宮城大会 5月25日(土)午後 1)スケジュール 14時〜15時 ・高木賞授賞式・記念講演(14:00〜15:00 メインホール) ・教育講演2「理学療法士から見た鍼灸の役割」(14:00〜14:50 橘) ・シンポジウム2「診察ガイドラインにおける鍼灸の現状と今後の展望」(14:00〜15:20 萩) ・シンポジウム3「スポーツ委員会報告『若手アスレチックトレーナー・鍼灸師の現状と問題点』」(14:00〜15:20 白橿1) ・実技セミナー2「呼吸器疾患に対する鍼灸治療」(14:00〜14:50 白橿2) 15時〜16時 ・特別講演2「性差医療」(15:00〜15:50 メインホール) ・教育講演3「若い世代の学生をどう理解し、どう付き合うか」(15:00〜15:50 橘) ・シンポジウム4「多職種連携企画『地域医療(在宅医療)』」(15:30〜16:50 萩) ・実技セミナー3「『長野式治療法』と『キー子スタイル』」(15:00〜15:50 白橿2) ・ワークショップ1「有害事象文献レビューおよび鍼灸安全対策マニュアルの紹介」(15:30〜16:50 白橿1) 16時〜17時 ・教育講演4「認知心理学の観点から考える学習者支援」(16:00〜16:50 メインホール) ・教育講演5「多職種にも伝わるカルテの書き方」(16:00〜16:50 橘) ・実技セミナー4「末梢性顔面神経麻痺に対する鍼治療の実際」(16:00〜16:50 白橿2) 17時〜18時 ・教育講演6「医療機器である鍼灸針について」(17:00〜17:50 メインホール) ・報告1「鍼灸師への鍼灸団体に対する意識調査」(17:00〜17:50 橘) 2)各収録 14時〜15時 ・教育講演2「理学療法士から見た鍼灸の役割」(14:00〜14:50 橘) 座長:山田鍼灸治療院 山田愉生 演者:冨田健一 医療法人清生会谷口病院リハビリテーション科 理学療法士は名実ともに運動療法が主要な仕事。つまり理学療法士の目線で鍼灸の役割を考えた場合、それは運動療法への支援となる。では、運動療法への支援とは?それは患者が運動療法を滞りなく実施するために、阻害因子を極力減らすことである。運動療法が必要な患者には、個体・環境・運動課題の三つの問題点がある。そして鍼灸の役割には患者を中心として、ミクロとマクロな役割がある。このミクロな役割というのは個体への対処であり、マクロな役割は環境の把握である。そして運動課題は双方の要素がある。ミクロな役割とは、四診などを参考に、体調管理や徐痛を目的に鍼灸を施術する一般的な鍼灸師の活動であり、一見違和感は無いかもしれない。しかしながら常に運動療法を実施するタイミングや併用・進捗状況を考慮しながらの取り組みとなるため、運動療法の適応や方法に対する理解は不可欠となる。またマクロな役割とは、患者の主訴の要因となりうる家庭や居住地域の環境を把握し、対処することである。 このマクロな役割は訪問鍼灸であれば把握しやすいが、院内での治療を中心とする鍼灸師においても問診での把握は必須である。例えば30cmの段差昇降時に膝の疼痛があり、来院した患者がいたとしよう。筋力低下が著明であり30cmの段差昇降が困難な身体機能であれば、どれだけ素晴らしい鍼灸治療を施したとしても、何の解決にもならない。鍼灸治療をする時間があれば、ホームセンターでブロックを購入し、段差解消する方が最適解である。段差昇降に必要な筋力トレーニングを実施する方法もあるだろう。つまり鍼灸師だからといって、初めから鍼灸の施術を前提とするのではなく、患者の主訴の原因を把握し、鍼灸の範疇に囚われない対処ができなければ、主訴の原因を除去せずに鍼灸の直後効果だけを延々と提供する日々となってしまうのである。近年、我が国は地域包括ケアシステムに大きく舵を切りました。鍼灸師がその一部を担い地域で生き残るためには、従来の鍼灸師としての取り組みに加え、鍼灸の範疇を超える事例において、然るべき職種へ情報提供し速やかに対処するための幅広い知識とチームアプローチ(連携医療)を有効利用する能力が必要となります。今回の教育講演では地域における患者を中心としたミクロとマクロな鍼灸師の役割について提案します。開示すべきCOI関係にある企業はありません。 キーワード:連携医療、病鍼連携、チームアプローチ、多職種連携、地域包括ケア ●略歴 1998年 高知医療学院理学療法科卒業 1998年 明治国際医療大学附属病院リハビリテーション科入職 2007年 仏眼鍼灸理療学校鍼灸学科(夜間部)卒業 2009年 明治国際医療大学リハビリテーション科学ユニット助手 2017年 医療法人清生会谷口病院リハビリテーション科入職 ・シンポジウム2「診療ガイドラインにおける鍼灸の現状と今後の展望 〜専門医学会との連携と専門鍼灸師の育成に向けて〜」(14:00〜15:20 萩) 座長:埼玉医科大学東洋医学科 山口智  新潟医療福祉大学リハビリテーション学部鍼灸健康学科 粕谷大智 S2-1 昨今の診療ガイドライン事情−矛盾と課題 演者:大川祐世 森ノ宮医療大学医療技術学部鍼灸学科 森ノ宮医療大学鍼灸情報センター Mindsは診療ガイドライン(Clinical Practice Guidelines, CPGs)を“健康に関する重要な課題について、医療利用者と提供者の意思決定を支援するために、システマティックレビューによりエビデンス総体を評価し、益と害のバランスを勘案して、最適と考えられる推奨を提示する文書”と定義している。いわば現時点でのエビデンス(様々な臨床研究によって提示される科学的根拠)を網羅しそれに基づいて最良の医療選択肢を“オススメ”してくれるものがCPGsである(オススメにはその治療を行うこと、行わないことの両方向がある)。CPGsに強制力はないが、科学的根拠に基づく医療、通称EBM (evidence-based medicine)が主流の現代医学の中で、その推奨が医療の意思決定において非常に大きな重みを持つ。 我々はこれまで鍼灸について推奨を記載している国内CPGsを継続的かつ網羅的に収集し、その内容の妥当性やガイドラインそのものの質評価を行ってきた。その結果、それらのCPGsの質は必ずしも高くないことが示唆された。具体的には、事前に定義された基準とは矛盾する推奨(鍼灸についての過小評価)が作成されていたり、明らかに不適切な方法で作成された推奨が記載されていたりするという問題があることが分かった。そのような背景には標準的なCPGs作成手順が厳守されていないという初歩的な問題があると考えられた。さらに鍼灸の推奨に関していえば、鍼灸の特性やあらゆる事情を考慮してエビデンスを適切に解釈し、それを臨床の意思決定場面にまで落とし込むことができる専門家がCPGs作成メンバーに含まれていないことが課題である。そのような中で2021年に出版された慢性疼痛診療ガイドラインには本学会がCPGs作成メンバーとして参加した。これは大きな前進である。そして、その他にも鍼灸師がCPGs作成に関わる事例が近年増えつつあり、鍼灸に対する正当な評価が得られるようになってきた。今後、益々医療の中の一選択肢を鍼灸治療あるいは鍼灸師が担っていくためには、各専門医学会と連携し CPGs作成に鍼灸師が参入することが必須である。