で行えることが期待される。これらを目的として実験動物を用いて鍼刺激により精巣組織や、血中ホルモン濃度がどのように変化するか検討した。 【方法】15週齢のウィスターラット雄21匹を無作為に三陰交穴刺激群(S群)7匹。腎兪穴刺激群(B群)7匹、コントロール群(C群)に分け、週2回5週間、計10回の鍼刺激を行った。鍼刺激は麻酔下で15分の置鍼を行い、C群は麻酔のみを行った。鍼はステンレス製の1寸の01番を使用した。三陰交穴と腎兪穴の部位に関しては中獣医学を参考に決定した。5週間後に採血、屠殺し、精巣組織を採取して重量測定を行った。採取した精巣はホルマリン固定して顕微鏡観察を行った。血中テストステロン濃度をELISA法で測定し、また腸内細菌叢についても変化の測定を依頼した。 【結果】S群の精巣重量がC群に比べ有意に増加していた。血中テストステロンは、S群で高くなっていたが、有意差を示すには至らなかった。しかし、組織学的には精巣組織は大きな違いが認められなかった。 【考察と結語】三陰交穴の刺激により雄ラットにも変化が認められた。三陰交穴の鍼刺激には生殖腺へ影響を及ぼすことが考えられた。これまで三陰交穴は女性でも、男性でも不妊治療の治療穴のひとつとして使用されていたが、今回の結果より生物学的なメカニズムは生殖腺の変化を介していることが考えられた。今後更にこのメカニズムについて研究していきたい。 キーワード:テストステロン、精巣 178(11:20) 鍼刺激による男性型脱毛症への効果について 1)関西医療大学保健医療学部 はり灸・スポーツトレーナー学科 2)関西医療大学スポーツ医科学研究センター 西川陽菜1)、武井陽星1)、久保結菜1)、白川雄大1)、馬場遥大1)、山口由美子1,2)、伊藤俊治1) 【目的】男性型脱毛症(以下AGA)に対して鍼灸での治療法は確立されていない。AGAには男性ホルモンの関与が報告されている。我々のラットを用いた研究で鍼刺激により血中性ホルモン濃度が変化する可能性が示された。AGAの治療穴に三陰交穴や腎兪穴が挙げられる。これらを利用し、AGA治療に鍼刺激による男性ホルモンのコントロールが利用できる可能性 とジヒドロテストステロン(以下DHT)の濃度に変化がないか検討した。DHTを産生する酵素であるαリダクターゼの変化についても検討した。 【方法】15週齢のウィスターラット雄21匹を無作為に三陰交刺激群(S群)7匹、腎兪穴刺激群(B群)7匹、コントロール群(C群)に分け、週2回5週間、計10回の鍼刺激を行った。鍼刺激は麻酔下で15分の置鍼を行い、C群は麻酔のみを行った。鍼はステンレス製の1寸の01番を使用した。三陰交穴と腎兪穴の部位に関して中獣医学を参考に決定した。5週間後に採血、腎兪穴周辺の皮膚組織を採取し筋膜、脂肪層を除去した皮下組織を残した。皮下組織からはRNAを抽出しリアルタイムPCR法により5αリダクターゼを測定した。血液からはELISA法によりDHT濃度の測定した。 【結果】ラットには5αリダクターゼが3種類存在するが、5α-リダクターゼ2,3は皮膚ではほとんど検出されなかった。S群の血中テストステロンは高い傾向にあり、5α-リダクターゼ1の発現も高値を示したが、DHTの血中濃度には違いがなかった。 【考察結語】5αリダクターゼの活性が高まっていたことから生成されるDHT量も皮膚では増加しているとが考えられた。DHTは脱毛を促進する可能性が高く、AGAを治療するには三陰交穴への刺激は逆効果であると考えられる。今後はDHTの濃度を下げる治療穴を検索したいと考えている。ただ、ラットと人間は発毛のメカニズムが異なる可能性がある為併せて 研究していきたい。 キーワード:男性型脱毛症、テストステロン 学生発表A 11:30〜12:00「調査・フィールドワーク」座長:中村優 179 (11:30) 肩こり・腰痛患者数と気象データとの相関 鈴鹿医療科学大学保健衛生学部 鍼灸サイエンス学科 荒瀬巧麻、浦田繁 【目的】肩こり・腰痛の訴えは非常に多く、鍼灸治療がその受け皿のひとつになっている。また、近年気象と病いとの関係が研究され、「気象病」という概念が確立しつつある。気象病は、痛みや不快感と関連しやすいことが報告されているが、鍼灸患者についてそれら関連を調べた報告は、少ない。本ゼミでは、鍼灸治療センターにおける「腰痛」「肩こり」の患者動態を調べるとともに、気象データとの関連について検討した。 【方法】2010年4月1日から2015年5月31日までに鈴鹿医療科学大学附属鍼灸治療センターを受診した新規患者2354例のうち、肩こり・頸部痛患者481例と腰痛患者452例を対象とした。調査項目は、年齢・性別・受診日・主訴とした。気象データは、2014年津気象台発表の気圧・降水量・気温・湿度・風向・風速・日照時間とした。解析は、性差、月別患者数と気象データとの相関とした。 【結果】新患2354中、男性941人(40.0%)、女性1413人(60.0%)であった。年齢は、53.3±19.1歳(平均値±標準偏差)であった。「肩こり・頸部痛」患者の月別推移は、全体では4月に59例のピークがあった。「腰痛」患者の月別推移は、4月に54例、6月に55例で ピークがみられた。「肩こり・頸部痛」については、全体で月別患者数と最小湿度との間に負の相関が認められた(相関係数-0.58、p<0.05)。「腰痛」については、男性で1時間最大降水量との間に正の相関が認められた(相関係数0.65、p<0.05)。 