そのためには鍼灸のエビデンスを積み上げることも必要だが、各専門医学会において鍼灸あるいは鍼灸師に対する信頼を得るため、その成果を継続的に発信していくなどの地道な活動が同じくらい必要になってくるのではないだろうか。 キーワード:診療ガイドライン、CPGs、推奨、質評価、EBM 略歴 2014年 森ノ宮医療大学大学院保健医療学研究科修士課程修了修士(保健医療学) 2014年 森ノ宮医療学園専門学校入職 2015年 愛媛県立中央病院漢方内科鍼灸治療室臨時職員 2017年 森ノ宮医療大学入職鍼灸情報センター助教・鍼灸学科助教を経る 2023年 森ノ宮医療大学大学院保健医療学研究科博士後期課程修了博士(医療科学) 2023年 現職 S2-2 頭痛の診療ガイドライン改訂から考える多職種連携に向けた未来 演者:石山すみれ 茨城県立医療大学保健医療学部医科学センター 片頭痛に悩む患者は多く、日本人を対象とした片頭痛の疾病負担の調査では、約20%が中等度から重度の頭痛による障害があることが報告されている。さらに。頭痛発作がない発作間欠期においても、片頭痛の重症度(発作頻度)に相関して仕事や社会生活、無力感を感じるなど疾病負荷が高い疾患であることが注目されている。そのような流れの中で、薬剤だけでない非薬物療法が以前よりガイドラインに掲載されており、片頭痛において鍼灸治療は推奨グレードBにあった。さらに2021年、頭痛診療の中の鍼灸治療に大きな動きがあった。特記すべき点としては、CQその他の片頭痛の急性期治療薬にはどのようなものがあるか、という項目に補完代替療法として鍼治療が推奨グレードBとして記載されたことである。片頭痛急性期発作に対する鍼治療のシステマティックレビューでは、鍼治療が偽鍼治療よりも治療後2時間の頭痛消失率が高い可能性が示唆されている。試験の質や評価項目など改善すべき課題は多くあるが、ガイドラインの新たな項目に鍼灸治療が追加されたということは、こうした一つ一つの臨床試験が積み重なった結果である。2022年、本邦では初となる薬剤の使用過多による頭痛(Medication overuse headache; 以下MOH)の疫学研究が行われ、国内のMOH患者数は2.32%であることが報告された。MOHは予防可能な頭痛とされており、鍼治療を含む非薬物治療はガイドラインにおいて薬物療法に対する不応例、不耐例、禁忌例、患者の嗜好、妊娠中・授乳中の女性患者などに対して考慮されるが、薬物療法との併用や複数の非薬物療法の組み合わせにより単独治療に比べ一層高い効果が期待できる、と記載されている。片頭痛診療に携わる鍼灸師は、どの程度の知識を有しているのが望ましいのだろうか。私たちの職種に求められていることは「治療効果」だけなのだろうか。ライフスタイルの指導や服薬状況の確認など、患者と接する間の長い鍼灸師だからこそできることは、鍼灸治療以外にも多くあると感じている。本シンポジウムでは、ガイドラインで引用されている論文紹介、海外でのランダム化比較試験の現状、専門医と連携を取りながら国内での臨床研究の推進を行うために必要なことをまとめ、本学会のテーマである多職種を含めた「つながり」を広めるためにやるべきことについて皆様と一緒に考えていきたい。 キーワード:頭痛の診療ガイドライン2021、多職種連携、医鍼連携 ●略歴 2012年 新宿鍼灸柔整専門学校(現:新宿医療専門学校)卒業 2016年 筑波技術大学保健科学部附属東西医学統合医療センター研修修了 2017年 筑波大学大学院人間総合科学研究科フロンティア医科学修了 2021年 筑波大学大学院人間総合科学研究科疾患制御医学専攻修了 2022年 茨城県立医療大学保健医療学部医科学センター助教現在に至る S2-3 顔面神経麻痺診療ガイドラインにおける鍼治療の課題と展望 演者:堀部豪 埼玉医科大学東洋医学科 2023年5月に「顔面神経麻痺診療ガイドライン(以下、ガイドライン)」が発刊された。2011年に発刊された「顔面神経麻痺診療の手引き(以下、手引き)」から実に12年ぶりの改訂である。鍼治療の推奨度について、手引きでは「C2:科学的根拠がないので勧められない」であったが、ガイドラインでは急性期・慢性期ともに「弱い推奨」となった。また、顔面神経麻痺の治療フローチャートに鍼治療が組み込まれたことは、現代医療に鍼治療を位置付けるための大きな一歩である。一方で、ガイドラインに引用されている急性期顔面神経麻痺患者を対象とした鍼治療の文献のほとんどは海外、特に中国からの報告が大多数であり、ガイドラインでもバイアスの影響による過大評価の可能性が指摘されている。肝心の日本の文献は2000年の岡村らの準ランダム化比較試験のみが引用されており、その他の介入研究は渉猟した限り存在しない。また、慢性期については韓国とトルコの文献が引用されており、本邦からの質の高い報告はない。 つまり、鍼治療はガイドラインでは弱い推奨とされているものの、そのエビデンスの質は低く、また、本邦で実践されている薬物療法をはじめとする現代医学的治療と鍼治療の併用効果に関するエビデンスも不足していると言える。加えて、既知の通り、本邦の鍼灸治療における理論形態は様々なものが存在し、いわゆる標準的な鍼治療方法が存在しない。このことは顔面神経麻痺領域についても同様であり、顔面神経麻痺患者に対してどのような鍼治療が実践されているのかも不明である。これらのことから、顔面神経麻痺における鍼治療の実態を把握し、日本発の高品質な臨床研究を計画・実施し、本邦の実情に即したエビ デンスを構築することが急務であると考える。本講演では、ガイドラインの実情を概説した上で、顔面神経麻痺に対する鍼治療の課題と展望を述べる予定である。 キーワード:顔面神経麻痺、ガイドライン、鍼治療 ●略歴 2012年 明治国際医療大学鍼灸学部卒業 2014年 明治国際医療大学大学院博士前期課程修了修士(臨床鍼灸学) 2014年 埼玉医科大学東洋医学科(非常勤) 2016年 埼玉医科大学東洋医学科(専任) 【現職】埼玉医科大学かわごえクリニック東洋医学はり外来(兼担) S2-4 機能性消化管疾患診療ガイドライン ー過敏性腸症候群における鍼灸− 演者:谷口博志 東京有明医療大学保健医療学部鍼灸学科 過敏性腸症候群(IBS)は、腸に炎症・潰瘍・内分泌異常などが認められないにも関わらず、慢性的に腹痛と便通異常、あるいはそのいずれかが、3ヶ月の間に間欠的に生じるかもしくは持続する疾患である。本邦におけるIBSの有病率は6.1〜14.0%と報告されており、鍼灸臨床でも遭遇しうる疾患の1つである。警告症状、危険因子、通常臨床検査、大腸検査で異常がなく、IBSのRome IVの定義「繰り返す腹痛が、少なくとも診断の6ヶ月以上前に出現し、最近3ヶ月で少なくとも週に1日あり、1)排便に関連する、2)排便頻度の変化に関連する、3)便形状(外観)の変化に関連する、の3項目のうち2項目以上を伴うもの」を満たすものがIBSと診断される。IBSには感染性腸炎、ストレス、腸内細菌・粘膜透過性亢進・粘膜微小炎症、神経伝達物質・内分泌物質、心理的異常、遺伝などが関わるとされ、複数の病態が複雑に絡みあい発症することがわかっている。鍼灸治療によるIBS改善の可能性は、ラットを用いた基礎研究により先 行して示されてきた。足三里への鍼刺激は正常な結腸運動時にはBarrington核を介した骨盤神経による平滑筋運動亢進が示されている。また、コルチコトロピン放出因子の脳室内投与やストレス負荷により誘発された結腸運動の過剰亢進に対し足三里への鍼刺激は、脳内のオキシトシンを介した正常化作用が生じると報告されている。このようにIBSの1因子であるストレスを用いたモデルラットに対する鍼刺激による改善作用が示されている。一方、2020年に『機能性消化管診療ガイドラインー過敏性腸症候群(IBS)』が発刊され、「IBSに補完代替医療は有用か?」との問いの一部として鍼灸が取り上げられ、鍼と灸ともにRCTやメタアナリシスでの有効性を示しつつ、標準治療法または抗うつ薬にうまく反応しなかった場合の代替療法として鍼治療を行うことを提案するにとどまっている。ガイドラインではIBSと関わる各々の病態に対する治療法について推奨度が明示されており、推奨度が高いものの中には、基礎研究分野における結腸運動異常の改善や上位中枢を介した機能改善などが示されている。鍼灸治療の作用機序から考えると、これらの病態に対する臨床効果は十分に示せるものと示唆される。しかしながら、未だIBSに対する 本邦からの質の高い臨床研究は出されていない。これが実現することで、ガイドラインにおける鍼灸治療の立ち位置が確立されていくものと期待される。 キーワード:機能性消化管疾患診療ガイドライン−過敏性腸症候群(IBS)、過敏性腸症候群、 鍼灸、体性−自律神経反射 ●略歴 2002年 明治鍼灸大学卒業 2007年 明治鍼灸大学大学院博士後期課程修了(鍼灸学博士) 2007年 明治鍼灸大学基礎鍼灸学教室助教 2007年 デューク大学外科学教室特別研究員 2008年 ウィスコンシン医科大学外科学教室ポストドクトラルフェロー 明治国際医療大学基礎鍼灸学講座助教 2017年 東京有明医療大学保健医療学部鍼灸学科講師 S2-5 過活動膀胱診療ガイドラインにおける鍼治療の現状とエビデンス 演者:伊藤千展 烏丸いとう鍼灸院 明治東洋医学院専門学校鍼灸学科 過活動膀胱(Overactive Bladder: OAB)は、2002年に国際禁制学会により定義された尿意切迫感を必須症状とする症状症候群である。日本排尿機能学会の調査によると、OABの有症状率は40歳以上人口の14.1%と、現在の人口構成から1000万人を超えることが推定され、実際に鍼灸臨床においても高頻度に遭遇する愁訴の一つとなった。さらに近年、OAB症状が広範にわたるQOL低下をきたすことや、フレイルや認知機能低下との高度な関連性も大きな問題となっている。過活動膀胱に対する治療は、ここ10年ほどで大きく発展し、2022年改訂の過活動膀胱診療ガイドライン第3版ではいくつかの治療の位置付けが見直された。治療の根幹をなす薬物療法については、従来の抗コリン薬に加え、β3受容体作動薬が推奨グレードAとなり治療薬選択の幅は拡大された。また薬物治療抵抗性の尿失禁例に対してはボツリヌス毒素膀胱壁内注入療法やニューロモデュレーションの一つである仙骨神経刺激療法が保険適応となったことも大きな話題となった(いずれもグレードA)。一方、鍼治療は2015年に改訂された過活動膀胱診療ガイドライン第2版に「そのの保存療法」として初めて収載された。推奨グレードC1(行っても良い)と明示されたことは大きな一歩であったが、2022年改訂の第3版では引き続きC1にとどまる結果となった。その論拠には、第2版で引用された2005-15年報告のランダム化比較試験(Randomized controlled trial: RCT)3編の結果が引き続き用いられている。しかしながら、OABに対する鍼治療の臨床研究は2015年以降も報告が増加しており、2022年にはコクランにより、成人のOABに対する鍼治療のRCT15編(鍼vs無治療:1編、鍼vs sham鍼:5編、鍼vs骨盤底筋訓練:2編、鍼vs抗コリン薬:11編、総参加者1395例)に基づく系統的レビューが報告された。OAB症状の改善効果について、sham鍼との比較による有意性は示されなかった(SMD-0.36, 95%CI -1.03 to 0.31; 3編; 151例)ものの、抗コリン薬(ソリフェナシン、トルテロジン)との比較では、鍼治療は有意に症状改善/治癒を増加させた(RR1.25, 95%CI 1.10 to 1.43; 5編; 258例)ことなど、新たな知見も蓄積されつつあり、今後の推奨度格上げが期待される。本シンポジウムでは、過活動膀胱の病態とともに、過活動膀胱症状に対する鍼治療の有効性についてエビデンスを共有し、泌尿器科医療の中での鍼灸の役割について議論を深める機会としたい。 キーワード:下部尿路症状、過活動膀胱、鍼治療 ●略歴 2010年 明治国際医療大学鍼灸学部卒 2012年 明治国際医療大学大学院鍼灸学研究科博士前期課程修了 2009-2020年 中安外科クリニックリハビリテーション科 2012-2014年 泌尿器科上田クリニック 2013-2014年 国際東洋医療鍼灸学院鍼灸学科非常勤講師 2015年 烏丸いとう鍼灸院開院 2021年 明治東洋医学院専門学校鍼灸学科非常勤講師 ・シンポジウム3「スポーツ委員会報告『若手アスレチックトレーナー・鍼灸師の現状と問題点』」(14:00〜15:20 白橿1) 座長:法政大学スポーツ健康学部 泉重樹  立教大学スポーツウエルネス学部 吉田成仁 演者:玉井伸典1)、川口健太郎2)、斉藤海3)、村越祐介4)、細井聡5) 1)国立スポーツ科学センタースポーツ科学・研究部 2)呉竹学園東洋医学臨床研究所 3)西早稲田整形外科 4)新潟医療福祉大学リハビリテーション学部鍼灸健康学科 5)学校法人滋慶学園東京メディカル・スポーツ専門学校 日本アスレティックトレーニング学会と全日本鍼灸学会スポーツ鍼灸委員会が東京大会(2022年)、神戸大会(2023年)において合同で開催したシンポジウムはいずれも会場が満席になるほど盛会となり、スポーツ現場における他職種連携、つまり鍼灸師、アスレティックトレーナー(以下AT)に対するニーズと役割分担に関する議論を深める良いきっかけになったと考えている。その一方で若手の鍼灸師やATたちが順風満帆に現場活動や臨床活動、さらに研究を行っているとは言い難い面がある。今回のパネルティスカッションでは両学会の委員がモデレーターとなり、全国各地で活躍している若手鍼灸師/ATをパネリストとして、彼ら彼女らの現状や抱えている問題などを報告してもらい、現状把握とともに改善策等を議論する場を設けたいと考えている。多職種、多競技、多施設に従事する鍼灸師/ATの立場からの様々な意見を汲み取り議論することでアスリートサポートを目的とした職場環境の改善や多職種連携の最適化、そしてアスレティックトレーニングならびにスポーツ鍼灸のエビデンスの構築に寄与することを企図している。 キーワード:アスレティックトレーニング、鍼灸師、スポーツ、アスレティックトレーナー ●略歴 ■玉井伸典 2016年 帝京短期大学ライフケア学部柔道整復専攻卒業 2017年 東京医療専門学校鍼灸マッサージ科T部卒業 2018年 東京スポーツ・レクリエーション専門学校アスレティックトレーナー養成科卒業 2019年 筑波大学理療科教員養成施設卒業 2019年 人間総合科学大学大学院人間総合科学研究科心身健康科学専攻修士課程修了 2022年 筑波大学大学院人間総合科学研究科スポーツ医学専攻3年制博士課程修了 2022年 現職 ■川口健太郎 帝京大学医療技術学部、東京医療専門学校卒業後、整形外科クリニック併設ジム、大学アメリカンフットボール部と野 球部に勤務。 