【考察および結語】「肩こり・頸部痛」では、月別患者数と最小湿度との間に有意な負の相関が見られたことから、湿度の低い日があると受診数が増加する可能性が示唆された。また「腰痛」では、男性について1時間降水量と月別患者数との間に有意な正の相関が認 められたことから、集中的な降雨があると腰痛での受診数が増加する可能性が示唆された。 キーワード:腰痛、肩こり、鍼灸、患者、気象データ 180 (11:40) 教科書に記載される五臓病証 『新版東洋医学概論』記載の五臓病証の検討教科書に記載される五臓病証 大分医学技術専門学校鍼灸師科 久保田晃一、木場由衣登 【目的】『新版東洋医学概論』2022年第1版第8刷に記載される五臓病証は中医学を基礎としているが、旧版や他の中医学の参考書に記載される病証、舌証、脈証と異なる点が多い。今回の調査では教科書に記載される病証を比較し、より深く理解するための検討を行った。 【方法】対象書籍は、(1)『新版東洋医学概論』2022年第1版第8刷、(2)旧版『東洋医学概論』2006年第1版第14刷、(3)城戸勝康著『東洋医学概論』1992年初版、(4)『基礎理療学I(東洋医学概論)』2019年改訂第6版第2刷、(5)『針灸学[基礎篇]』1998第2版第3刷、(6)神戸中医学研究会訳『中医学基礎』1977年初版、(7)『全訳中医診断学』2019年第7刷等とした。 【結果】1992年までの教科書では、寒熱虚実による臓腑病証が主流であった。国家試験が施行される1993年以降は、中医学の五臓病証が流入している。『新版』では、生理・病理、舌脈所見、弁証・鑑別のポイント別での記載が整備されている。しかし、中医学の病証として完備されていない点がある。病証の増減、記載すべき病証「肝鬱気滞の梅核気・腎陽虚の浮腫」の別項への記載、用語の注釈「目乾(目の乾き)・乾燥するが多く飲めない(口乾)」の記載の前後、抽象的な表現「爪の栄養障害・月経異常」の記載などが散見す る。また、『新版』の臓腑病証は、第2章「生理と病理」の第2節「蔵象」に早い段階で記載がある。 【考察】病証の記載は統一されておらず、『新版』の五臓病証は新たに、生理・病理、舌脈所見、弁証・鑑別のポイント別での記載の工夫がされている。さらに五臓病証をより深く理解するためには、前提となるべき、陰陽、五行、八綱、病因病機、四診の知識が必要 であるため、その知識を先に学ぶと理解しやすいのではないかと考える。 【結語】現状では中医学から学ぶが、病証の用語とその意味、背景の思想である陰陽や五行の基礎、八綱、病因病機、四診の知識を習得する必要があると考えられる。 キーワード:東洋医学概論、中医学概論、漢方概論、中医基礎理論、臓腑病証 181 (11:50) 疼痛に悩む育児中の女性に有用な対策の検討 1)帝京平成大学ヒューマンケア学部鍼灸学科 2)帝京平成大学東洋医学研究所 大澤佑斗1)、皆川陽一1,2)、宮崎彰吾1,2) 【目的】先行研究において、育児に伴い頸部や肩の疼痛を訴える女性の割合が増加するにもかかわらず、その対策は不十分であることが指摘されている。一方、疼痛は鍼灸臨床で最も遭遇することの多い症候であることから、私たちは「疼痛に悩む育児中の女性に有用な対策」を卒業研究の一環として検討することとした。 【方法】本学倫理委員会の承認(2023-117)を得て、指導教員が豊島区立東部子ども家庭支援センターで講師を務めた産後セルフケア教室に参加した育児中の女性8名から同意を得てアンケート調査を実施した。 【結果】回答した8名の年齢(平均±標準偏差)は34±5歳であった。子どもの数は1人が5名(63%)、2人が3名(38%)で、子ども(2人の場合は第2子)の年齢(月齢)は3.5±0.9であった。疼痛の訴え(複数回答)は、肩こりと腰痛が各8名(100%)と最も多く、手首の痛みが5名(63%)と続いた。疼痛に対して鍼灸を受けている者は1名(13%)で、受けてみたいと 回答した者は3名(38%)であった。鍼灸を受けてみたいと回答した3名に費用に関する質問をしたところ、「症状が軽減するなら、費用に応じて受けたい」、「症状が軽減するなら、費用に関係なく受けたい」、「公的保険があれば受けたい」とそれぞれ回答した。なお、 「費用に応じて受けたい」と回答した者に「理想とする1回当たりの施術費用」を尋ねたところ3000円と回答した。 【考察】定頸前後の子どもを育児中の女性には特に「肩こり」「腰痛」「手首の痛み」への対策を示す必要があることを確認した。また、「疼痛に悩む育児中の女性」の約3人に1人に鍼灸の潜在的な需要がある可能性が示され、この潜在需要を掘り起こすには、1回当 たり3000円以下の費用で対策を提供することが望ましいと考えられた。さらに、医療機関や施術所などで適切な処置を受ける余裕がない者も多いことから自宅で手軽にできるセルフケアも有用と考え、今後はその対策を考案し、実践したい。 キーワード:産後ケア、セルフケア、育児、アンケート、肩こり ポスター発表@(Sat-P2-11:00) 11:00〜12:00 COVID19関連 座長:恒松美香子 関真亮 015 (11:00) コロナ禍における鍼灸施術の状況に関する調査 パンデミック下での感染対策の状況 (公社)全日本鍼灸学会臨床情報部安全性委員会 恒松美香子、菅原正秋、新原寿志、上原明仁  菊池勇哉、高野道代、田口太郎、冨田賢一 仲村正子、福世泰史、福田晋平、宮脇太朗 森田智、古瀬暢達、山崎寿也、山下仁 【背景】今後の感染対策の基礎資料を作成することを目的に、新型コロナウイルス感染症パンデミック下での鍼灸治療院の感染対策の状況を明らかにする。 【方法】(公社)全日本鍼灸マッサージ師会、(公社)日本鍼灸師会、(公社)全日本鍼灸学会の各会員に電子メールでGoogle formを利用したアンケートへの回答を依頼した。質問内容はパンデミックの期間中(2020年初頭から2022年末くらいまで)の新型コロナウイルス感染対策とした。 【結果】328名から有効な回答を得た。感染対策の情報源は、厚生労働省(277名)、職能団体のガイドライン(191名)などが挙げられた。感染対策として、320名(97.6%)は換気対策を行っていた。320名(97.6%)は施術所内ではマスクを着用していた一方、患者への マスク着用を求めていたのは220名(69.8%)にとどまった。227名(69.2%)はフェイスシールドを使用しておらず、その理由としては、必要を感じなかった(166名)、コミュニケーションの問題(58名)などが挙げられた。284名(86.6%)は患者同士が密にならない措置をとっており、その方法としては、患者数の調整(187名)、待合室で患者同士が距離を空けて座る(82名)などが挙げられた。141名(42.7%)は手洗いをより頻繁に行うようになり、頻度が減った者はいなかった。214名(65.2%)は手指消毒をより頻繁に行うようになった。216名(65.8%)は施術時にグローブを使用せず、その理由としては施術操作に影響が出る(134名)、必要を感じなかった(127名)などが挙げられた。 【考察・結語】多くの鍼灸師は信頼がおける情報源を参考にして、その内容に従った必要な感染対策を行っていたことがうかがわれた。今後、感染対策に対する正しい意識を鍼灸師が共有するためのシステムも必要であると考えられる。 キーワード:新型コロナウイルス、パンデミック、感染対策、衛生操作、鍼灸施術 016 (11:12) 新型コロナウイルス罹患後症状の咳に対する鍼の一症例 喘息日誌による評価 1)常葉大学健康プロデュース学部健康鍼灸学科 2)とこは鍼灸接骨院 関真亮1,2)、福世泰史1,2) 【はじめに】過去、新型コロナウイルス感染症罹患後の咳に対する鍼治療の有効性を報告したが、自然軽快の可能性も否定できなかった。そこで今回、介入期間に改善後、無治療期間に増悪した症例を得たため報告する。 【症例】20歳女性。主訴:咳嗽。[現病歴]2023年3月X日39℃の発熱があり、医療機関を受診したところ、新型コロナウイルス感染が確認された。その後も痰がからみ、咳発作が数分間隔で続くため、X+30日に鍼治療を受診した。なお、医療機関での治療、自己判断 での服薬はなかった。 【評価】喘息日誌にておこなった。施術前5日間の朝昼夕夜合計20回「強い」「弱い」「なし」に記入した回数を評価した。介入:左右合谷穴の毫鍼(セイリン社製ステンレス針、15mm×0.10mm)、孔最穴と太渓への鍼(銀)、肺兪穴から脾兪穴までの硬結に対して鋒鍼(銀)での施術を加えた。施術頻度は週1回、1回の施術時間は20分程度とした。 【経過】介入前は「強い」13ポイント、「弱い」7ポイント、「なし」0ポイントであったが、介入1〜3回後に「強い」は7 4 0ポイントと漸減した。「弱い」は13 164ポイント、「なし」は0 0 0 16ポイントと改善した。そこで4回目(X+58日)の介入後に中断した結果、X+60日頃から咳が再び現れ始めた(夕夜で「強い」、朝昼で「弱い」)ため、X+62日に鍼による介入を1回実施。「強い」4ポイント、「弱い」16ポイントに改善した。その後に咳は消失し、現在まで再発はみられなかった。 【考察】介入中断後に症状が再発したことから鍼には何らかの効果があったことが示唆される。本症例においてコロナ罹患後の咳の発症メカニズムは確定していないため、鍼がどのような機序で影響を及ぼしたか不明である。しかし、咳喘息の原因として気道の炎症が 考えられているため、鍼が気道炎症に効果がある可能性も示唆される。 【結語】コロナ罹患後の咳に対して鍼が有効である可能性が示唆された。 キーワード:鍼治療、新型コロナウイルス、コロナ罹患後症状、後遺症、咳 017 (11:24) 知的障害者家族の心身変化にあはき師が継続的に関わった一症例 1)ここちめいど 2)治療院テラ 3)新潟医療福祉大学リハビリテーション学部 鍼灸健康学科 4)はりきゅう処ここちめいど 飯田通容1,2)、金子聡一郎1,3)、米倉まな1,4) 【目的】近年、知的障害や精神疾患などの患者を医療費増や人権擁護の観点から地域で過ごさせる傾向にある。そのため、介護を担う家族が日中のみならず夜間や休日さらに緊急時常に心身の負担を強いられ、疲弊してしまうケースが見られる。今回、重度自閉症の息子の見守りケアに加え感染症蔓延の影響でうつ症状を発症した患者に対し、継続的に介入することにより医療施設受診やフレイル予防などにつなげられた症例を経験したので報告する。 【症例】[主訴]易疲労性・興味の消失・食欲不振・体力低下、70歳、女性、自営業、身長154cm。[現病歴]重度自閉症の次男(40代)と二人暮らし。作業所への 送迎や自宅での見守り介護を担っている。近所に長男家族在住。X-18年より腰背部痛で来院。