JSPO-AT、鍼師、灸師、あんまマッサージ指圧師 帝京大学体育局サッカー部選手兼トレーナー(2016-2018) ノースアジア大学明桜高等学校サッカー部(第99回高校サッカー選手権) 関東第一高等学校サッカー部(第100回高校サッカー選手権) ■斉藤海 2017年 法政大学スポーツ健康学部卒業 2017年 花田学園日本鍼灸理療専門学校入学 2018年〜2021年 ホッケー男子U 21日本代表 2019年〜 西早稲田整形外科リハビリ科 2020年 花田学園日本鍼灸理療専門学校卒業 2021年〜 ホッケー男子日本代表 ■村越祐介 2018年 東京有明医療大学保健医療学部鍼灸学科卒業 2020年 東京有明医療大学大学院保健医療学研究科博士前期課程卒業 2023年〜 新潟医療福祉大学リハビリテーション学部鍼灸健康学科助教 トレーナー活動 2018〜19年 社会人アメリカンフットボールXリーグアサヒビールシルバースター (現オリエンタルバイオシルバースター) 2019年〜 千葉県私立昭和学院中学校女子バスケットボール部 ■細井聡 筑波大学体育専門学群、日本鍼灸理療専門学校卒業後、東京学芸大学蹴球部アスレティックトレーナー、ジュビロ磐田 アスレティックトレーナーを経て、2020年より現職。 はり師、きゅう師、あんまマッサージ指圧師、JSPO-AT、NSCA-CSCS 元Jリーグトレーナー会代表(2017〜2020)、サッカー日本代表(2020〜現在)、女子サッカー日本代表アスレティックトレーナー(2023)など_ ・実技セミナー2「呼吸器疾患に対する鍼灸治療」(14:00〜14:50 白橿2) 座長:池岡クリニック・池岡鍼灸院 小西未来 演者:前倉知典 前倉鍼灸院 独立行政法人国立病院機構大阪刀根山医療センター 医療法人上野会上野会クリニックリハビリテーション科 鍼灸治療は、慢性閉塞性肺疾患(COPD)を中心に様々な呼吸器疾患で応用され、疾患特異的な症状の改善に用いられている。我々は、COPD患者において鍼治療(週1回を12週間、計12回)が、労作時呼吸困難感を改善し、呼吸標にどのような変化を与えるかを、CPETを用いて評価した。CPETの漸増負荷試験(IET)において運動終了時の酸素摂取量と運動終了時の分時換気量が増加し、定常負荷試験(CWRET:at 70% peak of the IET)では運動時間が大幅に延長し、運動終了時の酸素摂取量と酸素抽出能(吸気酸素濃度-呼気酸素濃度)、isotimeでのBorg scaleは有意に改善した。鍼治療を受けたCOPD 患者は少ない酸素消費量と換気量で運動を行えることを示し、COPDに対する鍼治療の効果は、主に運動中の筋肉での酸素利用効率改善と必要換気量の減少が、労作時呼吸困難感の改善と運動時間の増加に寄与していた。鍼治療は、COPD患者に有益で安全な介入である。 また、食欲不振を訴える慢性呼吸器疾患患者10例(非結核性抗酸菌症6例、COPD1例、肺リンパ管筋腫2例、特発性間質性肺炎1例)に対して、入院中に鍼治療(週3回を3週間、計9回)を行い、その効果を検討した。介入により、食欲不振は改善し、1日の平均食事摂取量(Kcal)は1461から1696へ、血中Alb(g/dl)値は3.3から3.5へと有意に増加した。鍼刺激による食事摂取量の増加は、体性-内臓反射中心による消化管運動の改善と、交感神経緊張を緩和し胃腸などの消化酵素の分泌が改善した結果、慢性呼吸器疾患患者の食欲不振は改善し、食事摂取量が増加したと考える。一方で呼吸器疾患患者への刺鍼による気胸のリスクは、他疾患に比べても高く、重症度が増すと痩が進行してさらに高くなる。このような患者では、気胸が生死に関わることから、安全性に十分留意する必要がある。例えば、痩た(BMI 16程度)COPD患者の中府穴をエコーで描出すると、体表から7mmで小胸筋筋膜へ到達し、壁側胸膜まで16.9mmあった。 この為、我々は、気胸予防策として胸部CT画像と超音波エコーを用いて、事前に刺鍼深度を測定して使用鍼などを決定している。 気胸による医療事故は、毎年のように報告があり、本実技セミナーを通じて呼吸器疾患に対する鍼治療に加えて、刺鍼による気胸リスクについて、先生方と一緒に考えさせて頂く機会になればと切に願っている。 キーワード:呼吸器疾患 ●略歴 2012年 明治国際医療大学鍼灸学部卒業 2013年 明治国際医療大学臨床鍼灸学講座研究生 2015年 明治国際医療大学博士前期課程修了(修士:鍼灸学) 独立行政法人国立病院機構刀根山病院研究員 2016年 医療法人上野会上野会クリニックリハビリテーション科 前倉鍼灸院 2017年 一般社団法人メディカルフィットネス協会 滋慶医療科学大学院研究員 大阪ハイテクノロジー専門学校非常勤講師 15時〜16時 ・特別講演2「性差医療」(15:00〜15:50 メインホール) 座長:中和医療専門学校 清水洋二 演者:小宮ひろみ 国立成育医療研究センター 女性の健康ナショナルセンター設立準備室 性差医療とは、男女比が圧倒的に一方の性に傾いている病態、発症率はほぼ同じでも、男女間で臨床的に差をみる疾患、生理的、生物学的解明が男性または女性で遅れている病態、社会的な男女の地位と健康の関連などに関する研究の結果を疾病の診断、治療法、予防措置へ反映することを目的とした医療と定義されている。すなわち、性差医療では、種々の疾患や病態での受療率、罹患率、死亡率に注目し、さらに男女間で臨床的に差をみる疾患(代表例としては、虚血性心疾患がある。虚血性心疾患は閉経前の女性では、男性に比較すると罹患率は低いが、閉経後10年が経過すると、男性にキャッチアップし、最終的には発症率は男女で変わらない)に注目し原因分析を行う。さらに、性差医療は、生物学的性だけではなく、ジェンダーを重視する医療である。性差医療を実践する臨床の場が女性外来である。女性外来は、従来の女性医療にジェンダーの視点を導入した。日本に女性外来が初めて設置されてから20年以上が経過したが、患者を心身両面から総合的な診療を提供し、ジェンダーやライフステージを意識した医療を実践している。 女性外来の特徴として、完全予約制、診療の時間を十分に確保し(初診30分以上)、担当医師も同性が話しやすいという患者さんも多く、ほぼ女性医師が担当している。当院の女性外来は2004年に設置され、2008年性差医療センターとして診療体制を強化した。現在、婦人科、心身医療科、乳腺外科、内科、歯科口腔外科の女性医師が、one-stop型の総合医療を提供している。当センターの特徴はNarrative Based Medicineの実践、漢方療法、多職種連携である。特にコ・メディカルは専任の看護師と医療事務が配置され、トリアージや電話対応など重要な役割を果たしている。女性外来の意義を理解し、患者に対応できるコ・メディカルの存在は治療効果を向上する。女性は補完代替療法の有用性が報告されており、女性外来は、生物学的性差とジェンダーの知識を有する多職種の医療従事者が活躍できる分野である。近年、ジェンダード・イノベーションという概念が注目されている。性差分析という新しい手法を取り入れることで、研究や技術開発の革新を目指している。