X年8月、本人は自覚していなかったが、つらさや怒りの感情ばかりを話すようになり、興味消失なども出現したことから心療内科の受診を勧めるも拒否、当院で可能な対策 の開始となった。[所見症状]脈:沈細微弱、随伴症状:下腿冷え、不安、肩背部はり感、家族歴:糖尿病。 【施術】弁証:脾腎陽虚、施術:鍼灸、指圧。 【経過】週に1回程度の施術を継続、心療内科の受診は拒否されたが糖尿病の家族歴をきっかけにX年10月近医内科受診を提案し糖尿病治療を開始。易疲労、興味消失、体力低下は残存、当院にて室内運動指導を行うと同時に家族に栄養面の協力を相談、家族と相談のうえX+1年6月に心療内科予約を行い同年8月にうつ病と診断、加療開始。その後は、当院、内科および心 療内科における加療を継続し当院イベント、孫の発表会、一泊旅行など行えるまで改善、気力体力も回復し減薬となった。 【考察および結語】障害者の介護を担う家族は心身ともに大きな負担を強いられる。精神的に追い詰められた介護者に寄り添い支える手段が重要と考えられる。 本症例では介護家族の心身の変化を継続的に観察介入することで専門医受診、症状の改善、体力回復への一助になったと考えられた。 キーワード:知的障害者家族、介護負担、コロナ渦、フレイル予防、うつ病 018 (11:36) コロナ禍が特別支援学校理療科臨床実習受療者の実態に及ぼす影響 1)筑波大学人間系(理療科教員養成施設) 2)筑波大学附属視覚特別支援学校 工藤滋1)、前田智洋2)、村田愛2) 【目的】視覚障害者を対象とする全国の理療関係学科設置校・施設では、コロナ禍による外来受療者の減少という状況下でも、臨床実習を継続していくために、学内教職員を対象とする施術を実施してきた。しかし、これまでにコロナ禍による受療者の実態の変化につい ての調査は行われていない。そこで生徒が体験不足となる点を明らかにすることを目的に調査を実施した。 【方法】2018〜2021年度の筑波大学附属視覚特別支援学校臨床実習室ののべ受療者3477人を対象に、基本属性、主訴、施術方法を集計し、コロナ禍前2年間とコロナ禍2年間の合計数を比較した。統計分析について、2項間の比較には正確二項検定、2水準の比較にはFisherの正確検定を用いた。 【結果】受療者数及びのべ受療者総数は、コロナ禍前が257人、2889人、コロナ禍が145人、587人で、いずれもコロナ禍の人数が有意に少なかった(p=.0000,両側検定)。基本属性では、コロナ禍において外来受療者、女性、高齢者の割合が有意に低かった(p=.0000, 両側検定)。また、主訴の上位3つについて、のべ受療者総数に占める比率を比較したところ、腰痛(p=.0011, 両側検定)、上肢・下肢の筋肉障害・運動障害(p=.0017, 両側検定)がコロナ禍において有意に少なかったのに対して、肩こりは有意差が認められなかった(p=.5425, 両側検定)。 【考察】臨床実習の受療者の減少は、コロナ禍による影響と考えられた。基本属性の変化は、学内受療者の増加によるものと考えられた。また、主訴において肩こりが相対的に増加したのは、テレワークの影響が関係した可能性が示唆された。 【結語】外来受療者の減少による臨床実習の体験不足を補うためには来療機会の少ない属性の受療者を、各生徒に偏りなく担当させるための予約管理が必要であると考えられた。 キーワード:視覚障害、新型コロナ、鍼灸、臨床実習、実態調査 019 (11:48) 教育機関のはりきゅう治療室におけるコロナ禍前後の患者の変化 コロナ禍前と5類感染症移行後の比較 筑波大学理療科教員養成施設 沖中美世乃、恒松隆太郎、工藤滋、濱田淳、徳竹忠司、和田恒彦 【目的】筑波大学理療科教員養成施設はりきゅう治療室は、教員養成課程および卒後教育の臨床実習として運営している。大学休校に伴い2020年4〜6月臨時休診、2020年7〜8月一部再開(休診前の予約者限定)、2020年9月新規患者受付再開(ベッドを半数に限定)、2021 年4月通常のベッド利用再開、2021年4月末〜6月末2回目臨時休診、その後は行動記録等の感染対策下で開設という対応とし、5類感染症移行後、通常運営に復旧 した。本研究ではコロナ禍直前と5類感染症移行後を比較し患者の変化を検討する。 【方法】受付会計システムの2011-2023年の患者来療記録2,529人59,011件から、来療件数、初診患者数、患者の来療頻度、継続日数を集計し、コロナ禍直前(2019年)と5類感染症移行後(2023年)の6月〜12月のデータを比較した。 【結果】毎月の来療件数は、2019年:405.3±36.8件(新患14.0±2.8人)/月、2023年:277±53.7件(新患8.2±3.1人)/月であり、来療件数、新規患者ともに2023年は有意に少なかった(p=0.000,0.007, Wilcoxon signed rank test)。各患者の来療頻度の中央値(四分位範囲)は、2019年:2.2(1-3)回/月、2023年:2.1(1-3)回/月で有意に減少(p=0.017)、継続日数の中央値(四分位範囲)は、2019年:1,086(143-2,034)日、2023年:1,256(119-1,924)日で有意差はなかった(p=0.831, Mann-Whitney U test)。