性差を常に考慮することで、医学・医療、国民の健康に寄与することが性差医療に課せられた使命と考える。 キーワード:性差医療 ●略歴 1986年 山形大学医学部附属病院入職 1996年 山形大学医学部免疫・寄生虫学講座助手 1998年 米国ベイラー医科大学分子細胞生物学博士研究員 2001年 福島県立医科大学産婦人科入職 2008年 福島県立医科大学産婦人科講師 福島県立医科大学附属病院性差医療センター部長 2010年 福島県立医科大学医学部准教授 2014年 福島県立医科大学附属病院漢方内科部長 2017年 福島県立医科大学附属病院性差医療センター教授 2024年 国立成育医療研究センター女性の健康ナショナルセンター設立準備室理事長特任補佐 ・教育講演3「若い世代の学生をどう理解し、どう付き合うか」(15:00〜15:50 橘) 座長:仙台赤門医療専門学校 宍戸新一郎 演者:本田伊克 宮城教育大学教育学研究科 「世代」の違いによって、私たちは一見同じ場所にて、同じ出来事を経験しているようでも、実は考えていること、感じていることは違います。もちろん、私たち一人ひとりはそれぞれの考え方や感じ方をもち、お互いの違いを尊重しながら生きていくほかありません。しかし、世代によって、おおよそ、考え方や感じ方に違いがみられることも確かです。どんな時代に子供時代を過ごし、あるいは青年期を過ごしたかということは、今生きている時代に生起する出来事の意味をどのように捉えるかという点で、より若い世代との認識のギャップも生み出します。 大学教員として30近くも年の離れた学生と接している一人として、若い世代は自分のときと考え方も感じ方も違うなと思うところも多々あります。さすがに、30も違う世代の人たちと同じ波長でコミュニケーションはできませんが、自分の世代にはない発想や、優しさやいたわりの気持ちも感じます。何より、同じ人間として尊重し合う関係性を築こうとすることで、私自身、人との関りが豊かになります。 若い世代のことをどう理解し、付き合っていけばよいか。皆さんと考える機会になればと思います。 キーワード:世代効果、若者文化、Z世代 ●略歴 2009年 一橋大学大学院社会学研究科博士課程修了 2011年 宮城教育大学教育学部准教授 2015年 宮城教育大学教育学研究科准教授 2020年 宮城教育大学教育学研究科教授 ・シンポジウム4「多職種連携企画『地域医療(在宅医療)』」(15:30〜16:50 萩) シンポジウム4 他職種連携企画「地域医療(在宅医療)」 座長:はり・きゅう・マッサージ仙台けんえい訪問院 栗和田健規 はぎの鍼灸院 萩野利赴 S4-1 仙台市の在宅重度障害者を支える連携の仕組み 演者:遠藤美紀 喀痰吸引等第1号2号3号登録研修機関くりはら介護塾 現在仙台市内のいたるところで、重度の障害を抱えた方々が気管切開をして人工呼吸器を着け生活をされている。その生活を多職種が連携をして支えている。私が保健師として働き始めた平成3年には、介護保険制度もなく介護が必要な方のお世話は家族が中心であった。しかし高齢化が急速に進み介護は個人で支えるから社会で支えるに変わり、平成12年に介護保険制度ができた。私もケアマネ資格を取り4年ほどケアマネ業務にも携わった。その後ご縁があり、平成22年から往診専門クリニック(以下往診とする)で働き始めた。当時600人程の往診をしていたが、驚いたことに約1割の50人程が気管切開をして人工呼吸器を着けて家で普通に暮らしておられた。普通にというのは語弊があるかもしれないが、パソコン等でコミュニケーションをし、胃ろうから食事を摂り、さらに好みのお酒を楽しむ姿もあった。院長先生は「生活なんだからお酒を飲むのも当たり前」と、健康面に配慮しながら飲酒も了解されていた。また「人工呼吸器は妻(夫)より大事な伴侶」など、これまで怖さを感じていた医療に対して全く別の考え方を学んだ。私が医療の素人である介護職に医療的ケアを伝えられるのは、往診での学びがあったからに他ならない。そして入職した翌々年、介護職員の喀痰吸引等の制度ができ、国主催の指導者養成講習を受け往診の研修機関として介護職の研修を開始した。制度ができたことは喜ばしいことであったが、重度の障害をお持ちの方々を支えるには内容が不十分であった。しかし往診の院長先生は、制度化される以前から「吸引は業である前に人助けである」という「緊急避難」の考え方を介護職の方へ伝えて育て、障害の方や家族を支えておられた。そのため仙台では十年以上も前から独居の全身麻痺、人工呼吸器、胃ろうの方を多職種が支える仕組みができている。シンポジウムでは仙台での現状について紹介させていただきたい。 キーワード:医療的ケア、多職種連携、在宅医療介護、重度障害 ●略歴 1990年 国立習志野病院附属看護学校卒業 1991年 宮城県総合衛生学院公衆衛生看護学科卒業 2010年 仙台往診クリニック勤務(2013年〜介護職員喀痰吸引等第3号研修担当) 2018年 介護職員喀痰吸引等第1号2号3号研修機関「くりはら介護塾」開設 【資格】 1990年 看護師免許取得 1991年 保健師免許取得 2001年 介護支援専門員(ケアマネジャー)資格取得 2018年 喀痰吸引等指導者資格取得___ S4-2 福島県奥会津地域における在宅医療と鍼灸 演者:津田恭輔 福島県立医科大学会津医療センター附属研究所漢方医学研究室 2020年7月に高齢化、医療過疎が著しい福島県奥会津地域(柳津町・三島町・金山町・昭和村の4町村が対象)において、福島県、県立病院、当院の協働で在宅医療を展開する奥会津在宅医療センターが設立された。奥会津在宅医療センター長より当研究室に奥会津地域の在宅医療における訪問鍼灸診療の誘致があり、2021年4月より参画し、訪問鍼灸診療を実施してきた。本シンポジウムではその活動内容の概要を経験した症例を交えて報告する。奥会津在宅医療センターは、医師3名、看護師5名、事務員1名、ドライバー2名体制で訪問診療、訪問看護を中心に提供しており、対象は4町村の在宅医療の希望があり、基準を満たした住民である。4町村の人口は約7000名、高齢化率は50%を超える限界集落で、4町村の面積は770km2と広大であるが、医療機関は県立病院1施設、国保診療所3施設で、常勤医師は5名の医療過疎地域である。訪問鍼灸診療は、2021年4月に開始し2023年1月末日まで、週1回の頻度で行った。鍼灸対象者は奥会津在宅医療センターで在宅医療を受けている患者が中心で、医師からの紹介を経て、訪問鍼灸診療が開始となる。延べ患者数は17名[男性9名、女性8名]、平均年齢は83.7歳[標準偏差7.15]、開始時主訴は腰痛6例、肩痛3例、労作時呼吸困難3例、頸部痛2例、四肢痺れ2例、膝痛1例であった。平均治療回数は17.2回[15.1]で、全体の総鍼灸診療回数は293回、転機は在宅での居住継続15例、入院2例、内1例が病院で死亡の転機をとった。また、金山町において、健康状態と鍼灸治療についてアンケート調査を実施した。健康状態については、健康関連QOLをSF-8(SF8 Health Survey)で評価し、鍼灸治療のついては、先行調査を基に作成した調査票を用いて行った。結果は、全体で153名(男性40名、女性113名)からアンケートを回収した。全体の平均年齢は77.0[標準偏差8.2]歳(男性76.8[9.1]歳、女性77.1[8.0]歳)であった。