2011〜2019年は、来療件数は平均446.2±120.1件(新患15.0±6.7人)であったが、1回目の臨時休診後の2020年7月は109件 (新患0人)、その後漸増し2020年12月に262件(新患8人)、2021〜2023年は平均279.8±48.1件(新患8.0±2.9人)で推移している。 【考察】2020年4月〜6月の臨時休診を機に、新規患者数の減少及び来療頻度が減少している。コロナ禍前から長期休診後も継続した患者は、継続期間の長さとの関連はなかったと考えられる。 【結語】コロナ禍直前と比較し、来療患者は有意に減少した状態が定常化している。 キーワード:コロナ禍、鍼灸治療、教育機関、患者数 ポスター発表A(Sat-P3-11:12) 11:12〜12:00 顔面神経麻痺 座長:山口智 034 (11:12) 陳旧性顔面神経麻痺後遺症に対する鍼治療の有用性 東京女子医科大学附属東洋医学研究所 高橋海人、蛯子慶三、木村容子 【目的】陳旧性顔面神経麻痺後遺症の評価方法として、専門医より動画撮影した画像を第三者が評価する方法が報告されている。今回、動画を用いて鍼治療の経過観察を行った症例を報告する。 【症例】51歳、男性。主訴は口動作時の右眼瞼裂狭小化と顔のこわばり。[現病歴]X年Y日、右顔面神経麻痺発症。Y+34日、ENoG0%のため顔面神経減荷術を施行。Y+67日、当研究所鍼灸外来を受診。順調に回復が見られたが、口動作時の右眼瞼裂狭小化と顔のこわばりが出現した。主に表情筋上の経穴へ15分間の置鍼を行い、治療期間中は日本顔面神経学会が推奨するリハビリテーションの指導も行った。上記主訴が発症18か月以降に鍼治療前後で変化するか後ろ向きに調査した。 【評価】発症18か月から24か月までの間、鍼治療前後に瞼裂比と顔面部不快感のVAS(顔のこわばり・つっぱり感)を評価した。評価は概ね4週に1回の頻度で計7行った。瞼裂比は、イー(イーと歯をみせる)、ウー(口笛)、プー(頬をふくらます)の口運動時の患側の瞼裂の上下幅と、健側の瞼裂の上下幅の比を百分率で求めた。なお、瞼裂比の評価は、術者以外の日本顔面神経学会リハビリテーション技術講習会認定試験合格者が、鍼治療前後に動画撮影した画像を静止画に変換し、ピクセル単位で計測した。 【結果】鍼治療前後で瞼裂比(%)の平均値は、イー:(90.4±4.0 95.6±2.7)、ウー:(86.5±3.0 88.3±9.0)、プー:(85.4±7.8 87.0±10.6)ともに増加した。また、VAS(mm)の平均値は、こわばり:(11.1±3.8 3.1±3.1)、つっぱり感:(8.6±2.6 2.4±2.3)ともに減少した。 【結語】動画を用いた第三者による評価法にて、陳旧性顔面神経麻痺後遺症に対する鍼治療の有用性が示唆された。今後、前向きに本方法を用いて症例を集積していきたい。 キーワード:顔面神経麻痺、鍼治療、瞼裂比、病的共同運動、こわばり 035 (11:24) 末梢性顔面神経麻痺の鍼治療期間後に形成外科手術に至った1症例 1)鍼灸サロンZouzou 2)東京大学医学部附属病院リハビリテーション部 会沢いずみ1)、林健太朗2) 【目的】末梢性顔面神経麻痺(麻痺)患者に発症後157日から366日の期間鍼治療を行い、その後形成外科手術に至った症例を経験したので報告する。 【方法】43歳、女性。主訴は麻痺側顔面部の痛み・つっぱり感。X年-157日左麻痺発症、X年-156日近医脳神経外科でベル麻痺と診断、柳原法10点。X年-155日より入院加療。X年-149日(発症後8日)NET値左右差2.7mA。X年-20日(発症後137日)T病院耳鼻科受診、柳原法12点、Electroneurography12.27%、NET値左右差16.4mA。X年-17日(発症後140日)T病院リハビリテーション科受診、病的共同運動を認め、痛みを伴う中等度麻痺と診断。X年(発症後157日)より顔面部痛み・つっぱり感軽減を目的に1、2週に1回全14回鍼治療実施。治療は10分間温熱療法、表情筋に30ミリ・12号で15分間置鍼、表情筋揉捏法と伸長マッサージ。セルフ ケアは表情筋伸長マッサージ・開瞼運動・バイオフィードバック療法を指導。評価は柳原法、Sunnybrook法病的共同運動点(病的共同運動点)、Facial Clinimetric Evaluation Scale(FS)を発症約5・7・9・12ヶ月の治療前、顔面部不快感はVisual Analog Scale(VAS)を5・7・9ヶ月の治療前後に実施。 【結果】柳原法(点)12、16、20、18、非治癒。病的共同運動点(点)7、11、11、13、FS(点) 28、26、24、29、VAS(mm)こわばり79→42 、83→12、86 →3、つっぱり感・痛み60→33、84→6、54→4、疲れ41→38、82→7、47→3。 【考察・結語】セルフケア指導を含めた鍼治療で治療直後を中心に顔面部不快感の軽減は認められたが、形成外科手術に至った。要因は麻痺残存、病的共同運動増強などによる患者のQOL低下が考えられた。 キーワード:顔面神経麻痺、ベル麻痺、後遺症、鍼治療、形成外科手術 036 (11:36) 末梢性顔面神経麻痺に対し鍼治療併用でQOL向上に寄与できた1症例 1)鍼灸サロンハリシア 2)東京大学医学部附属病院リハビリテーション部 遠藤伸代1)、林健太朗2) 【目的】末梢性顔面神経麻痺(麻痺)の後遺症は、患者のQOLを低下させる。今回、麻痺患者に対して発症後約3週目より鍼治療を開始し、QOLの向上に寄与できた症例を経験したので報告する。 