SF-8における全体の平均身体的サマリスコアは44.9[7.7]、平均精神的サマリスコアは50.4[6.3]であり、身体的な問題を抱えている住民が多く含まれていた。鍼灸治療については、「知っている」と回答したのは125名(82%)であったが、「受けたことがある」は48名(32%)と多くの住人は認識しているが、受けたことがないことが分かった。一方で、「受けてみたい」と回答したのは82名(55%)で潜在的なニーズがあることが分かった。 キーワード:地域医療、在宅医療、鍼灸 ●略歴 2018年 明治国際医療大学鍼灸学部卒業 2018年 福島県立医科大学会津医療センター附属病院鍼灸研修 2023年 福島県立医科大学会津医療センター附属研究所漢方医学研究室研究員現在に至る S4-3 長野県伊那市営長谷鍼灸治療所の紹介と多職種連携 演者:大木島さや香 伊那市役所 長谷総合支所 市民福祉課保健福祉係 技術主査/長谷鍼灸治療所 院長 伊那市営長谷鍼灸治療所は、2004(平成16)年に当時の長野県上伊那長谷村に設置されました。長野県内には公営の鍼灸治療所が3つありますが、長谷鍼灸治療所は行政組織の中に組み込まれた珍しい施設です。 開設当初、かつての長野県上伊那郡長谷村は、人口2000人ほどで高齢化率40%にせまる、まさに日本の未来図ともいえる地域で、村おこしと住民の健康的な生活を実現するため、医療・心理学者・行政がタッグを組んで保健福祉活動を行っていました。さらに東洋医学的視点も取り入れたいという要望から、漢方専門医・鍼灸治療所がその中に仲間入りしました。 市町村合併によりその枠組みは現在変化していますが、通常の鍼灸施術のほかに、市役所保健師や社会福祉協議会、自治会などとともに活動する機会が得られ、新たな連携のアイデアを模索しています。今回の発表では、これまでの経緯と現在の様子をご紹介したいと思います。 キーワード:地域医療、多職種連携 ●略歴 1996年 明治鍼灸大学鍼灸学部卒業 1996年 日産厚生会玉川病院東洋医学研究センター研修生 1998年 東京女子医科大学附属東洋医学研究所勤務 2004年 長野県上伊那郡長谷村役場長谷鍼灸治療所勤務 2006年 市町村合併により伊那市役所長谷総合支所となる S4-4 地域診療における漢方治療の役割 在宅診療、高齢者施設診療での漢方薬の活用 演者:齊藤奈津美 東北大学病院総合地域医療教育支援部・漢方内科 地域診療、とりわけプライマリ・ケアの現場では、日常生活やライフサイクルの中で直面する症状や疾患に対応していくことが必要不可欠である。在宅診療や高齢者施設での診療では、病院や診療所などでの外来診療よりも更に身体機能の低下した高齢者が患者となる。そのため、とりわけ加齢に関連した様々な症状・病態に直面することとなる。 高齢者に見られる特徴を二つ挙げる。一つ目は高齢者には多くの疾患が併存していることである。在宅診療へと至る時、複数の医療機関や診療科での治療を一手に担うこととなる。その際に、高齢者では処方薬剤数が増加した状態であるポリファーマシーが顕在化することが多々ある。高齢者薬物治療ガイドライン2015は抗精神病薬や睡眠導入薬、解熱鎮痛薬、緩下剤などの投与中止を推奨しているが、処方薬に中止が推奨されている薬剤が多く含まれていることが少なくない。加齢による身体および臓器の機能低下など から処方薬による有害事象のリスクを考慮する必要があり、在宅診療ではそれまでの処方薬を整理しながら全身状態を維持することが求められる。 二つ目は、高齢者では認知症やフレイルなどの加齢に伴う臓器や生理機能の低下によって多彩な身体症状が出現してくることである。そのため適切な薬物治療を選択し、症状緩和を図っていく必要がある。 近年、高齢者の臓器および生理的加齢による諸症状に対する漢方治療のエビデンスも蓄積されており、漢方治療が活用できることも多くなっている。また、漢方薬を用いることでリスクの高い処方薬を中止することができる可能性もある。 今回は登米市立上沼診療所での在宅診療および高齢者施設診療における臨床経験を踏まえて、漢方治療の介入をした症例を提示し、在宅診療や高齢者施設診療における漢方治療の活用法と注意点などを述べていく。 キーワード:在宅診療、プライマリ・ケア、漢方薬、ポリファーマシー ●略歴 2009年 横浜市立大学医学部卒業 2012年 釧路赤十字病院臨床研修医修了 2015年 国立病院機構相模原病院呼吸器アレルギー科 2015年 登米市立上沼診療所 2018年 栗原市立栗原中央病院内科 2022年 東北大学大学院医学系研究科博士課程修了 2023年 東北大学病院総合地域医療教育支援部・漢方内科助教 【資格】プライマリ・ケア連合学会家庭医療専門医・指導医、日本病院総合診療特任指導医、総合診療専門医特任指導医  ・実技セミナー3「『長野式治療法』と『キー子スタイル』」(15:00〜15:50 白橿2) 座長:仙台赤門医療専門学校 川嶋睦子 演者:村上裕彦 長野式研究会 尚古堂 故長野潔先生が体系立てられた長野式治療法は、主たる診断が脉診です。 大分市在住のため、近隣では学ぶ機会もほとんど無く、交通手段も限られオンデマンドも無い時代では、中央の勉強会に参加することも出来ず、書籍を読み臨床で試行錯誤しながら経験を重ねていく以外にありませんでした。更に視力障碍者でもあり、学ぶ環境はより困難を極めたかと思われ、診断が脉診に依るのは当然だったのかも知れません。 師に付いて学ぶ機会が無かったために、先生の脉診は独特のものがあり、論文を『医道の日本』誌に長年にわたって投稿されたにもかかわらず、反応が無く理解されることもほとんどありませんでした。一方、アメリカで鍼灸学校の講師をされていた松本岐子氏は、自らの治療を高め、新たな鍼灸治療法を学生に教えるために、休暇には日本に戻り『医道の日本』誌に掲載されている著名な鍼灸師に教えを乞い新たな知識を吸収していきました。 そこで長野先生に出会われ、生涯の師として学ばれることになりましたが、臨床を学ぶ時に、先生の脉診を会得する困難さにぶつかります。松本氏は、当時『Hara Diagnosis』(腹診)という古今東西の腹診についての著書があり、腹診についてのオーソリティであり、長野先生の脉診を腹診から理解しようと試みられます。長野先生は脉診が主たる診断ですが、先生の著書には、脉診だけではなく腹部や背部などの所見も同時に書かれていることが少なくありません。 例えば、先生の著書『鍼灸臨床新治療法の探究』の慢性膵炎の治療についての項では、〔慢性膵炎の脉状は「細・軟・沈・遅」であり、症状は「右期門」〜「左期門」にかけての帯状の圧痛があり…〕と書かれています。松本氏は、この腹診の部分を慢性膵炎の腹診所見としています。この様に、松本氏は長野先生の腹診を加え、また、臨床では刺鍼する前にその効果の有無を確認するクロスチェックという方法を使用し、初心者にも分かり易い治療法を確立しました。 長野式治療法をベースにしたこの治療法は「キー子スタイル」と呼ばれ、松本氏は十数ヵ国でセミナーを行い、ハーバード大学でも講師を務められています。長野式治療法が比較的短い期間に広く認知されることになりましたのは、松本氏が長野先生の脉診を腹診に翻訳したことがあります。 今回の私の治療も、キー子スタイルを中心とした長野式治療法で行います。 