【症例】57歳、女性、主訴は左顔面部の動きの少なさ。 [現病歴]X年-20日、左麻痺発症。近医耳鼻科にてBell麻痺と診断。入院でのステロイド点滴加療。X年Y月Z日(発症後20日)より鍼治療開始。鍼治療初診時所見、柳原法10点。X年+2日(発症後22日)、近医耳鼻科にてElectoroneurography値8%。 【鍼治療】鍼治療は、1〜2週に1回の頻度を基本とし、後遺症、特に顔面拘縮の予防・軽減を目的に行った。座位にて麻痺側にホットパックを10分間当て温め、仰臥位にて両側の側頭筋、麻痺側の前頭筋、皺眉筋、上唇挙筋、車軸点、口角下制筋、咬筋、大頬骨筋、小頬骨筋上に位置する経穴部に15分間の置鍼、表情筋のマッサージ、ストレッチを行った。セルフケアは、筋伸張マッサージおよびストレッチ、開瞼運動、ミラーバイオフィードバック療法、触覚を用いたフィードバック、日常生活上の注意点を指導した。鍼治療は、11か月間継続し、全29回行った。 【評価・経過】評価は、柳原法、病的共同運動、Facial Clinimetric Evaluation Scale(以下FS)を用いて、発症後3週、2・4・6・7・9・11か月時点に行った。 経過は、柳原法(点)10、30、34、36、38、40、40、病的共同運動は(-)、(-)、(+)、(+)、(++)、(++)、(++)、FS(点)は合計点48、63、61、64、57、59、67、顔面の感覚分野13、15、10、9、7、11、13、社会参加分野13、18、19、19、14、14、20であった。 【考察・結語】予後不良と考えられる麻痺患者に対して、定期的な鍼治療とセルフケア指導を他治療法と併用した。その結果、病的共同運動は中等度で推移したが、FSの顔面の感覚分野や社会参加分野においては維持改善を認め、患者のQOLの向上に寄与できた可能性が示唆された。 キーワード:末梢性顔面神経麻痺、後遺症、鍼治療、セルフケア、QOL 037 (11:48) Emotricsで表情筋麻痺を評価した末梢性顔面神経麻痺患者の1症例 1)埼玉医科大学東洋医学科 2)埼玉医科大学かわごえクリニック 東洋医学はり外来 堀部豪1,2)、山口智1,2)、小内愛1,2)、 井畑真太朗1,2)、村橋昌樹1,2) 【目的】末梢性顔面神経麻痺(PFP)患者に対する評価法は柳原法やSunnybrook Facial Grading System(SFG)が頻用されているが、検者間の評価のばらつきが指摘され課題が残ってる。今回、末梢性顔面神経麻痺患者に鍼治療の効果測定に、機械学習により作成 された顔面神経麻痺評価ソフトウェアであるEmotrics(Guarin et al, 2018)を活用したので報告する。 【症例】43歳女性。[主訴]右顔面神経麻痺。身長158cm、体重47kg。X-8月に右眼瞼の痙攣を自覚、X-7月に麻痺発症に気がついた。帯状疱疹や内耳神経症状は出現しなかった。同月下旬頃に近医脳神経外科受診し、頭部MRIで異常を認めず漢方薬を処方された。X-5月に近医耳鼻科受診しビタミンB12製剤を処方された。 X-3月中旬まで通院し、以降は通院しなかった。鍼治療を希望しX月に来院した。 [既往歴]特記事項なし。 [所見]顔面神経以外の脳神経および上下肢の神経学的所見は異常なし。陳旧性PFPであると考え、拘縮予防を目的に各表情筋に対して40ミリ16号単回使用鍼を用いた鍼治療および表情筋マッサージ指導を実施。 [治療頻度]週1回から2週1回。 【評価】柳原法(治療毎)、SFG複合点、Emotrics瞼裂幅(原則4週に1回)。 【経過】初診時は柳原法24点、SFG複合点83点、瞼裂幅は患側11.4mm、健側9.9mm、13診目には柳原法26点、SFG複合点74点、瞼裂幅は患側10.2mm、健側9.8mmだった。 【考察】柳原法やSFGは間隔尺度である。陳旧性PFP患者では麻痺の回復や後遺症が緩やかに進行するため、スコアの反応性が低いと考えられる。一方、Emotricsは客観的かつ量的に経過を捉えることが可能であることから、鍼治療の効果判定に有用である可能性が示唆 された。本研究は令和5年度本学会関東支部学術集会で発表したものである。 キーワード:末梢性顔面神経麻痺、鍼治療、Emotrics ポスター発表B(Sat-P4-11:00) 11:00〜12:00 スポーツ領域 座長:近藤宏 泉重樹 052 (11:00) 女子陸上長距離選手における大腿骨疲労骨折の1症例 鍼灸治療初診時に疲労骨折が疑われた事例 1)新潟医療福祉大学リハビリテーション学部 鍼灸健康学科 2)東京有明医療大学大学院保健医療学研究科 3)東京有明医療大学保健医療学部鍼灸学科 村越祐介1,2)、木村啓作1)、石井輝2)、藤本英樹2,3)、粕谷大智1) 【目的】初診時に疲労骨折が疑われた症例を報告する。 【症例】19歳女性。陸上長距離選手。主訴は左大腿部痛。[現病歴]X年-3月に右大腿骨の疲労骨折と診断された。診断時点で骨折部の癒合が確認できたため、その後の受診はなく経過観察となった。競技復帰後のX年-1月に5000mの大会に出場し、その1週間後に左大 腿部の痛みを自覚した。その痛みは練習後に自覚し、歩行時の違和感やjogでも痛みが生じる。 [所見]左内転筋群の圧痛や筋緊張あり、左片脚立ち可、左足ジャンプ不可、左大腿内側部のストレッチ痛、股関節屈曲、内転動作時痛なし。歩行時の違和感、jog時の痛みあり。 [推定病態]左内転筋の筋損傷と推察した。しかし、女性陸上長距離選手、疲労骨折の既往、片足ジャンプ不可であることから疲労骨折も疑われた。筋損傷と疲労骨折の両病態を踏まえ治療を開始した。なお、初診時にコーチと2人で来院されたため、症状の改善が得られない場合は病院を受診するように説明した。 【治療】左内転筋の筋損傷を疑い、圧痛や硬結部に対し鍼通電療法を15分間実施した。 【経過】鍼灸治療は計2回施行した。1回目の治療後に歩行時の違和感が軽減されたことから、翌日に2回目の治療を行った。しかし、jogや片足ジャンプは痛みのため困難であり症状は改善しなかった。そのため病院受診を勧めた結果、左大腿骨疲労骨折と診断された。 その後、コーチから「選手の希望もあり継続して治療をお願いしたい」と連絡があり、現在はリハビリの補助として鍼灸治療も継続している。 【考察・結語】競技特性や性別、既往歴などの問診情報や運動時痛などから疲労骨折を推察した。この症例からスポーツ選手に携わる鍼灸師は骨折などの医学的知識を有することも重要であると考えた。また、適切な対応が選手及びコーチとの信頼関係の構築にも繋がったものと考える。 キーワード:スポーツ、鍼灸、陸上競技、女性、疲労骨折 053 (11:12) 灸セルフケアが認知反応時間に与える影響―第2報― 森ノ宮医療大学医療技術学部鍼灸学科 宮武大貴、松熊秀明、鍋田智之 【目的】睡眠の改善を目的とした灸セルフケアが認知反応時間に与える影響について検討した。 【方法】研究内容について同意が得られたスポーツ競技歴のある大学生26名をエントリーし、研究開始時にピッツバーグ睡眠質問票(以下PSQI)6点以上の14名Mox=11 Cont=3)を分析対象とした。被験者はエントリー順に灸介入群(Mox)と対照群(Cont)にランダムに割り付けた。介入は週3回以上4週間継続して入床30分前までに無煙台座灸を上下肢の10か所(左右、太衝穴、太渓穴、足三里穴、内関穴、神門穴)に実施するよう指示した。介入期間前後にPSQIおよび日本語版エプワース眠気尺度(以下JESS)の記録、およびランダムに点滅する光源方向に移動するプロアジリティテスト(PAT 2方向)と、4方向全身反応計測を 実施した。本研究は森ノ宮医療大学倫理審査委員会の承認を得て実施した(2022-014)。 【結果】介入群においてPSQI(Mox 7.9±2.0 7.2±2.1改善6/11例)JESS(12.2±3.8 11.7±3.5 改善5/11例)と改善傾向を示し、PAT(-0.01±0.03sec)4方向(-0.03±0.05) と反応時間の短縮が認められた。ContではPSQI,JESS、反応時間ともに改善傾向は示さなかった。 PSQIとJESSは正の相関(r=0.62)を示し、4方向反応時間の改善とPSQI(r=0.45)、JESS(r=0.39)の改善も正の相関を示した。 【考察・結語】Mox群で反応時間の改善が認められ、反応時間とPSQI、JESSの改善に相関が認められることから、睡眠改善を目的とした灸セルフケアはアスリートのパフォーマンス改善に有用である可能性が考えられた。今後、主にContのサンプル数を増加させて分析を進める。 キーワード:灸セルフケア、認知反応時間、睡眠、運動パフォーマンス、プロアジリティテス ト 054 (11:24) アメリカンフットボールチームにおける鍼治療の試み 2年間のスポーツ外傷・障害を対象として 1)東京有明医療大学保健医療学部鍼灸学科 2)東京有明医療大学大学院保健医療学研究科 3)新潟医療福祉大学リハビリテーション学部 鍼灸健康学科 藤本英樹1,2)、石井輝2)、村越祐介2,3)、南雲世以子1) 【背景及び目的】スポーツ外傷・障害に対する鍼治療の効果についての報告はあるが、スポーツチームにおける鍼治療の試みや有用性に関する報告は少ない。本報告では、社会人アメリカンフットボールチームで生じたスポーツ外傷・障害に対して2シーズンを通して鍼治療を行い、有用性を検討することを目的とした。 【方法】対象は、2016年、2018年に社会人アメリカンフットボールチームAに所属していた92名(27.6±5.1歳)とした。鍼治療は、2年間の春シーズン(2月から6月)、秋シーズン(7月から12月)に生じたスポーツ外傷・障害を対象に行った。シーズン中の練習は、3回/週、3時間/日行っていた。練習、試合で生じたスポーツ外傷・障害はトレーナーもしくはチームドクターが評価、診断を行い、その中から必要と判断した場合に鍼治療を行った。鍼治療は選手の状態に合わせて、低周波鍼通電療法、置鍼、単刺、運動鍼、散鍼を行った。集計は、鍼治療を行ったスポーツ外傷・障害数・種類、部位などとした。 【結果】スポーツ外傷・障害に対する鍼治療は、総治療回数:248回、総選手数87名であった。鍼治療が対 象となったスポーツ外傷・障害数は137件であった。スポーツ外傷・障害の種類は、その他のスポーツ外傷・障害:67件(27.0%)、肉離れ/筋断裂:57件(23.0%)、関節炎:54件(21.8%)、関節捻挫/靭帯損傷:40件(16.1%)の順であった。スポーツ外傷・障害の部位は、大腿:66件(26.6%)、腰‐仙椎‐殿部:59件 (23.8%)、下腿・アキレス腱:41件(16.5%)、足関節:27件(10.9%)の順であった。