キーワード:長野式治療、松本岐子 ●略歴 1980年 日本鍼灸理療専門学校卒 1993年 故長野潔先生に師事 1994年 長野式研究会(後に、長野式研究会&w-key netと改称)を主宰 2002年〜 東京衛生学園専門学校 2008年〜2018年 神奈川県立精神医療センター東洋医学研究室非常勤鍼灸師 2008年〜 東京医療専門学校・鍼灸マッサージ教員養成科 2014年〜2018年 東京衛生学園専門学校・臨床教育専攻科 2018年〜 神奈川衛生学園専門学校 2019年〜 横浜市立盲特別支援学校※以上、非常勤講師__ ・ワークショップ1「有害事象文献レビューおよび鍼灸安全対策マニュアルの紹介」(15:30〜16:50 白橿1) ワークショップ1 安全性委員会ワークショップ(臨床情報部主催) 「有害事象文献レビューと鍼灸安全対策マニュアルの紹介」 座長:東京有明医療大学保健医療学部鍼灸学科 菅原正秋 演者:菅原正秋1)、福世泰史2)、宮脇太朗3) 1)東京有明医療大学保健医療学部鍼灸学科 2)常葉大学健康プロデュース学部健康鍼灸学科 3)鈴鹿医療科学大学保健衛生学部鍼灸サイエンス学科 (公社)全日本鍼灸学会臨床情報部安全性委員会では、継続して鍼灸の有害事象に関連した文献の収集を行っている。そして、4年ごとにこれを集計し、文献レビューとして全日本鍼灸学会雑誌に投稿している。今回のワークショップの前半では、学会員への情報提供と注意喚起を目的として、2020年から2023年に発表された鍼灸の有害事象文献の中から、いくつかの注目すべき事例を抜粋し、紹介する。 また、我々は委員会活動の一環として2020年に鍼灸安全対策ガイドライン2020年版(以下、ガイドライン)を公開している。このガイドラインは、前述の鍼灸の有害事象文献レビューを基に作成しており、鍼灸臨床において安全性を考慮して実施すべき事項あるいは慎むべき事項を簡潔に記載してある。しかしながら、記載が簡潔であるため、臨床における具体的な対処法や予防策などが明記されていなかった。そこで、今回、我々はガイドライン基づいた臨床を実践するために、「鍼灸安全対策マニュアル(以下、マニュアル)」を作成し、刊行することとした。ワークショップの後半では、ガイドラインとの関係性を示しつつ、いくつかの有害事象への具体的な対策についてマニュアルに記載されている内容を紹介する。 本マニュアルが刊行された際には、学会員諸氏にご一読いただき、日々の臨床における安全対策の参考 としていただければ幸いである。 キーワード:有害事象、文献レビュー、鍼灸安全対策ガイドライン、鍼灸安全対策マニュアル ●略歴 ■菅原正秋 2013年 東京医療保健大学大学院医療保健学研究科博士課程修了博士(感染制御学) 2009年 東京有明医療大学保健医療学部鍼灸学科助教 2014年 東京有明医療大学保健医療学部鍼灸学科講師 同大学院保健医療学研究科講師 ■福世泰史 2013年 明治国際医療大学大学院(通信教育課程)修了修士(鍼灸学) 2008年 アスレ鍼灸接骨院勤務 2009年 常葉学園医療専門学校附属とこは鍼灸接骨院勤務 2013年 常葉大学健康プロデュース学部健康鍼灸学科勤務 ■宮脇太朗 2002年 明治鍼灸大学鍼灸学部鍼灸学科卒業 2007年 明治鍼灸大学大学院鍼灸学研究科博士後期課程修了博士(鍼灸学) 2013年 専門学校ユマニテク医療福祉大学校鍼灸学科学科主任 2021年 鈴鹿医療科学大学保健衛生学部鍼灸サイエンス学科助教(現職) 16時〜17時 ・教育講演4「認知心理学の観点から考える学習者支援」(16:00〜16:50 メインホール) 教育講演4 座長:学校法人明治東洋医学院専門学校 福田文彦 演者:藤江里衣子 藤田医科大学 医学部医療コミュニケーション 皆さんの目の前に、学習成果が上がらないという学生や研修生が現れた時、その原因は何だと思いますか?まず思いつくのは、学習時間の少なさかもしれません。しかし、十分な学習時間を確保しているにもかかわらず、それが結果に表れない場合、教育者としては何をすれば良いのか、頭を悩ませた経験のある方も少なくないのではないでしょうか。 この背景にはいくつかのことが考えられます。一つは臨床心理学的背景です。すなわち、何らかの情緒的苦痛や精神疾患などメンタルヘルス的な課題をベースとした学習への取り組みの不安定さが見られる場合です。 もう一つが、学習方法の不適切さです。これは、身につく学習方法を知らない場合と、得意・不得意のばらつきがあることから、学習したことが成果に結びつきづらい場合が考えられます。この時、学習者が抱える困難を考えるヒントを与えてくれるのが、認知心理学の視点です。今回は、こちらに焦点を当ててお話ししていきます。 本教育講演では、まず最初に、記憶の多重貯蔵モデルを基盤とし、記憶のプロセスとその途上で生じ得る躓き、およびその対策を紹介します。これは、情報が感覚記憶、短期記憶を経て、長期記憶として定着するまでの流れを示したもので、各段階への移行を促進するポイントがあります。 さらにこのモデルは、得意・不得意のでこぼこが大きい発達障害のある学習者の支援についても、多くの示唆を与えてくれます。このため今回は、発達障害の特徴も説明し、先のモデルから、学習の具体的なサポートとしてどのような方法が考えられるかをお伝えします。 そして最後に、メタ認知についてもお話しします。メタ認知とは、自分の内面的な動きや自身が置かれている状況を俯瞰して見ることです。学習に限らず自らの行動を見直し、調整するためには、メタ認知が非常に重要となります。 みなさまが学習者支援を行う際に、本講演が相手の困難を理解する一助となることを願っています。 キーワード:認知心理学、記憶の多重貯蔵モデル、学習者支援 ●略歴 2004年 東京大学教育学部教育心理学コース卒業 2009年 名古屋大学大学院教育発達科学研究科心理発達科学専攻博士課程後期課程満期退学 2014年 名古屋大学大学院医学系研究科地域総合ヘルスケアシステム開発寄付講座助教 2019年 藤田医科大学医学部医療コミュニケーション講師 ・教育講演5「多職種にも伝わるカルテの書き方 鍼灸師らしさと読みやすさを両立するために」(16:00〜16:50 橘) 座長:新潟医療福祉大学 リハビリテーション学部鍼灸健康学科 金子聡一郎 演者:佐藤健太 札幌医科大学総合診療医学講座 千歳市民病院総合診療科 医師にとってのカルテ(診療録)は、記載する法的義務があるだけでなく、頭の中の情報や思考を書き出すことで自身の脳内を客観視して「論理的思考能力を鍛え上げるためのツール」である。また、全世界共通のルールに基づいて蓄積されたデータは、業界全体の底上げのために必要な「臨床研究の基礎データ」にもなる。したがって、医師育成においては、ひとり立ちするまでに標準的なカルテ記載法を習得することが必須となっている。 また、昨今の高齢化に伴って患者が抱える問題も多領域にまたがるようになり、施設内外で様々な専門職と連携することが求められている。多職種協働が必須となる急性期病院内においては、自分のためのメモではなく「他の職種が読んで理解できるカルテ」を書き、共通言語でコミュニケーションできることは必須条件である。 一方で鍼灸師の場合は、施術録記載の法的制約がないことや、卒前教育や卒後生涯学習のなかで施術録記載について系統的に学ぶ機会が少ないこと、医療系専門職と診療録を共有する機会に乏しいこともあり、各々が独自のルールで記載しているのが現状と思われる。 