鍼治療を行うタイミングは、練習・試合前:35回(14.1%)、練習・試合後:213回(85.9%)であった。 【考察及び結語】社会人アメリカンフットボールチームの選手に対して、2シーズンを通して鍼治療を行った結果、その他スポーツ外傷・障害や肉離れが多く、部位としては大腿部、腰‐仙椎‐殿部が多かった。こ れらの症状に対して鍼治療は有用である可能性が示唆された。 キーワード:鍼治療、スポーツ外傷・障害、アメリカンフットボール 055 (11:36) スポーツ・障害に対する鍼治療の疫学調査 アメリカンフットボール選手を対象として 1)東京有明医療大学大学院保健医療学研究科 鍼灸学分野 2)東京有明医療大学保健医療学部鍼灸学科 3)新潟医療福祉大学リハビリテーション学部 鍼灸健康学科 石井輝1)、藤本英樹1,2)、村越祐介1,3) 【背景および目的】スポーツ分野における鍼治療は治療的側面からの報告が多いが、疫学調査に基づく報告はない。本研究の目的は、社会人アメリカンフットボール選手を対象に、スポーツ外傷・障害の疫学特性と鍼治療の効果を疫学的に検討する。 【方法】対象は、社会人アメリカンフットボールチームAに2016年2月~11月まで所属していた選手63名(年齢27.8±5.6歳)とした。活動(スポーツ外傷・障害、鍼治療、活動状況)の集計は、トレーナーおよび鍼灸師が活動時に記録し、スポーツ外傷・障害のIncidence(injuries/1000Athlete-Hour) およびInjury Burden (Incidence×severity)などを算出した。スポーツ外傷・障害の種類は。スポーツ外傷・障害および疾病調査に関する提言書に準じて分類した。鍼治療(置鍼、鍼通電、運動鍼、単刺、散鍼)はチームDr.もしくはトレー ナーの評価を受けたのち、選手の状態に応じて行った。 【結果】Athlete-Hourは13,547時間(練習:11,090時間、試合:2,457時間)であり、スポーツ外傷・障害の発生件数は115件(練習:87件、試合:28件)であった。スポーツ外傷・障害のIncidenceは8.49件/AH(練習:7.84件/AH、試合:11.40件/AH)で、Injury Burdenは174.87(練習:154.64、試合:264.96)であり、練習時に比べて試合時の方が高かった。最も多く発生した疾患は大腿の肉ばなれ/筋断裂15件(13.0%)で、Incidenceは1.11件/AH、Injury Burdenは37.20であった。鍼治療の介入回数は117件で、多く介入した部位は腰-仙椎・殿部41件(35.0%)、大腿38件(32.5%)であった。鍼治療を介入したTime-loss injuryの中で、最も多く施術した疾患は大腿肉ばなれ/筋断裂8件(25.0%)で、Incidence は0.07件/AH、Injury Burdenは17.60であった。 【考察および結語】鍼治療を介入した大腿肉ばなれ/筋断裂のIncidenceおよびInjury Burdenの値が低くなっていることから、鍼治療はスポーツ外傷・障害の発生件数や競技離脱期間短縮への影響がある可能性が示唆された。 キーワード:スポーツ外傷・障害、鍼治療、アメリカンフットボール、疫学調査、Incidence 056 (11:48) 中学生へのスポーツを通した東洋医学的観点からの健康教育の試み 明治国際医療大学鍼灸学部 吉田行宏 【目的】スポーツとケガの関係は日常生活における健康と病気の関係に近いため、中学生に対して健康教育を行うためには、スポーツを通して行うのが近道であると考えられる。さらに、我々はそこに東洋医学的(未病・養生)な視点を加えた健康教育を実践している。今回、中学生に対して熱中症とケガ予防をテーマに健康教育を行ったので報告する。 【方法】京都府下の中学校5校で、熱中症に関する講義(5校:1年生509名)とケガ予防に関する講義(2校:2年生273名)を行った。熱中症の講義は「熱中症ってなに?」、「熱中症の対処法」、「熱中症を予防する」とし、身体の冷却や熱中症を予防するための生活習慣、ツボ押し等を行った。ケガ予防の講義は「ケガ予防の理解」、「中学生の健康に影響を及ぼす内容の理解」、「自分の身体を知り身体に変化を起こす方法を学ぶ」とし、身体のセルフチェックやストレッチ、食事や睡眠の日常生活に関する内容とした。どちらの講義も行ったA中学校で発行された「ほけんだより」から生徒の感想を抽出した。 【結果】熱中症の講義では「こまめに水分をとりたい」、「のどが乾く前に飲む」、「これからは暑さになれてい けるように努力したい」、「朝食をしっかりとる」、「足三里を押そうと思った」といった予防に関するコメン トがあった。ケガ予防の講義では「気づき・学び・継続が大切だということを知りました」、「健康というの は心と身体の両方が元気なことだとわかった」、「自分をコントロールすることが必要ということがわかりま した」といった自己管理やセルフコンディショニングに関するコメントがあった。 【考察及び結語】東洋医学的観点を含めた健康教育により、熱中症やケガをしてしまってから対処を考えるのではなく、そうならないためにはどうしたらいいのかを考えるきっかけを与えることができたと考えられ た。今後は全生徒に対する調査を行い、教育効果を明らかにしていきたい。 キーワード:中学生、健康教育、スポーツ、未病、養生