実際に、鍼灸師の記載した施術録や手紙(診察依頼状や療養費同意書など)を読んでも病状や依頼内容をうまく読み取れず、直接の会話や電話であればすんなりニーズをつかめるという場面もたびたび経験する。 そこで本講演では、「医師・看護師と共通のカルテ記載フォーマット」の基本を学びつつ、「鍼灸師としての見立てや思考過程を記載し、医師とは異なる鍼灸の独自性を反映させるヒント」も提示する。提示された情報を参考にしながら各々の診療環境でどう再現するかを考えていただくことで、「自分しか読めない施術メモ」からレベルアップし、自身の生涯学習を加速しつつ、多職種コミュニケーションに参加できるような『他職種が読んで理解できる、鍼灸師らしいカルテの型』をイメージできることを目指す。 キーワード:診療録、カルテ、多職種協働 ●略歴 2005年 東北大学医学部卒業 2005年 勤医協中央病院臨床初期研修・総合診療後期研修 2011年 勤医協札幌病院内科・総合診療科科長・副院長 2020年 札幌医科大学総合診療医学講座診療医 2022年 札幌医科大学南檜山地域医療教育学講座特任助教 2024年 千歳市民病院内科 【資格】総合内科専門医・総合診療専門医、リハビリテーション認定医 【著書】「型」が身につくカルテの書き方 ・実技セミナー4「末梢性顔面神経麻痺に対する鍼治療の実際」(16:00〜16:50 白橿2) セミナー4 座長:鍼灸まる 古田大河 演者:堀部豪 埼玉医科大学東洋医学科 末梢性顔面神経麻痺は顔面神経が核下性に障害されることで生じる表情筋麻痺を主症状とし、Bell麻痺やRamsay Hunt症候群に代表される。これらの予後は軸索変性の程度によって大きく異なる。軸索変性が軽度であり、Sunderland分類におけるGrade 1や2では、一過性の伝導障害または軸索の障害に止まることから、後遺症なく早期に治癒する。一方で、Grade3以降では、神経内膜や神経周膜が障害されることから、軸索の迷入再生をきたす可能性が高く、中でも重度の神経変性を認めた場合、表情筋麻痺が残存する症例も少なくない。表情筋麻痺の評価法には、柳原法が存在する。柳原法は、安静時対称性と9つの表情筋運動をそれぞれ確認し、40点満点で評価するものである。柳原法は顔面神経麻痺診療ガイドラインで規定される表情筋麻痺の治癒判定基準にも採用されている。また、10点以下の完全麻痺と12点以上の不全麻痺では治癒率が異なる報告もあり、そのために予後予測にも活用されている。よって、柳原法は鍼灸臨床においても実践したい評価法である。末梢性顔面神経麻痺に対して鍼治療を実施する際、上述の通り重症度を勘案して施術をする必要がある。具体的には、柳原法による予後推定や、顔面神経をターゲットとした鍼通電刺激によって得られる表情筋収縮反応の程度によって重症度を推定する。特に中等症から重症例については、後遺症が出現することから、表情筋への鍼治療による後遺症抑制に加えて患者自身による表情筋マッサージ等のセルフケアが重要である。本実技セミナーでは、顔面神経麻痺の評価法である柳原法を実践し、評価法を再確認いた上で、当科で実施している病期・麻痺の程度による鍼治療の実際を紹介する。 キーワード:末梢性顔面神経麻痺、柳原法、鍼治療 ●略歴 2012年 明治国際医療大学鍼灸学部卒業 2014年 明治国際医療大学大学院博士前期課程修了修士(臨床鍼灸学) 2014年 埼玉医科大学東洋医学科(非常勤) 2016年 埼玉医科大学東洋医学科(専任) 現職 埼玉医科大学かわごえクリニック東洋医学はり外来(兼担) 17時〜18時 ・教育講演6「医療機器である鍼灸針について」(17:00〜17:50 メインホール) 座長:東京有明医療大学 保健医療学部鍼灸学科 木村友昭 演者:西村直也 セイリン株式会社国内営業部営業課 日常、私たちが手にする「鍼灸針」とは、いったいどのようなデバイスなのか。「鍼体」なる細長い金属の先端に「鍼尖」なる鋭利加工がされ、「鍼柄」なる持ち手部分が組み合わされた物。そんな言葉だけにすると単純な物を、有資格者が人体に刺鍼することで様々な生体反応を引き起こすデバイスとなる。ところが臨床現場、学校教育においては使用方法や手技等の技術面が注目され、「鍼灸針」自体へ関心を持つ機会は少なく「鍼灸針」がデバイスとなるまでの背景、法規制等の取り巻く環境の多くは知られていない。本講演では少しでも医療機器デバイスである「鍼灸針」について、関心を抱いていただけるように下記の観点から解説する。 1.鍼灸針のターニングポイント日本国内においてディスポーザブル鍼灸針が普及した背景 2.鍼灸針の関連法規医薬品医療機器等法・日本産業規格(規格番号:T9301) 3.鍼灸針のリスクマネジメント添付文書(添文ナビ)・鍼灸安全対策ガイドライン キーワード:単回使用毫鍼、添付文書、安全性、リスクマネジメント ●略歴 2010年 鈴鹿医療科学大学鍼灸学部卒業 同年 セイリン株式会社国内営業部営業課 2019年 セイリン株式会社国内営業部医療・企画推進課 2024年 セイリン株式会社国内営業部営業課 ・報告1「鍼灸師への鍼灸団体に対する意識調査」(17:00〜17:50 橘) 報告1 教育研修部企画 座長:相澤はり・きゅう・マッサージ治療院 相澤啓介 演者:鈴木沙有理1,2)、松本修1,3)、松尾知美1,4)、中川善貴1,5)、川本譲司1,6)、加用拓己7)、福田文彦8)、鈴木雅雄7) 1)日本理学療法器材工業会 2)セイリン株式会社 3)株式会社日本特殊医科 4)株式会社いっしん 5)株式会社山正 6)株式会社カナケン 7)福島県立医科大学会津医療センター附属研究所漢方医学研究室 8)明治国際医療大学鍼灸学講座・明治東洋医学院専門学校 全日本鍼灸学会の会員数は2022年度の報告書では5,069名であり、鍼灸関連学会では会員数が最も多い。一方で、就業鍼灸師の全体数は、2020年度の報告では126,798人となっており就業鍼灸師全体からすると加盟率は3.99%と決して多くない状況にある。矢野らが2008年に日本鍼灸師会会員を対象に行った調査では、1,555名中704名(45.3%)が全日本鍼灸学会に入会しているが、544名(35%)は鍼灸学会を含む鍼灸関連学会や研会などに所属をしていないことがわかった。所属しない理由としては、「会に所属しなくても(総会)参加はできるから」という回答が最も多く得られていた(37.1%)。 今回、日本理学療法器材工業会鍼灸部会が中心となり、学術団体や業団体に所属していない鍼灸師も含めた幅広い層の就業鍼灸師を対象として、アンケート調査を実施し、改めて就業鍼灸師が業界関連団体に求めているニーズを探ることにした。また、矢野らが一般住民を対象として行った調査研究から見えてきた国民が求める鍼灸治療の受療要件に関連した内容(安全性、適応の根拠、専門性の公表、医療連携、認定鍼灸師について)を就業鍼灸師がどのように考えているのか等を調査している。これらの調査を基に、鍼灸学術団体、鍼灸業団体のより一層の活性化を図り、国民の鍼灸治療受療率の向上を目指すべく、本報では、これらのアンケート調査結果について発表する。 キーワード:意識調査 ●略歴 2019年 赤門鍼灸柔整専門学校鍼灸指圧科卒業 2019年 セイリン株式会社勤務 現在に至る